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29ー1本だけの精霊樹

「弱っているなのれす。ピュリフィケーションと、ヒールなのれす」

「よし。ぴゅりふぃけーしょん、ひーりゅ」


 ハルがそう詠唱すると、白く輝く光が精霊樹を包み込み、ゆっくりと消えていった。


「おッ。ハル、俺にも精霊樹が見えるようになったぞ」

「よかっちゃ、ちょっち元気になったな」

「たくさん枯れてしまったなのれす」

「ぶもも」

「ひぽ、しぇいれいじゅうはいりゅのか?」

「ぶもぉッ」


 ヒポポが一声鳴いた。すると……


「ありゃ、ちっせーな」

「こりゃなんだ?」

「お、今までで1番小さいんじゃないか?」


 皆が覗き込む中心に小さな小さな精霊獣がヒラヒラと浮いていた。


「こりぇ、おしゃかなしゃんか?」

「いや、ハル。魚とも少し違うだろう?」

「なんら??」


 ハルが『?』なのも無理はない。目の前に現れた精霊獣はまるでクリオネの様な見た目をしていた。体長10センチもあるだろうか。まあ、本当のクリオネよりはかなり大きい。プニプニとした身体は綺麗な青空の様なスカイブルーなのだが向こう側が透けて見え半透明だ。チューリップの様な頭には小さな角が2本。まるで翼の様にひょこひょこと動いているのは手か? ひれか? そして足らしきものは見当たらず、身体の先っぽにはやはり小さな3枚の葉っぱがついている。手の様な翼を動かして浮いている。


「ちっせーけろ、弱っちいかりゃつんつんできねーな」

「ハル、小さいとなんでもつんつんするのは止めろな」

「ぶもぶも」

「え、しょうなんら」

「ハル、ヒポポは何と?」

「じーちゃん、このせいれいじゅうは長生きなんらって」

「そうか、こんなに小さいのにな」

「ぶもも」

「しょっか。頑張ってたんら」


 本当はもっと沢山の精霊樹があったらしい。想像もできないほどの長い年月が過ぎ、少しずつ枯れていったのだろう。今ではたった1本だ。頑張って枯れずに残っていた精霊樹。力なく輝きも弱くなり、それでも残っていた最後の1本だった。間に合って良かった。


「精霊樹の実を植えるなのれす」


 コハルが何処からともなく精霊王からもらったクリスタルのりんごを取り出した。それは淡いパステルグリーンの光を放っているように見える。そして、コハルの両手のひらから精霊樹の実はフワリフワリと地面へと吸い込まれていく。


「いっぱい植えるなのれす」


 コハルが次々と精霊樹の実を取り出す。すると、不思議な事にフワリフワリと移動し地面へと吸い込まれていく。

 小さな白い子リスが、何処からともなく両手のひらにパステルグリーンに淡く光るクリスタルのりんごを取り出す。それがフワリと地面へ吸い込まれていくのだ。幻想的とでもいうのだろうか。不思議な光景だった。


「長老、広範囲でピュリフィケーションと、ヒールなのれす」

「よし、分かったぞ」


 長老が魔法杖を出し地面を軽く小突いた。エルフは皆、常に自分専用の魔法杖を何処かに持っている。ちびっ子のハルもだ。世界樹の枝から作った長老お手製の魔法杖を髪飾りに刺している。魔法杖は大きさを自由に変えられるんだ。リヒトなんかはピアスにしている。

 長老のそれは、グリーンにゴールドが煌めくオーヴのついたエンブレムの魔法杖だ。それを掲げながら詠唱する。


「ピュリフィケーション……ヒール」


 まるで麦畑全体に行き渡る様に、白く輝く光が下りてきて地面へと消えていった。するとまた驚いた事が起こった。

 ついさっき、コハルの手から離れて地面へと消えていった精霊樹の実。それが見る間に芽吹き、若木へと育ったんだ。まだ成木とは言えないが、どれも力強くキラキラと光っている。


「驚いた……」

「ええ、本当に」

「凄いわ、なんて神秘的なの」

「え? 何なん?」

「だからね……」


 シュシュがカエデに一連の出来事を話して聞かせている。カエデは何も見る事ができない。コハルが手に持っていた精霊樹の実でさえ、見えないんだ。残念だ。


「めっちゃ残念やわ」


 そうだろう、そうだろう。


「じーちゃん、しゅげー」

「そうかそうか、じーちゃんは凄いか。ワッハッハッハ」


 長老、曾孫に褒められてご満悦だ。

 しかし、エルフで1番魔力の多い長老が魔法杖を出したんだ。全力でピュリフィケーションと、ヒールをしたのだろう。これ、麦には影響ないのか?


「コハル……」

「ちょっと大きくなって沢山できるかもなのれす」


 影響があったよ。良い影響だから良しとするか?


「あ、美味しくなるなのれす」


 もういいぞ。あまり影響がないに越したことはない。


「ぶもぉッ」


 またヒポポが一声鳴いた。すると、新しい精霊樹からクリオネのような小さな精霊獣がフワリフワリと出てきた。

 彼方此方から、わらわらとハルに向かってくる。


「お、いっぱいら」


 ハルが両手を広げる。そこに精霊獣が沢山寄ってきた。


「ヒールなのれす」

「よし、ひーりゅ」


 また白く輝く光が精霊獣を包み込み、ゆっくりと消えていった。


「元気になったなのれす」

「よかっちゃ」


 精霊獣が見えないものから見ると、ハル自身が光って見える。


「ハル、キラキラしてるぞ」

「いっぱいなんら。元気になったんら」

「そりゃ良かった。で、聞くのを忘れたら駄目だぞ」

「なんらっけ?」

「ハル、精霊女王だろう」

「じーちゃん、しょうらった」


 ヒポポがぶもぶもと鳴きながら聞いている。時折、頭を上下に動かしている。話をしているのだろう。平たい尻尾についている小さな3枚の葉っぱもヒョコヒョコと動いている。


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