189ーやっぱり張り切っている
「とーしゃま、ゆにこーん?」
「そうだ、ハルは私が乗せようか?」
「父上、俺が乗せますよ」
「なんだ、リヒト。お前はいつも乗せているじゃないか」
はいはい、こんなところでハルの取り合いをしていても仕方がない。
それよりも、ベアウルフだ。皆様は覚えておられるだろうか?
以前、北西にあるベースの管理者のリレイ・グリーエンの指揮で討伐に出た事がある。あの時もレッドベアビーの蜂蜜を目当てにベアウルフが出ていた。
ベアウルフとは、頭部は熊で手足と胴体はウルフの魔物だ。力が非常に強く、猿などは掌で押しただけで殺してしまう。噛み付く力も強いが、ウルフの様に俊敏に走る。
体長200〜250センチメートル、体重300〜800キログラム。密に生えた毛皮と短い尾・太くて短い四肢と大きな体を持つ。超大型ではないが、魔物の中では凶暴な方だ。
そのベアウルフが率いる群れが二つ、争っているのだという。どれ位の数がいるのだろう。
守備隊も出るという。それにしても、ハルは張り切っている。
リヒトのユニコーンに乗せてもらって、足をプランプランと動かしながらやる気満々だ。
「ハル、危ないからあんまり動くなよ」
「らいじょぶら」
「だいじょうぶなのれす」
ああ、コハルまでもう出てきている。このちびっ子コンビは、どうしてこんな時は張り切るんだ?
ハルなんて、普段はどちらかというとテンション低めなのに。
「ハルちゃ~ん、あたしも行くわよ!」
「おー!」
なんだ、シュシュまで張り切っているのか?
「ハルちゃんはあたしが守るのよぅ!」
「シュシュはピヨピヨなのれす」
「コハル先輩、だからそれは止めてちょうだいって言ってるのにぃ」
姦しい。ああ、姦しいったら姦しい。いつもの事なのだが。
「私は待っていますからね」
おや、ミーレだ。一緒に行かないらしい。
「え? みーりぇ、いかねーのか?」
「ええ。必要ないもの」
「ええー、おもんくないじょ」
「何言ってるのよ。ハル、突っ込んでいったら駄目よ」
「しょんなことしねーじょ」
「あら、いつも真っ先に突っ込んで行くじゃない」
「しょっか? しょんなことねーじょ」
そんな事あるんだよ、ハルちゃん。リレイと討伐に出た時の事を覚えているかな?
きっとエルフは先ず、弓矢で攻撃して数を減らす。その時は絶対に出たら駄目なのだぞ。
「いちばんにはでねー。にばんにでりゅじょ」
意味が分からない。
「アハハハ。ハル、そうだな。一番には出たら駄目だぞ」
「じーちゃん、わかってりゅじょ」
リヒトに長老、それにリヒトの父と兄だ。イオスやルシカ、カエデもいる。このメンバーだけで討伐できるのではないか? この上、守備隊まで必要なのか?
「ハル、今日は守備隊の邪魔をしたら駄目だぞ」
「りひと、らからおりぇはじゃまなんてしねー」
本当は守備隊だけで討伐する予定だったらしい。元々、守備隊の管轄地域だ。なのに、偶々一緒に調査に出たリヒトの父が参加する事になった。
まさか、長老とリヒトまで付いて来るとは思っていないだろう。
エルフ随一の魔法の使い手である長老。それに、エルフ族最強の5戦士の一人であるリヒト。
これだけ揃っていれば、安心だろう。ミーレが言う様に、ミーレが態々ついて行く必要もない。
「ミーレ姐さん、行ってくるわ!」
「カエデも気をつけなさい!」
「大丈夫や。自分は無茶せえへんからな!」
「イオス、頼んだわよ」
「おう、任せとけ!」
「ルシカ、お願いね」
「はい、大丈夫ですよ」
そうだ、いざという時にハルを叱れるのはルシカだけだぞ。
「行くぞ!」
「おぉー!」
リヒトの父の声に、元気に答えるハル。拳まで上げている。ついでにプヨプヨの足も、ヒョイと前に出したりして。張り切っている。
そのハルの前に、チョコンと乗っているコハルさん。
コハルさんも何気に、小さな拳を上げていた。なんだか似てきたね。
もしかして、コハルだけでも討伐できたりするのだろうか?
「ちょろっちょろなのれす!」
ああ、できそうだ。コハルは小さくても鬼強い聖獣だ。神使だ。シュシュとは次元や格も違うらしい。よく分からないけど。
「あたしも手伝うわ!」
「シュシュの手は必要ないなのれす!」
「やだ、コハル先輩。手伝わせてよ!」
出発したと言うのに、賑やかだ。カエデはイオスのユニコーンに乗っている。
流石にカエデは冷静だろう?
「カエデ、合図があるまで出たら駄目だからな」
「イオス兄さん、そうなん?」
「ああ。先ずは弓矢で攻撃だろう」
「なるほどな、それからがカエデちゃんの出番なんやな!」
「アハハハ! 出番かよ」
「任せてや! 自分もやるで! ハルちゃんに負けてられへんわ!」
なんだ、カエデもやる気だったのか。このチームはみんな好戦的なのか?
いやいや、ハルやカエデの会話を聞いてこっそりと溜息をついているルシカがいた。
「長老、ハルはやんちゃですから」
「アハハハ、まあ良いだろうよ」
「長老が甘いからですよ」
長老もハルを止めたりしない。それだけハルなら大丈夫だと分かっているのだろうけども。
でも、だ。ハルはまだちびっ子だ。
「こうして討伐に出て、覚える事もあるだろう」
「まあ、そうですけど」
「ハルは皆で一緒に、討伐するという事を覚えないといかん。自分だけじゃないのだと、ちゃんと意識してくれないとな」
「そうですね。ハルはそこですね」
「だろう? アハハハ」
少し走ると守備隊だろう一団が見えて来た。




