207ーパーピの真実
七頭のユニコーンが順に谷底へと降り立つ。
そこだけ樹々が生えていなくて、丸い空間ができている。樹々が生えていない分、陽か射す。
その陽に照らされる、ユニコーンの立派な角と白い体躯が輝いているように見える。流石、伝説のユニコーンだ。
その谷底には薬草と花、その他の植物が繁殖していた。
ここはきっと地下水が近いのかも知れない。近くに水源がある様には思えないが、そこに生えている樹々や植物が艶々としていて瑞々しい。
「きれーらな」
「おう、なんだか空気が違うような気がするな」
「リヒト、実際に違うんだ」
長老がずっと神眼で見ている。
ここに生息している薬草は、さっきソニルが話していたように状態異常を治すポーションに使われる薬草だ。その薬草は浄化の効果もある。
その上、ここには精霊樹が生えている。
なんと、10本の精霊樹が元気にキラキラと輝きながら生えていたんだ。
サークルを描くように。まあるく輪になって生えていた。
「元気なのれす」
いつの間にかコハルが出て来ている。
「ぶも」
おや、ヒポポも出て来ていた。いつも呼ばれるまで大人しくハルの亜空間に入っているのに。
「ちょっと待って! コハルちゃん! 昨日のあれ! もう一回プニッてやって!」
「ソニル、何言ってんだ?」
「だから、僕達はもう見えないんだよ」
ああ、なるほど。コハルさんの裏技だ。あの効果が切れているらしい。
「はいなのれす」
コハルがソニルとコニーにプニッと手を当てた。
「おおーッ!」
「これはまた……素晴らしいですね!」
この場所に何度か来た事のあった2人だ。まさかここに、こんなに何本も精霊樹があるなんて思いもしなかっただろう。
いや、精霊樹自体が知られていなかった。
「僕達、精霊樹がある事を知らなかったし見えていなかったのに」
何だろう?
「精霊樹を避けて動いていたみたいだ」
「ソニル様、本当ですね。不思議だ」
薬草を採取する為にこの場所に来た時に、偶然なのかどうなのか2人は精霊樹の生えている場所には近寄っていなかったらしい。
どうしてそんな事が分かるのだろう?
「目印をね、残してあるんだ。同じ場所でばかり採取しない様にね」
「ほう、ソニルもちゃんと考えているんだな」
「リヒトったら本当に酷いッ!」
それは大自然を守り、見る事ができなくても精霊を敬ってきたエルフ族だからなのか?
それとも、単純に偶然なのか?
「どこの国でも精霊樹を避けていた感があるぞ」
「じーちゃん、しょうらな」
「なんだ、ハルも気付いておったか?」
「あたりまえら」
ふふん、と胸を張るハルちゃん。本当なのかな?
「らって歩く時も、しぇいれいじゅをよけてたんら。ふらふら~って」
「アハハハ、そうか。よく見ていたな」
「ふふふん」
おやおや、本当に気付いていたらしい。
不思議な事があるものだ。精霊樹の存在自体が不思議なのだけど。
「コハル、ここも必要ないな」
「ないなのれす。元気なのれす」
「じゃあ、ひぽ。呼び出してくりぇ」
「ぶも」
ヒポポが一歩前に出た。そして、いつもの様に一鳴きする。
「ぶもぉッ」
今回は精霊樹が10本もあるんだ。なんども言うが、10本だ。
その精霊樹からブワッと一斉に出て来た精霊獣。
色とりどりの蝶が舞う。その空間に花びらが舞っているように蝶が舞う。
エルフ族が持っているパーピを覚えているだろうか。見た目がパーピに良く似ている。
「これは……もしや、そうなのか? コハル」
「はいなのれす。仲間なのれす」
「そうだったのか」
長老は気付いた様だ。
ハルが以前話していた。パーピも精霊と同じだと。精霊や精霊樹と同じ仲間らしい。
精霊獣は自分が生まれた精霊樹の側から離れる事ができない。
パーピは自分が契約したエルフ族から離れる事はない。
エルフ族が持つ膨大な魔力。それをほんの少し分けてもらっているんだ。
「エルフ族はパーピと契約しているなのれす」
「そうだったのか」
「はいなのれす。契約できるエルフの元にパーピが生まれるなのれす」
コハルさん、知っているならもっと早く言おう。いつもこんな感じだ。言えない事もあるのだろうが。
「おりぇ、パーピもってねーじょ」
「ハルにはあたちがいるなのれす」
「しょうらな」
ほうほう、コハルちゃんがいるからパーピは必要ないという事らしい。
なら、コハルも離れた場所にいる人に、瞬時に知らせたりできるのかな?
聞くまでもなく、きっとできるのだろう。
「楽勝なのれす」
だそうだ。万能なコハルさん。まだちびっ子なのに。
さて、一斉に出てきた蝶の精霊獣。当然、ハル目掛けて飛んでくる。
一体何匹いるのか分からない位の数だ。その蝶がみんな一斉にハル目掛けて飛んで来る。
これはまた、ハルちゃん。
「ぶぶぶぶッ! らから、前がみえねー」
「アハハハ。ハルが蝶まみれになってるぞ」
「だめなのれす! 離れるなのれすよ!」
コハルの声で、フワフワと離れていく蝶々達。
何匹いて何色あるのだろう? それにどの蝶も元気だ。キラキラしている。
この場所には、エルフ族以外が立ち入る事はないだろうしこれなら安心だ。
「ちょうちょ~ぅ、ちょうちょ~ぅ、なのはにと~ま~れ~♪」
やっぱ歌うよね、ハルちゃん。
お手々をフワフワ動かし、ついでにお尻もフリフリしている。
いつも通り、カエデとヒポポも参加だ。カエデは尻尾をフリフリ、ヒポポも短い尻尾をフリフリしている。
それよりも先に聞く事があるのだけども。




