200ー見たいです
南西のベースに戻ってきたハル達。今日はもう移動しないらしい。
シアルが嬉しがって意気揚々と声を掛ける。
「ハル、風呂いくか!?」
「いかねー」
おや? いつもなら「おー」と言って付いて行くのに、どうした?
「りゅしか、はりゃへったじょ」
食い気が勝っていた。
「はいはい、お昼ですね」
「飯かよ。食堂行くか」
「おー」
シアルに案内されて、ベースの食堂へ。
いつもなら、ハル用のちびっ子が座る椅子があるのだが、ここにはそんなものはない。
「ハルちゃん、クッション借りよか」
「ん、しゃーねー」
ハルは高さを出そうと、椅子の上に正座をして座っていた。何故かお手々を揃えてお膝の上においている。
それもまた可愛い。でも高さが足らない。
クッションを椅子に重ねて置きその上に座る。それでも、なんとか手が出る高さだ。
「これ以上重ねたら不安定になるから、これで我慢やで」
「かえれ、ありがと」
ちびっ子がちょこんと座っている。
その両隣を、ミーレとカエデが陣取った。ちびっ子を構いたくて仕方がないシアルはハルの正面だ。
「こはりゅ、飯らじょ」
「はいなのれす」
ポンと出てくるコハルさん。
「なんだ、ヒポポは食べないのか?」
「らって見えねーかりゃ」
シアルは今コハルさんの裏技で見えているが、本当なら見えない。
ヒポポが出て食べると、食べ物が宙に動いて消えるというホラーが繰り広げられる事になってしまう。
それでもいいのか?
「見えないのは仕方ないだろう。ヒポポも食べるのなら出してやれば良いぞ」
「しょうか?」
「おう、構わん」
ならば、と。
「ひぽ、飯ら」
「ぶも」
え? いいの? 出ちゃうよ? と、言っているのだろうか?
お顔だけ亜空間から出しているヒポポ。
「おう、ヒポポ。いいぞ」
「ぶも」
のっそりと、亜空間から出てきた。体が大きいので、遠慮気味にシュシュの隣に並んだ。
「おー、聖獣に精霊獣か。こんな事は滅多にないぞ」
「アハハハ、シアルが嬉しがってるぞ」
「リヒト、そりゃそうだろう? 嬉しいさ。本当なら見る事ができないのだからな」
ルシカと見慣れないダークエルフの青年が、皆の食事を持って来た。
「シアル様、何も言わないで出るのはやめて下さいと言ったでしょう?」
「ロニー、すまん。だって見たいだろう?」
「はいはい。君がハルくんですか?」
「おー、はりゅりゃ」
「ハル、ロニーですよ。シアルさんの従者です。南東のベースのソニルさんの従者は覚えてますか?」
「うん、こにーしゃんら」
「コニーは私の兄です」
「しょうなんら」
コニーとロニーの兄弟。見た目もよく似ている。
同じダークブルーブロンドの髪にダークブルーの瞳だ。
従者だというのに、今まで見なかった。
「シアル様は、いつも一人でウロウロするのでいつの間にかいないのですよ。困ったものです」
「すまんて」
シアルは自由人らしい。リヒトはいつも必ずルシカを連れている。
人によって、違うみたいだ。
「俺はルシカがいないとな」
「うん、りゅしかがいねーとな」
飯とおやちゅに困りゅ、と聞こえた気がする。
「どうぞ、食べて下さい」
「いたらき!」
「コハルの分もありますよ」
「ルシカ、あたしも食べるわよ」
「はい、持ってきますね」
「ぶも」
「おや、ヒポポも出て良いのですか?」
「おう、食べるなら一緒に食べたら良いんだ」
ロニーは意味が分からない。見えていないから。
「ロニー、見えないだろうがそこに精霊獣がいるんだ」
「精霊獣ですか?」
精霊ならまだしも、精霊獣はあまり知られていない。
「おう、いるんだよ。シュシュの隣にな」
「シアル様は見えるのですか?」
「おう。コハルが見えるようにしてくれたからな」
と、言っても一時的にだ。この先ずっと見えるわけではない。
「え? コハル、そうなのか?」
「今だけなのれす」
「なんだよぉ、残念だなぁ」
「私も! 私も見たいです!」
ロニーがそう言うと、我慢していたのだろう。食堂にいたエルフ達が、自分もと口々に言い出した。
「こはりゅ、ろうしゅる?」
「いいなのれすよ」
おう、良いらしい。コハルさん、エルフ達には寛大だ。何人いるだろう?
それでも20名程だ。この場に居合わせたのはラッキーだという事で。
コハルの前にエルフの列ができた。
「はいなのれす」
と、言いながら流れ作業のように、エルフ達の額にプニッと手を当てるコハル。
テーブルに乗っているコハルに、屈んで額を出している。こんなラッキーな事はないぞと、みんな列に並ぶ。
見えなくても崇めてきたエルフ族。やはり、見られるものなら見たい。
それが終わると、エルフからは感嘆の声がもれる。
「ああ、本当だ……!」
「感動だよ!」
「す、凄い……!」
皆、ヒポポを見て感無量といった感じだ。
その注目の的であるヒポポは、小さな尻尾をヒョコヒョコと動かしながら無心に食べていた。
大きなお口を開けて、ハグハグと食べる。
「ヒポポ、いいの? みんな見ているわよぅ」
「ぶも」
気にしていないらしいぞ。シュシュの方が気になって食べ難いみたいだ。
そりゃそうだろう。食堂にいたエルフ皆が、シュシュの隣で食べているヒポポに注目している。
「シュシュはピヨピヨなのれす」
「やだ、コハル先輩。関係ないじゃない」
みんなシュシュを見ている訳ではないのだ。気にしないでいいぞ。
「んめーな」
「な、ハルちゃん。美味しいやんな」
ハルとカエデも気にしていなかった。
ハルはマイペースだからね。




