173ー地下の遺跡
さて、城の地下にある遺跡にやって来た一行。また同じメンバーだ。
王は張り切って付いて来ている。
「私は見たいのだ!」
「陛下、ここまでですよ。私も次は我慢して、行かないのですから」
「宰相、私は見たい!」
「ですから、危険です」
まだ揉めているらしい。
ロマーティとシオーレのエルフコンビは、アッサリとしたものだ。
「次は火山地帯ですから、無理ですよ」
「はい、無理です」
危険なのだ。まさか、突然噴火する事はないだろう。何しろ火山地帯の地下にある大きな設備が、噴火のエネルギーを緩和しているのだから。
それでも、火山地帯だ。万が一を考えると、同行は駄目だ。
「まあまあ、とにかくこの遺跡を調べましょう」
ルシカが世話役の様になっている。こんな時は頼りになるルシカだ。
「ハル、分かるか?」
「じーちゃん、変らな」
ハルがお決まりのポーズで、ワールドマップを見ている。長老に抱っこされ、両手を胸にやり目を閉じている。
その指をピンと真っ直ぐに伸ばしたお手々が、ぷくぷくで可愛いぞぅ。
「らって、おりぇ、この遺跡に来たことありゅじょ。なのに、真っ白白なんら」
「そうだろう、ワシのワールドマップもそうだ」
長老のワールドマップも白いという事は、長老も入った事がない場所にあるという事か?
「一度、遺跡の奥まで行ってみるか」
「しょうらな。まら奥がありゅのかも知りぇねーじょ」
以前の遺跡調査で、見落としたのだろうか? 隠し部屋的なものがあるのか?
遺跡に入り、そのまま1番奥を目指す。
「な、な、なんと……こんなに大きな魔石が浮いているぞ!」
おや? ドワーフ王は、ここを見るのが初めてらしいぞ。
大きなクリスタルに、古代の魔法言語で書かれた術式がリボンの様に絡みつき、上下の魔法陣で固定されている。
今はもちろん、クリスタルは透明に輝いている。これが、黒くなっていたんだ。
それをルシカが説明している。
まるで、ツアーコンダクターだ。いや、解説員の方が合っているか。
「本当はこんなに透明なのですね」
「ロマーティが見た時は黒かっただろう?」
「そうなんですよ、リヒト様。いくらピュリフィケーションをしても駄目でした」
以前、長老達が来る前に、リョースエルフであるロマーティは浄化を試みていた。だが、力及ばず長老にヘルプをしたのだ。
その魔石を長老とハルとで浄化した。
ロマーティ達リョースエルフ種より、ずっと能力の高いハイリョースエルフの長老とハルの2人掛でだ。
その壁には、例の壁画がある。ドワーフ王は釘付けだ。隅から隅まで目に焼き付けようと、前のめりになって見ている。
「おお! 本当にドラゴンが描かれているぞ!」
「陛下、これは素晴らしいですね!」
ドワーフ王と宰相だ。
「じーちゃん、ちょっちおりりゅじょ」
「ハル、そうか?」
「ん、しぇいりぇいが話してりゅ」
ハルは精霊を見る事ができる。話もできるんだ。
長老に降ろしてもらい、トコトコと壁に向かって歩いて行く。片手で、壁をペタンペタンと触りながら壁沿いに歩く。
そのハルのすぐそばを、シュシュが守るように行く。
「ハルちゃーん、あたしに乗っちゃうぅ?」
「シュシュ、ありがちょな。けろ、今はのりゃねー」
「あぁーん、そうなのぉー?」
シュシュは、守るというよりも、邪魔をしていないか?
「シュシュ、わかりゅか?」
1番奥の壁でハルが立ち止まった。
「ハルちゃん、どうして前は気付かなかったのかしら?」
「分かんねー。けろ、守りゃりぇてんら」
「本当ね、精霊が守っているんだわ」
説明をしてくれないと、何が何やら分からないぞ。ハルちゃん。
「じーちゃん、この奥ら」
「そうか。またハルが触ったら良いのではないのか?」
「ちげー。ひぽ」
ハルがヒポポを呼んだ。
さっき一仕事を終えて、コハルと一緒にハルの亜空間に引っ込んでいたヒポポが、ぶもッと大きなお顔だけ出した。
頭の上に、コハルが乗って寝そべっている。何をしていたのか?
「ひぽ、この奥に行きてーんら」
「ぶもぶも」
はいはい、と言うように頭を上下に動かして一度亜空間に引っ込んだ。
そして、コハルと一緒にポポポンと勢いよく出てきた。良いコンビだ。
「ひぽ、ろーしゅんら?」
ハルも、どうすれば良いのか分からないらしい。
「ハルの魔力をヒポポに流して手助けするなのれす」
「おりぇか?」
「はいなのれす。この先は精霊獣の魔力に反応するなのれす」
なるほど、それにハルの魔力で手助けすると?
「ヒポポは自分の精霊樹から、離れているなのれす。だから本来の力が出せないのれす。ハルが助けるなのれす」
コハルちゃん、もしかして最初からこの先があると知っていたのかな?
前回は精霊獣のヒポポがいなかった。だから、この先には進めなかったという事だろうか?
「精霊獣のヒポポがいないと、ダメなのれす」
やはり、そうらしい。
ハルがヒポポの背に……いや、お腹辺りに手を当てる。
「ひぽ、いいじょ」
「ぶも」
ヒポポがハルと一緒に奥に近付き、一鳴きした。
「ぶもぉッ」
すると、あらあら不思議。奥の壁だと思っていた所が揺らぎ、扉のように左右に開いた。あの壁は幻影だったのか?
「な、な、なんと!?」
またドワーフ王が驚いている。しかしこれは、さすがの長老も驚いていた。
「精霊獣がいないと反応しないのか。それは前回、気づかなかったはずだ」
扉の先はどうなっているのか? 既に光が漏れ出しているぞ。




