198ー大森林の精霊樹
「ぶも」
おや、ヒポポがジト目でお顔だけ出して見ているぞ。
「あ、ひぽ。出りゅ?」
「ぶも」
ヒポポも早く出たかったらしい。
「あたちも出るなのれす」
コハルさん、ヒポポの頭に乗るのは止めよう。
コハルを頭に乗せたまま、ヒポポがどっこいしょとハルの亜空間から出てきた。
シュシュが聖獣で、ヒポポが精霊獣。コハルはその中でも一番偉いらしい。一番小さいのだけど、態度もデカイ。
「こはりゅ、ひーりゅしなくてもいいんじゃね?」
「必要ないなのれす。元気なのれす」
「らよなー」
元気にキラキラと光って生えている精霊樹が3本。
ハルちゃん、ヒールだけでなく他にもする事があるだろう?
「ハル、聞かないといけないぞ」
「しょうらった。ひぽ」
「ぶも」
はいはい、分かっているよとヒポポが前にでる。そして一鳴きした。
「ぶもぉ」
すると、3本の精霊樹からブワワ〜ッと一斉に出てきた精霊獣。数が多いぞ。3本の精霊樹から数えきれないくらいの精霊獣が出て来た。
七色の蝶だ。まるでいつもエルフ族が使っているパーピの様だ。
フワリフワリとハルに向かって飛んでくる。
沢山の蝶だ。其々の羽が金粉を振り撒くかの様に輝きながら飛んでいる。
よく見ると、小さな人型をしている。その背中に蝶の羽が生えているんだ。
頭から2本の触覚が伸びている。背中には羽の間に小さな葉っぱもある。そして、お尻の部分にやはり小さな葉っぱが2対ついている。
――こんにちは~
――エルフなの~
――エルフだ〜
と、口々に喋っている。
アンスティノス大公国やツヴェルカーン王国の精霊獣で、話せるものはいなかった。
ドラゴシオン王国では、メタ爺と呼ばれる精霊獣が唯一話せた。
ヘーネの大森林では、もしかしてどこの精霊獣も話せるのかも知れない。
何しろ、元気さが違う。精霊樹も他の国よりも立派に見える。
太いしっかりとした幹に、生き生きとした緑の葉が生い茂っている。何が光っているのか? 精霊樹自体が光りを放っているのだ。
そこから出て来た精霊獣も元気いっぱいだ。
ハルだけでなく、長老やリヒトの周りにも集まってきた。
「アハハハ! 長老、スゲーな!」
「おう、リヒト。こんなに違うものなのか」
「違うって、どういう事なんだ?」
シアルは他国の精霊樹を知らない。長老は他国の精霊樹と比べているんだ。
アンスティノス大公国の精霊樹が、どれだけ元気がなかったのかよく分かる。
「元気なのれす。良い事なのれす」
それで、ヒポポ。聞けたのかな?
「ぶも」
「ひぽ、ろうらった?」
「ぶもぶも」
「お、しょっか」
なんだか良い感じではないか?
ヒポポの返事も心なしか明るく感じるのだが?
「ハル、何だって?」
「じーちゃん、つい最近来たって」
「そうか」
――精霊女王さま!
――来たよ~
――うん、来た来た~
なんだ、話せるのだから直接聞けばいい。
「ぶも」
いや、ヒポポは必要ないと言っている訳ではない。
「ろこに行ったか知らねー?」
ハルが直接話しかける。ハルの周りには沢山の精霊獣。また、前が見えないのではないかと思うくらいにだ。
「ぶふふッ、ちょっち前がみえねー」
やっぱりだ。ハルは好かれるから。精霊達もハルに寄ってくる。
ハルが精霊獣に囲まれて、身動きできなくなっている。そのハルもまた可愛い。
丸い幼児体形のハルが、蝶に囲まれてただ立っている。丸いお腹の辺りだけでなく、全身ぷくぷくだ。
「らから、ろこに行ったかしらねー?」
――帰るっていってた~
――そうそう
――違うよ~
――えー? そう~?
――他も回ってから帰るって~
――そうそう~
――本当だよ~
――ご用事があるって〜
どれが本当なのだろう。多分、ヘーネの大森林にある他の精霊樹も回ってから、精霊王のところに帰るの言っていたという事だろうか?
なら、このヘーネの大森林にいるのか?
エルフ族のホームとも言えるこの大森林に。
他の国を回って来たというのに。
「まさか、ヘーネの大森林にいるとは」
「なんだよ、折角色々回って来たのに」
「ハルちゃ~ん! めっちゃ凄いな~!」
「ハルちゃ~ん! 綺麗だわ~!」
カエデとシュシュだ。ハルちゃんチームはどんな時でもマイペースだ。
取り敢えず、ハルちゃん最優先という事だけは揺るがないらしい。
「俺、圧倒されて何も言えねーわ」
「アハハハ。シアル、そうか?」
「おう、精霊樹とか精霊獣とかそんなの聞いた事ないぞ」
「俺もそうだった。だが、実際に見ているじゃないか」
「おう、そうなんだな。いつもは見えないのにな」
それはコハルの裏技のお陰だ。
コハルさんはまだまだ能力を隠していそうな気もする。
「大事に守ってきて良かったと思えるよ」
「ああ、本当にな」
「なんだ、お前達でもそんな事を思うのか?」
「長老、そりゃそうだろう。感慨深いものがあるぞ」
見る事ができなくても、ずっと太古の昔から精霊を敬ってきたエルフ族。この遺跡も、先祖が残した大切なものだと管理し守ってきた。
そのエルフ族の力があったからこそ、これだけ立派な精霊樹が残っているんだ。
ヒールも必要のない精霊樹なんて初めての事だ。
「ちょうちょ~ぅ、ちょうちょ~ぅ、なのはにと~ま~れ~♪」
ああ、ハルが両手をフリフリしながらお歌を歌いだした。
ハルちゃん、お歌が好きだね。童謡ばかりだけども。




