210ーすぺしゃる
「シュシュ! ハルを乗せて戻るんだ!」
「長老、分かっているわよ!」
いつもこんな時は、変にやる気を出してしまうハルちゃん。いくら『ちゅどーん!』が必殺技だと言っても、こんな巨大な魔物はそれでは倒せないだろう?
「しゅしゅ!」
ヒラリとシュシュに乗ったかと思ったら、その背を足場にしてハルが高くジャンプした。
何て事をする3歳児だ。どれだけ身体強化をしているんだ?
「ハルちゃん!」
「こはりゅ! いっくじょー!」
「はいなのれす!」
コハルさんも一緒になって突っ込んでどうする? ハルを止めてくれ。
「たぁーッ!」
「とぉーなのれす!」
「ハル! 止めろ!」
「ハルちゃん! 正面から突っ込んでどうするんだよ!」
リヒトとソニルも攻撃しながらも、止めようと声を上げる。
だが、もう高くジャンプしちゃったハルは止まらない。コハルと一緒に突っ込んで行く。
「ちゅどーーんッ!!」
「どーん! なのれす!」
二人して、巨大な樹の魔物の顔面を狙ってドロップキックを入れる。
大きな雄叫びを上げて、魔物が仰け反り苦しんでいる。同時に目の真下まで裂けている大きな口をパカッと開けた。
「ハル! コハル!」
勢いよくドロップキックを入れたハルとコハル。そのまま魔物のお口の中へ、スポンッと落ちて行ってしまった。
「ハル!!」
「ハルちゃん!」
シュシュは何が起きたのか分かっていない。自分はハルを乗せたはずなのに。
長老が叫ぶ。約2000年前、自分の娘を助けられなかった。曾孫まで、目の前で魔物の口の中に落ちて行った。
長老は黙って見ていられるはずがない。なんとかハルを助け出すんだ。
長老はいつの間にか、手に魔法杖を持っていた。そして、大きな刃を魔物の頭部を目掛けて飛ばした。
長老の放った刃が、頭部を斬り裂く。
「長老!」
「リヒト! ソニル! 口から下には攻撃できん! 頭部を狙うしかない!」
「おう!」
「分かった!」
ハルが落ちて行ったんだ。無闇に口から下を攻撃して、ハルに当たりでもしたらと思うと攻撃できない。
その上この魔物、いくら頭部を斬り落としても直ぐにまた生えてくる。
再生能力まで持っているらしい。厄介だ。なのに精霊女王がそこにいるだろうという事だけでなく、ハルまで落ちて行ったものだからまともに攻撃できない。
それでも攻撃を止める訳にはいかない。
長老が超特大の刃を出し、魔物の顔面を狙って飛ばした。とんでもない魔力量だ。
丁度、目がある場所を斬り付けそこから真っ二つに切り裂いた。
皮一枚で繋がっているのか? 頭部を揺らしながら雄叫びを上げている。
グオォッと何度も呻き声を上げ出した。
「なんだ!?」
よく見ると、魔物の幹の真ん中辺りがボコッ! ボコッ! と動いている。
樹の魔物の動きが止まった。何だ? 何が起こっているのか分からないが、とにかく攻撃するチャンスだ。リヒトとソニルが剣を向け走り出したその時だ。
より大きく幹がボコッと動き、バキバキバキッと音を立てて幹が割れたかと思ったら……
「しゅぺしゃりゅ、ちゅどーーん!」
「すぺしゃるなのれす!」
ハルとコハルが叫びながら、魔物の幹を割って中から飛び出してきた。
ハルは誰かと手を繋いでいる。何だ?
「じーちゃん! 焼いて!!」
「おう! ハル! リヒト、ハルを!」
「任せろ!」
リヒトが落ちて来るハルをキャッチした。それともう一人だ。
「ええッ!?」
ハルだけでなく、綺麗なお姉さんも一緒だ。しっかりとハルと手を繋いでいる。
「ウフフフ、ごめんなさいね〜! ナイスキャッチだわ〜!」
まさか、精霊女王なのか!? このタイミングなんだ。それしか考えられない。
リヒトがハルをキャッチし、騒いでいる中、長老が静かに詠唱していた。しかも、魔法杖を使ってだ。
長老の杖から、今まで見た事がないような巨大な炎の球が飛ぶ。
あっという間に、炎に包まれる樹の魔物。断末魔の叫び声を上げ燃え上がっていく。
魔物がいくら再生しても、長老が放った炎の威力が上回っていた。その内、再生する間もなく燃え尽きていく。プスプスと黒煙をあげながら倒れていった。
「こら、ハル! 何て無茶をするんだ!」
「じーちゃん、やったなッ!」
ハルちゃん、長老は心配したんだ。心配なんて言葉では足らない位にだ。
また自分の目の前で、大切な者を失うのかと頭をよぎったんだ。
「じーちゃん、らいじょぶら。おりぇはちゅよいって言ったろ?」
「ああ、ハル。そうだな。だが、じいちゃんは心配したぞ」
「大丈夫なのれす。あたちが付いているなのれす」
一緒にスポンと落ちて行ったのに、コハルさん。
「長老……」
リヒトの腕から降りた、綺麗な綺麗なお姉さん。腰まであるエメラルドグリーンが入ったゴールドの髪が、煌めきながら揺れている。それに、まるで星が美しく光り輝く様なゴールドの瞳。宙に浮くその姿は神々しく、淡く優しく輝いている様だ。
正しく精霊王の番、精霊女王だ。
皆がそこに跪いた。ああ、皆ではない。ハルは立っていた。まだしっかりとお手々を繋いで。
「精霊女王様ですか?」
「ええ。お世話かけちゃったわね」
「精霊王様が心配されておりましたぞ。それで我々がお探ししておりました」
「うふふ。うっかり食べられちゃったの」
なんて呑気なんだ。うふふじゃないぞ。
お読みいただき有難うございます!
やっぱハルちゃんが終わるのは寂しい。(´-`)
時々、SSを投稿しても読んで頂けますか?
どんだけハルちゃん好きなんだ!^^;
いつも有難うございます!




