219ーヒポポ
「ひぽ、帰って来たじょ」
「ぶも!」
ハルの亜空間からヒポポが元気よく出て来た。
いつものお顔だけ出すのではなく、体全部で飛び出て来た。ヒポポの精霊樹があるおばば様の家に帰って来たんだ。
そのままヒポポはおばば様の元へと走って行く。
短い尻尾をフリフリとしながら。嬉しいのだろう。
「ヒポポ、お帰り。役に立ったかい?」
「ぶも」
「楽しかったかい?」
「ぶもぶも」
勿論だと言いたそうに、頭を上下に動かしている。ぶもぶもと言いながら。
おばば様がヒポポの首筋を撫でている。おばば様は精霊樹が見えない。
ハルに言われて、庭先に精霊樹があるのだと知った。多分その場所は何か特別なのだろうと思ってはいたが、精霊樹がはっきりと見える訳ではない。
そのおばば様が見る事ができて触る事もできるヒポポ。精霊獣の中では特別なのかも知れない。
おばば様の気持ちも違うのかも知れない。
「おばばしゃま、ひぽがいてくりぇてよかったじょ」
「そうかい、そうかい。なら良かったよ」
おばば様が優しい目でヒポポを見ている。
「城にいる精霊獣とヒポポしか見えないんだけどね、この子は特別なんだよ」
おばば様が懐かしむような表情で話し出した。
おばば様の旦那さんが亡くなった時の事らしい。そこに精霊樹があるとは知らずに、その樹下に旦那さんの遺骨の一部を埋めた。その精霊樹の精霊獣がヒポポだ。
その頃からヒポポが姿を現すようになったらしい。
「あたしを慰めてくれていたのだと思うんだ」
長年連れ添った旦那さんを、亡くしたばかりだったおばば様。ヒポポの存在は、喪失感と寂しい気持ちを癒すものだったのだろう。
それからずっとヒポポは、おばば様に寄り添ってきたらしい。
今回、初めて離れた。ハルの役に立ってほしいと、おばば様の気持ちだ。
「おばばしゃま、ありがちょ」
「ハルは良い子だね」
おばば様が、優しくハルの頭を撫でながら頬をくっつける。ハルの薄い桜色したプクプクのほっぺに、愛おしそうに。
おばば様にとっても、ハルは孫のようなものなのだろう。
「ヒポポ、おかえり」
「ぶも」
そんな大切なヒポポを、預けてくれたんだ。無事に帰って来る事ができて良かった。
精霊女王も見つけた事だし。
「さあさあ、入っとくれ。みんなで一緒に食事にしよう。ルシカ、手伝ってくれるかい?」
「はい、おばば様。もちろんですよ」
「おばば様、自分も手伝うで」
「そうかい、カエデも頼んだよ」
おばば様の後を付いて、ルシカとカエデが家に入って行く。
ハルは?
「ひぽ、のしぇて」
「ぶも」
まだお外にいるらしい。ヒポポに乗って……乗ってといってもハルの足が届いていない。
「アハハハ。ハル、足が届いてないじゃないか」
「りひと、のしぇて」
「おう」
リヒトにヒョイと抱き上げられ、ヒポポの背に乗るハル。
何をするんだ? 爆走する程の広さはないぞ。
「ひぽのしぇいりぇいじゅの、しょばにいこう」
「ぶも」
おばば様の家の前にある庭。裏庭では薬草や野菜を育てている。こっちの庭には花や低い木が植えられている。その中に小さな石碑の様な物が置いてある。
そこがヒポポの精霊樹のある場所だ。おばば様が旦那さんの遺骨を持って来た時においた石碑だ。
そんなに広い庭ではない。ヒポポに乗るほどでもないのに、ハルはヒポポに乗るという。少しでもヒポポと一緒にいたいとでも思っているのか。
「たらいま、帰ってきたじょ」
「ぶも」
「ひぽもげんきら」
龍王達がハルを見ている。彼らは紅龍王から聞いて知っていた。
そこにおばば様の旦那さんの分骨がある事を。
「おばば様がそんな事をしているなんて知らなかった」
「ランロン(青龍王)覚えているか?」
「いや、全然覚えていない。バイロン(白龍王)はどうなんだ?」
「私も覚えていないんだ」
「私は薄っすらと覚えている。でも顔までは思い出せない」
「ヘイロン(黒龍王)そうなのか?」
「確か、俺達が本当に小さかった頃だよな?」
「グウロン(黄龍王)そうだ」
「俺は全然覚えてない」
「ランロン(紅龍王)は一番小さかったからだ」
見た目では5人の龍王は歳が変わらない様に見えるのだが、それでも歳の差はあるらしい。
一番年上なのが、黒龍王。黄龍王、白龍王、青龍王、紅龍王の順だ。
立派に育ったおばば様の孫達だ。
ハルがその石碑の前でヒポポから降りて、手を合わせている。ハルちゃん元日本人だから、自然にそうしたのだろう。
「ハル、有難う」
「なんら? なんもしてねーじょ」
「いや、ここを覚えていてくれて、そうして敬意を払ってくれた事にだ」
「あちゃりまえら。おばばしゃまのらいじな人なんらから」
「ハルは良い子だ」
龍王達もハルに倣い、黙祷をしている。
「ぶも」
「ひぽ、ありがちょな。たのしかったじょ」
「ぶもぅ」
「またあしょびに来りゅかりゃな」
小さな手で、ヒポポをポンポンとしながらハルが話しかける。
「あたちもなのれす」
コハルさんだ。ポンとヒポポの頭に乗って来た。
今回の旅では、コハルとヒポポはずっと一緒にいた。ハルの亜空間の中で、仲良くしていたらしい。
「ありがとなのれす」
「ぶもぶも」
コハルがハルよりずっと小さな手でヒポポの頭を撫でる。頭に乗っているのに。
ハルがコハルとシュシュだけで、旅に出ようとしていた今回の精霊女王を探す旅。
ヒポポを送り届けたら、本当に旅が終わる。
お読みいただき有難うございます!
そろそろ終わりますよ。今度こそ完結しましょう。
(多分^^;)




