27ーあんしゅてぃのしゅ
「かぁえぇりゅぅのうたがぁ、きこえてくりゅよぉ、くゎッくゎッくゎッくゎッ、けりょけりょけりょけりょ、くゎッくゎッくゎッ♪」
ハルがご機嫌にお歌を歌っている。イオスに抱っこされながらお手々もフリフリして振り付きだ。超ご機嫌じゃないか。どうした?
「りゅしか、りゅしか。大福まら食べねーのか?」
「ハル、朝ごはんを食べたばかりですよ。まだまだです」
「ん、しゃーねー」
どうやらルシカの大福を楽しみにしている様だ。本当、最近よく食べる。
「今日の大福はなんらろなぁ〜」
「ハル、さっきの歌は何だ?」
「じーちゃん、かえりゅしゃんの歌ら。幼稚園れ習うんら」
「ようちえん? とは何だ?」
「えっちょ、学校へ行く前の小しゃな子供が通うんら」
「学校に入る前にもあるのか?」
「ん、お勉強はちょびっとらけろな。お歌とかぁ、お絵かきとかぁ、おしょとれ遊んだりしゅりゅんら」
「ほう」
「いおしゅ、いおしゅ、あの枝かっちょいいじょ」
「どれだ?」
「あしょこ」
「あれはまだ木から落ちてないから駄目だ」
「しゃーねー」
ハルちゃん、落ち着こう。今日はハルちゃんにしては少しテンション高いね。それは大福効果なのか?
「いちご大福にぃ、桃大福。ぶろうもいいなぁ」
ああ、やはり大福だ。
「アハハハ、ハルは食い気だな」
「りひと、大福うめーらろ?」
「ああ、美味いな」
「な、らから楽しみら」
「おう」
リヒトとハルはまるで兄弟みたいだ。抱っこしているのはイオスだけど。
「ハル、ちゃんとフードを被らなきゃダメよ」
「あい」
ミーレに注意されている。アンスティノス大公国ではエルフ族は珍しい。特にハルの髪色は珍しい。だから皆フードを深く被っている。シュシュは目立たない様に小さくなってミーレの腕の中だ。
ヒポポはコハルと一緒にハルの亜空間に入っている。この国では気をつけないといけない。どこで人攫いが見ているのか分からないからだ。
「先ず領主に挨拶しとくか?」
「長老、そうだな」
「確か近くに精霊樹もあった筈だ」
「長老、領主邸ならすぐそこです」
イオスが知っていた。いつの間に調べたのか? 何気に細かい事にもよく気のつくイオスだ。
イオスがハルを抱っこしたまま先導する。
一行がやって来たのはカエデの家族が移住した領地だ。どうせなら、会って行こうという事だ。この領地は麦の産地で、丁度収穫時期なのだろう。一面、金色の麦畑が広がっている。彼方此方に人影も見える。
「豊かな領地じゃないか」
「領主や領民が協力して開墾したらしいですよ。まだまだ手付かずの野原もあるらしいッス」
イオスがカエデの家族の移住が決まった時に少し調べたらしい。
ここの領主は同じネコ科だ。力で治めるというよりも知力で治めているらしい。
南東のベースの管理者で最強の戦士ソニル・メリーディの従者のコニーが調べて報告していた様に、リヒト達が1つの人攫い集団を壊滅させた後に立て続けに人攫い集団が摘発された。
その人攫い集団を調べ出し、摘発したのがこの領主だ。獣人達が攫われる事に業を煮やし、以前から調べていたらしい。そんな時にリヒト達が1つの集団を壊滅させた。1番大きな集団だった。そこから焦った人攫い達がボロを出したんだ。その機を逃さず一気に証拠を集め摘発まで追い込んだ。
知恵と人情の領主と言われて獣人達の間では有名らしい。
その関係から、アンスティノス大公国周辺に小さな村を作り移り住んでいる獣人がいると知った領主はすぐさま領地への受け入れを打診したんだ。
そんな事から、とんとん拍子で進んだ移住の話だった。
「へぇ~、しゅげーな」
「驚いたな、良い領主だ」
「リヒト様、コニーから報告を受けましたよ」
「そうだったか?」
相変わらずリヒトは締まらない。本当に頑張ってほしい。
一面の麦畑を過ぎると少し小高い開けた場所にでた。そこから街が広がっている。
その街の1番奥に領主邸があった。
「突然申し訳ありません。エルヒューレ皇国から来た者ですがご領主様にお目通り願えませんでしょうか?」
イオスが門番に話をしている。
領主邸といっても大きなお邸ではない。確かに広さはあるが、お邸というよりも大きな農家の家といった感じだろうか。
平屋ではなく2階か3階建てではないだろうか? といってもだ、昔風の家ではなくおとぎ話に出てきそうな可愛らしい家だ。だが、敷地だけでなく建物も広い。
門番のいる正面の門からレンガ色の石畳が玄関まで続いている。馬車が何台も止められそうな広い前庭がありその奥には白い花が沢山植えてある。何かの薬草だろうか? また早咲きのラベンダーがちらほらと花を咲かせている。そしてやっと玄関らしき入口がある。
材質は木だろう。なのに色がグレーのように見える。その木で建てられた大きな家。三角屋根も大きい。窓枠は白く小さな三角屋根の屋根裏部屋がいくつもある。
家の裏には大きな木が何本も見えている。
「ああ、いいな」
「リヒト様、そうですね」
「おばば様の家に雰囲気が似ていませんか?」
「ミーレ、見た目は全然違うだろう?」
「だから雰囲気ですよ。どことなく温かみのある雰囲気です」
「それなら分かる」
「ですね」
皆も気に入ったらしいぞ。やはり森人のエルフだ。木が多いと嬉しいらしい。




