184ー穏やかなオヤツタイム
「よし、ちゅぎはりゅしかの、おやちゅらじょ」
ハルが起きたらしい。お昼寝から起きたら、ルシカのオヤツだ。この順番は変えられない。
なのによく一人で精霊女王を探しに行くと言ったものだ。
「ハルちゃん、あたしが乗せて行くわ」
「おー」
シュシュ、良かったね。やっとハルが乗るみたいだぞ。
「ふふふ、やっぱりあたしが乗せないとね~」
「しゅしゅ、りゅしかのおやちゅら」
「ハル、先にお着換えしましょう」
「え、しょっか?」
「ええ、寝汗かいたでしょう?」
「しょっか?」
有無を言わさず、ミーレに剥かれる様に服を脱がされ着替えさせられる。
万歳をして、ズボッとシャツを脱がされる。スベスベなお肌の、ポヨンとしたお腹が出てきたぞぅ。これは触ってみたい。
「ふふふ」
「みーりぇ、なんら?」
「ハルのお腹は綺麗で可愛いわ」
「ほんまやわ」
「あら、ハルちゃんは全部可愛いのよぅー」
お上品でシンプルな白いシャツに着替えさせられる。お似合いだ。
黙って立っていたら、まさか『ちゅどーん!』なんて必殺技を持っているなんて思えない。
「可愛いわぁ。ハルちゃんお似合いやわ」
「しょっか? ちょっちおりぇのイメージに合わなくね?」
おやおや、よく自分を分かっている……のか?
「おりぇ、もっと動きやしゅいのがいいじょ」
違ったらしい。そっちか。動きやすさが重視なのか。
「さあ、行きましょう」
みんなで1階の談話室へと向かう。そこに皆いるらしい。シュシュは背中にハルを乗せて、ご機嫌だ。尻尾がユラユラと揺れている。
「ハル、起きたか」
「じーちゃん、何食べてんら?」
「これはルシカのオヤツだ」
「じゅりーな。おりぇもりゅしかのおやちゅ食べりゅじょ」
「もうルシカが持ってくるだろう」
皆、先にオヤツタイムらしい。と、言っても全員大人だ。ハルが好きな生クリームたっぷりなオヤツという訳ではない。
長老とリヒトの間に座らせてもらうハル。まだソファーに座ると足が下に付かない。
「りひと、しょりぇ、なんら?」
「フォンダンショコラだ」
「うましょうらな」
「ハル用のがあるだろう。これはハルにはまだ早いぞ」
「しょうなのか?」
「ああ、ほろ苦だからな。大人用だ」
「ほぉー」
ハルちゃん、人差し指で突こうとしていないか? その指は何だ? プクプクの指じゃないか。
「こら、ハル。突こうとするんじゃないよ」
「ちょっちたべてー。とりょとりょのとこ、たべてーじょ」
だからと言って、指で突こうとするのは止めよう。お行儀が悪いぞ。
「食ってみるか?」
「うん。とりょとりょのとこな」
リヒトがほんの少しスプーンに取ってハルに食べさせる。あーんとハルが大きなお口を開けて食べた。
「どうだ?」
「にげーな。あまくねーじょ」
「だから言っただろう」
ハルちゃんは生クリームたっぷり、果物も乗っていると嬉しいって感じだからね。まだまだほろ苦いフォンダンショコラは早いだろう。
そこにルシカが入って来た。ワゴンを押している。きっと、ハル用のオヤツがあるぞ。
「ハル、起きましたか」
「りゅしか、こりぇ、にげーじょ」
「それは大人用ですよ。ハルはこっちです」
ルシカが出してきたのは同じフォンダンショコラでも、生クリームがたっぷり添えてありイチゴも乗っていたりする。正に、ハル用だ。
お邸だと、ルシカが作るオヤツも手が込んでいる。旅ではこうはいかない。
「にがくね?」
「大丈夫ですよ。これは甘いです」
「やっちゃ。いたらき」
カエデとシュシュにも同じものが出された。流石にミーレは大人用らしい。
「カエデ、良いから座って食べなさい」
「ミーレ姐さん、いいんか?」
「いいわよ」
「ほな、いただきます!」
カエデもハルの様に、たっぷりと生クリームを付けて食べている。
「うめーな」
「めちゃ、美味しいにゃ~」
外はサックリ、中はしっとり。スプーンを入れると、トロリとしたチョコレートが出てくる。
「うめー」
「アハハハ。ハル、もうほっぺに生クリームが付いてるぞ」
「いいんら、ろうやってもちゅくんら」
そんな事はない。ないのだが、ハルはいつも大きなお口をあーんと開けて食べる。
なのに、いつの間にかほっぺについてしまう。それはどうしてなのだろう?
「まだちびっ子ですからね。溢さないのだから、上手ですよ」
「りゅしか、しょうか?」
「はい。ハル用のカトラリーだと上手に食べますね」
「ふふふん」
自慢気にしているが、ほっぺには付いている。それをルシカが横から拭いている。
「また、ちゅくけろな」
お決まりだ。いつもの事だ。
それよりも、シュシュだ。真っ白なお顔の口周りにチョコレートがべったりと付いている。
「シュシュ、めっちゃ付いてるで」
「あら、そう?」
べロロンと舌でチョコレートを舐め取る。大きな舌だ。それにお口だって大きい。
それでもシュシュも口周りには必ず付いてしまう。何故なら、そのまま齧り付いているからだ。
虎さんなのだから、それは仕方がないだろう。
「カエデは上手に食べるようになりましたね」
「ルシカ兄さん、ほんま? 嬉しいにゃぁ~」
カエデは奴隷だった事もあり、マナーを知らなかった。カトラリーの使い方からミーレに教わった。もちろん、マナーもお辞儀の仕方から教わったんだ。
「ミーレ姐さんに教わったからな」
「え? おりぇ、おしょわってねーじょ」
「あら、ハルは教える必要なんてなかったもの」
「そうですね。ハルは最初からできましたから」
「しょっか?」
また、あーんと大きなお口を開けて食べる。そしてほっぺに付く。食べている間はエンドレスだ。
そんなハルを、長老が微笑ましく見ている。
ずっと旅だった。こんな時間も良いだろう。




