23ーなちゅかしいなぁ〜
ルシカが1番に一口食べた。
「これは……不思議な食感ですね」
「ルシカ、どうなんだ?」
「本当に今まで食べた事がないようなもっちりとした食感ですが、優しい感じがしますね。美味しいです」
「俺も食べよ」
リヒトがルシカの感想を聞いて口にする。他の皆はもう食べている。
「なんだこれ、美味いな」
「そうでしょう? 優しい甘さですね」
「良かった。里の子供達から年寄りまで好きなんだ」
ヤセさんがホッと安心した様に言う。ハルが起きてきたら食べさせてあげてほしい。きっと喜ぶぞ。
「んまいッ」
そのハルちゃんだ。やっとお昼寝から起きて、桃大福にかぶりついている。わらび餅もあるぞぅ。
「なちゅかしいなぁ~」
「ハルは前に食べたのか?」
「ん、ちょっとらけな」
「ちょっとなのか?」
「ん、おりぇは身体が弱かったかりゃな」
これはハルの前世の話しだ。いくら身体が弱くても大福やわらび餅位は食べられただろうに。
「ハルちゃん、これ美味しいわね」
「な、うめーな。桃の大福は初めてらけろ、ジューシーらな」
「ぶもも」
「美味しいなのれす」
あぁ、シュシュやヒポポ、コハルまでお鼻に大福の白い粉をつけている。
ハルちゃんもほっぺについてるぞ。
「ハル、ほっぺについてますよ」
「りゅしか、ありがちょ。またちゅくけろな」
相変わらずオカンなルシカだ。ハルのほっぺを拭いている。今度はハルがわらび餅に手を伸ばした。
「こりぇ、黒密かけてもうめーんら」
「ハル、黒蜜とは何ですか?」
「りゅしか、知りゃねーか?」
「はい、聞いた事がありませんね」
「えっちょ、確か……黒い砂糖があって、そりぇと水とを煮詰めりゅんら」
「黒い砂糖ですか?」
「しょう」
「ああ、黒蜜があるから持ってこよう」
ヤセさんが持って来てくれるそうだ。
「ありがちょ」
ハルちゃん、今度はほっぺにきな粉がついている。エンドレスだ。
そして、ヤセさんが持って来てくれた黒蜜をわらび餅にトロリとかけて頬張る。桃大福はあっという間に食べちゃったね。
「んまいッ」
ハルちゃん良かったね。ハルにとってはどちらも懐かしい味だ。
で、精霊樹の件はどうなった?
「ハル、もう少し奥にもう1本あるだろう」
「じーちゃん、しょっか?」
「ああ、そうだ。遠くはないからこれから行ってみよう」
「分かっちゃ。んめー」
ハルちゃん、まだわらび餅を食べている。気に入ったらしい。
「ハル、まだワールドマップの見方が分からんか?」
「じーちゃん、ちょっちな」
「ちょっとか?」
「ん、らいじょぶら。しょのうち慣りぇりゅ」
「そうか?」
「ん」
さてさて、その奥にあるという精霊樹までやっとやって来た一行。
「この辺りは狐人族の集落があるんだ」
「きちゅねしゃん」
そうだ、以前にハルの生気を奪って取り込もうとした事がある8尾の狐がいる狐人族の集落だ。
「こぎちゅねこんこん、やまのなかぁ、やまのなかぁ♪」
ハルがご機嫌に歌を歌い出した。イオスに抱っこされ腕に乗せられたお尻をプヨプヨと動かしながら身体でリズムを取っている。しっかりお昼寝したし、桃大福とわらび餅も食べて超ご機嫌だ。心なしかお腹がいつもよりポッコリとしている。
「ハル、お前覚えてないのか?」
と、リヒトが聞いた。以前の事を言っているのだ。
「何がら?」
「ほら、8尾の狐だよ」
「覚えてりゅじょ。きちゅねしゃんらな」
「何をされたか分かってんのか?」
「ん、大したこちょねー」
「そうかよ」
ハルにとっては大した事ではないらしい。まあ、コハル達のお陰で無事だったしね。
それにしても、全くハルは拘っていない様だ。
「ハル、この先の筈だ」
「けろじーちゃん、こりぇ結界らな」
「みたいだな」
皆も分かるらしい。同じ方向を見て立ち止まっている。魔力のない者が見ると全く分からない。ここにきて、結界か。さて、ハルちゃんどうする?
「とぉッ」
と、いつもの掛け声と共にイオスの腕の中から飛び降りたハル。
「な、イオス。心臓がキュッてなるだろう?」
「リヒト様、そうッスか? なんとなく分かるから平気ですよ」
おや、イオスはハルが飛び降りるのが分かるらしい。
「ハルならジッとしていないだろうなって」
なるほど、ハルの性格を読んでいるんだね。よくできた従者だ。
「じーちゃん、ここら。なんか前にもこんなこちょあったじょ」
と、言いながら小さな手で結界に触れるハル。すると、やはりパリンッとガラスが割れる様な音がして結界が崩れ落ちた。
「あ……しゃーねー」
「ハル、分かっていただろう?」
「ちょびっとな」
そこから出てきた白い狐さんが2匹。また嫌な予感がするぞぅ。
いかにも、普通じゃない狐さん。2匹共、お顔に何か模様がある。首には赤いおリボンではなく、赤いしめ縄の様な飾り物を付けている。おまけに尻尾が9本だ。
これは、以前鬼の社であった事を思い出す。あの時もハルが結界を壊して狛犬さんと戦ったんだ。