181ー一休み
大森林に精霊女王がいるなら、精霊王には分かるらしい。だが、居る気配がない。だからこそ、ハル達に頼んだのだ。
だが、どの国にも精霊女王はいなかった。もうヘーネの大森林しか残っていない。
いや、正確にはセイレメール王国もまだなのだが。念のため、長老が確認する。
「まさか、海底に行かれているのではないでしょうな?」
「海底は海の精霊がいるのだ。だから精霊女王が行く事はない」
ほうほう、海の精霊がいるのだそうだ。それは見てみたいのではないか?
「海のしぇいれい!?」
ほら、ハルちゃんが大きなお目々をキラッキラさせているぞ。
「ハル、行かないぞ」
「えー、りひと。なんれら?」
「そりゃそうだよ。精霊女王様が、行く事はないと分かっているんだ」
「しょっか。けろ、見てみてーじょ」
「まーな」
なんだ、リヒトも興味があるのか。
「でも、行かないぞ」
「しゃーねー」
ハルちゃんは、相変わらず態度がデカイ。精霊王にもタメ口だし。何気に1番前に、デデンと立っているし。
しかし、このヘーネの大森林しか残っていないのだ。
「とにかく、精霊樹を確認して来るとしましょう。もう他国には居られないと分かっておりますからな」
「長老、手間を掛けるな」
「いえ、何を仰います」
「ハルもすまぬな」
「きにしゅんな」
やっぱりハルは、タメ口だ。
そして、城の中庭にハルと奴の声が響いている。そう、ハルを待っていたフィーリス第2皇子だ。この2人が寄ると碌な事をしない。
今日もお目付け役のルシカが目を光らせている。
「もっしもっしかぁめよ〜、かぁめしゃ〜んよぉ〜♪」
「アハハハ! ハルはその歌が好きだな!」
「亀しゃんのお歌ら! かぁめしゃ~んよぉ~♪」
ハルがこのお歌を歌っていると言う事は、そうだ。ウルルンの泉に棲みついている、大きな亀さんに乗っているんだ。先頭にコハルさん、その後ろにハルとフィーリス殿下が乗って、のっしのっしと大きな亀さんが行く。
その亀さんは聖獣で、しかも水神様の遣いではなかったか?
「ハルちゃぁーん、あたしが乗せてあげるわよぅー!」
白い奴が隣を歩いている。最近、こればかり言っている。
「しゅしゅ、あとれなー」
「ええー! そんなぁー!」
「よし! いくじょー!」
「行くなのれす!」
「行くのだぞーぅ!」
亀さん、大丈夫だろうか? 迷惑ではないのかな?
シュシュに乗って走り回るよりはマシか? それでもそろそろルシカの我慢が限界みたいだぞぅ。
「ハル! 危ないですよ!」
「亀しゃん、すぴーろあっぷれきねーか?」
「無理を言うではないわ」
「しゃーねー」
「だからハルちゃん、あたしなら早く走れるわよー!」
「シュシュ、あとれなー」
おやおや、つれないね。ハルちゃん。
「またハルとフィーリスか!」
第1皇子のレオーギル殿下までやって来てしまった。これはもうヤバイぞ。
「こら! フィーリス! ハル! また聖獣様に乗って!」
「ハル! 戻って来なさい!」
ほら、叱られた。ハルもフィーリス殿下も、毎度毎度懲りないね。
「ハル、兄上が来てしまったぞぅ」
「まじーな」
「拙いのだ。戻るのだぞぅ」
「戻るなのれす」
コハルもいつも一緒なのに、叱られる時にはちゃっかり亜空間に入っていていない。要領の良いコハルさんだ。
大きな亀さんがUターンをして、レオーギル殿下とルシカが待っている方へとのっしのっしと戻って来た。
「ハルは、本当に毎回毎回」
「フィーリス、お前もだ」
「そう叱るでない。ワシも楽しいのだ」
「しかし、聖獣様」
「よいよい。ちびっ子は元気でよい」
そんないつものパターンで叱られ、ハル達はリヒトの実家に戻って来た。
今か今かと表で待っていたのが、リヒトの母であるリュミ・シュテラリールだ。
「ハルちゃん! お帰りなさい!」
「かーしゃま! たらいまー!」
ハルが躊躇せず、走って行く。それをしゃがんで抱きとめるリヒトの母。
ハルちゃん、素直な可愛らしいちびっ子になったものだ。
「ただいま戻りました。母上」
「お帰りなさい。長老もお疲れ様でした」
「いやいや、また行かねばならないのだ」
「え? そうなのですか?」
これからヘーネの大森林を捜索だ。取り敢えず、リヒトの実家で一休みらしい。応接室でオヤツを貰っている。
「ぶどうジュースとりんごジュース、どちらにしましょうか?」
「りんごじゅーしゅがいいじょ」
イオスの父、ロムスに世話を焼かれているハル。ロムスは平常心の様な顔をして、平静を装ってはいるがちびっ子が大好きだ。もちろん、ハルが大好きだ。
なんなら、カエデの世話も焼きたいらしい。
「カエデも座りなさい。疲れたでしょう?」
「ロムスさん、大丈夫やで」
「そうですか? ジュースを飲みますか?」
「うん、有難う」
「皆も構いませんから、座りなさい。皆が座らないと、カエデが座らないでしょう」
ちょっぴりイオスが、笑いを堪えている。ちびっ子大好きエルフなのだから仕方がない。
「今日は父上と兄上は出掛けているのですか?」
「そうなのよ。ヘーネの大森林でね、魔物同士が争っているとか言って呼ばれて行ったわ」
リヒトの父親は、ガーディアンの総司令官だ。なのに現場に出るのか? 総司令官が呼ばれるなど、大変な事が起きているのではないか?
「また、じっとしていられないのでしょう?」
「そうなのよ。態々あの人が出なくても大丈夫なのよ」
……だ、そうだ。少々脳筋気味で「野菜で力が出るか!」がモットーの、リヒトの父らしい。




