178ー終わったじょ
「長老、栄養過多なのれす」
「お? そうか?」
ほら見ろ。長老、やり過ぎだ。
コハルまで少しジト目で見ているぞ。
それにしても、この国の精霊樹は元気が良い。いくら長老がやり過ぎたからと言っても、実が無ければ生えてこなかっただろう?
いくら精霊樹でも、何もない場所からは生えてこない。
「何百年も前に実が地面に落ちたのれす。それが、長老の魔法で大きくなったなのれす」
「何百年なのか?」
これはまた時間の感覚がおかしくなる。
コハルの知識によると、精霊樹が成長するには百年どころではないらしい。
芽を出すまでに数百年。そこから成長して大きくなるまでにまた数百年かかるのだそうだ。
その精霊樹が、長老の魔法に反応して一気に成長した。
どれだけ本気でやっちゃったのだろう? 今迄も実から直ぐに成長したのは、もしかして長老の魔法の所為なのか?
「ワッハッハッハ! それ程本気でもないのだがな」
本気でもないらしいよ。長老の力は計り知れない。
「じーちゃんは、ちょっち加減ってもんをしねーとな」
おやおや、ハルにまで言われている。
ぽっこりお腹に、ではなく。腰に両手をやって、超上から目線のハルだ。
「ハル、精霊獣を呼び出すなのれす」
「あ、しょうら。わしゅれてたじょ。ひぽ」
「ぶも」
短い尻尾をフリフリしながら、ヒポポが一鳴きした。
「ぶもぉッ」
すると、新しく成長した4本の精霊樹から出てきた4匹のモグラさん。
今度はオレンジ色、水色、ピンク色、ラベンダー色だ。同じ様に背中と尻尾に葉っぱが付いている。
「ちっせーじょ」
「ほんまや、さっきのモグラさんよりちょっと小さいやん」
「赤ちゃんなのれす」
「かぁわいいなぁー! おいれー」
「ハルちゃん、またみんな寄ってくるで」
「いいんら。可愛いじょ」
ハルが手を出すと、案の定ワラワラと寄ってくるモグラさん達。
この国では精霊樹や精霊獣が元気だった。本数自体はアンスティノス大公国よりはずっと少ない。だが、瘴気を浄化する魔石がちゃんと設置されて機能しているからだろう。
アンスティノス大公国では、精霊樹だけが浄化をしていた。
その為、精霊樹に負担がかかり元気がなかった。
さて、ハルちゃん。モグラさん達と触れ合うのが目的ではないのだよ。
「ハル、肝心な事を聞かないとだ」
「あ、しょうら。いちゅもわしゅれりゅじょ」
どうしてだ。一番肝心な事ではないか。
「ひぽ、聞いてくりぇ」
「ぶも」
ヒポポが精霊獣の側に行き、ぶもぶもと話している。
「ぶも」
「なんら、しょっか」
「ハル、ひぽぽは何と言っているんだ?」
「じーちゃん、じゅっとじゅっと前に来たって」
「ずっとずっと前なのか?」
「しょうら」
「長老、ならかなり前なのだろうな」
「まさか数千年単位だったりするのかもな」
精霊獣の時間感覚は理解できない。長命種であるエルフ族でさえ、感覚が分からない。
どちらにしても、ここにはかなり前に来たと言う事だろう。
「ハル、美味い物でも食べて帰るか」
「え、じーちゃん。帰りゅのか?」
「もう全部回っただろう?」
「らってみちゅかってねーじょ」
ハルの言う通り、精霊女王が見つかっていない。一体どこへ行ったのか?
最初にドラゴシオン王国に行った。次にアンスティノス大公国だ。この国にいるだろうと皆予想をしていたが、違っていた。そして、このツヴェルカーン王国だ。
ここにも精霊女王はいなかった。
「ハル、後は大森林の精霊樹を探すしかないな」
「長老、簡単に言うけど」
「ああ、リヒト。樹の中から樹を探すんだ」
「気が遠くなるな」
「そうでもない。ワールドマップがあるだろう」
ハルが未だに活用できていない、ワールドマップだ。
ワールドマップに示される場所を手掛かりに精霊樹を大森林の中から探す事になるらしい。
リヒトが言う様にヘーネの大森林はその名の通り、広大な範囲に多くの樹が繁っている。
多くの樹の中から精霊樹を探すのだ。いくらワールドマップがあっても、これは大変そうだ。
「なに、近くまで行けばハルの手の甲の印が反応する。そう大変でもないだろう」
「まあ、知らない国に行くよりはだな」
「そういう事だ」
「よしッ、帰りゅじょ! かえれ、帰りゅじょ!」
「はいにゃ。ハルちゃん」
「ハル、その前に親方の工房に寄らないとだ」
親方にみんなの剣のメンテナンスを頼んである。それを受け取りに行く。
帰りも長老の転移でサクッと城へと戻る。律儀にロマーティとシオーレが待っていた。
「長老、リヒト様、お疲れ様でした」
「おう、待っていなくても良かったのに」
「リヒト様、ハルちゃんに会えないのは寂しいですから」
「おりぇか?」
そうだよ、ハルちゃん。ロマーティは生粋のエルフっ子だ。ちびっ子大好き。ハルちゃん大好きなんだ。
「もう終わったじょ」
「はい、ハルちゃん。疲れませんでしたか?」
「らいじょぶら」
「お部屋にオヤツをご用意してますよ」
「お、ありがちょ」
「ああ、可愛い。なんて可愛らしい!」
ほら、ロマーティがクネクネしている。悶えているのだろうか?
「ハルちゃん、その……お願いがあるのです」
「なんら?」
「ロマーティ、お前本当にさ。俺は引くぞ」
「いつも一緒にいるリヒト様には分からないのですよ」
「そうかよ」
ほら、ハルがなんだ? と、キョトンとしているぞ。
「ハルちゃん、お部屋まで抱っこさせて頂けませんか?」
「ん、いいじょ」
ほい、とハルが両手を出す。ハルも慣れたものだ。




