201ー聖獣の違い
「聖獣だって珍しいですよ」
「ロニー、なんだか慰められている気分になっちゃうわ」
「いえ、シュシュは綺麗でカッコいいですよ」
「でしょう? やだ、ロニーは分かっているじゃない〜」
精霊獣が見えるぞ騒動は、ハル達の食事中ずっと続いた。裏技を披露したのはコハルさんなのに、我関せずと食べている。
今日はこのベースに泊まるらしい。
その日、ベースにいるエルフ達は、遺跡まで態々精霊樹を見に行っていたらしい。
ベースを空ける訳にはいかない。だから、順番に数人ずつ交代でだ。
見えるうちに、噂の精霊樹も見ておきたいと思うのは自然な事だ。
精霊樹を見て戻って来た者の中には、号泣していた者もいたとかいないとか。
その頃ハルは。
「もっしもっしかぁめよ〜、かぁめしゃ〜んよぉ〜♪」
歌っていた。マッパでだ。
プリップリのお尻をフリフリしながら、片手にタオルを持って。
お昼ご飯を食べて、しっかりお昼寝もして、オヤツも食べてからのお風呂だ。
「アハハハ! なんだ、可愛すぎるだろう!」
「もう、いつもの事だ。風呂に入ったら必ずあれだよ」
「そうなのか!? なんだ、リヒト。役得だな!」
そんなものなのか?
「ぶぶぶへッ!」
これはシュシュだ。またイオスとルシカにお湯を顔面から掛けられている。
「もう、嫌だっていってるのにぃ!」
「けろ、しゅしゅ。きもちいーらろ?」
「そりゃそうなんだけどぉ! なんだけどぉ!」
――バッシャーン!
「ぶぶぶぶーッ!」
なんだ、気持ち良いのか。なら良いじゃないか。動物虐待になるかも知れないと冷ッとしたぞ。
ハルは椅子にちょこんと座り、頭がアワアワになっている。リヒトがワッシワッシと洗っている。
やっぱりお手々は揃えてお膝の上だ。その丸いフォルムは本当に可愛らしい。
「ハル、まん丸だな」
「しありゅしゃん、しゃーねーんら」
「そうか?」
「しょうら。ようじたいけいら」
「アハハハ、そうかよ」
その割には、最近お腹がポッコリしていないか?
「ぐふふッ」
「しありゅしゃん、わらうんじゃねー」
「おう、すまんすまん」
だって、可愛らしいんだもの仕方がない。
「ハル、流すぞ」
「おー」
ハルがギュッと目を瞑り、お顔を手で覆う。そのエクボのできるお手々も可愛いぞ。
「長老、良い筋肉してるな」
「そうか?」
「おう、腹なんてバッキバキじゃねーか」
「いつもハルを抱っこしているからな」
「なんだよそれ! アハハハ」
長老の筋トレはハルなのか? ハルがダンベル替わりなのか?
「ハルは油断すると直ぐに勝手に飛び降りるからな。いつも緊張しているんだ」
「え、そうなのか?」
「ああ。ハルはやんちゃだからな」
「あんなに可愛いのにな」
「可愛いな。可愛いどころではないぞ」
「アハハハ! 長老もハルには勝てないか!」
「そりゃ、シアル。可愛い曾孫だ」
「そうだな。長老、良かったな」
「おう」
みんな長老の娘の事を知っているんだ。だから、ハルの事を聞いて驚いた。
孫を通り越して、曾孫だと!? と、みんな驚いた。
何をどうやったら、曾孫が出てくるんだと。
「じーちゃん、しぇなかありゃうじょ」
「おう、ハル」
長老の目尻が下がっている。
ハルの小さな手で、長老の背中を洗う。ゴシゴシと身体全部を使って洗う。
その後ろ姿のまた可愛いこと。
「ハル! 俺も洗ってくれ!」
「いーじょー」
シアルが順番待ちだ。
みんなで湯舟に入る。引き締まった身体のリヒトに、丸っこいハルがチョコンと抱っこされている。こうしてみると、みんなスマートだ。イオスだって、バキバキではないもののしっかりと筋肉がついている。ルシカが一番、細身だろうか。
そんなメンバーの中、プヨプヨとした足をプランプランさせながら歌うハル。
「もっしもっしかぁめよ〜、かぁめしゃ〜んよぉ〜♪」
「ハル、その歌好きだな」
「かめしゃんのおうたら。帰ったりゃ、またふぃーれんかとのりゅんら」
「ハル、あれは聖獣様だぞ」
「らって、じーちゃん。しゅしゅもしぇいじゅうら」
「まあ、そうなんだがな。シュシュとは少し違うぞ」
「じーちゃん、しょっか?」
「ああ。水神様のお遣いだからな」
「えりゃいんか?」
「まあ、そうなるな」
「あら、あたしだって聖獣なのよ」
「シュシュはまだピヨピヨなのだろう?」
「やだ! 長老までそんな事言わないでよ!」
「アハハハ! そうか、シュシュはピヨピヨなのか!」
「だぁかぁらぁ、それを言わないでって」
賑やかで平和な一時だ。シュシュは洗われるのは苦手らしいが、湯舟に入るのは好きらしい。
しっかりお首まで入っている。
大きなシュシュと、リヒト達が入っても余裕の大きさがある湯舟。
「ろのべーしゅにも、ふりょはあんのか?」
「おう、あるぞ」
「いいな!」
「だろう?」
エルフ族は風呂好きなのか? そんな事は聞いた事がないぞ。
「ちゅぎは、夕ご飯らな」
「ハル、おやつ食べたとこだろう?」
「らって、りひと。順番ら」
「なんの順番だよ」
ハルちゃんは、食べる事が中心のスケジュールらしい。
だからそんなお腹になるんだよ。
明日は朝から次のベースへと向かう。
ソニルが管理者をしている南東のベースだ。
その近くの遺跡と、もう一箇所精霊樹の反応があるらしい。
そこに精霊女王がいれば一番良いのだが、そうでなくても何か手掛かりが欲しいものだ。




