172ーしゅくねーじょ
「私は長老が杖を使うのを初めて見ました」
ロマーティとシオーレだ。同じエルフ族でもそうなのか。
長老はやり過ぎるんだ。杖が必要なのか? と、聞きたいくらいだ。
「それよりも、あれは実なのですかな?」
宰相の疑問だ。無理もない。だって、りんごのような形をしているが、見た目はクリスタルなのだから。
「あれが精霊樹の実なのですよ」
すかさず、ルシカがフォローしている。
精霊樹に元気がない場合は、あの実を預かっているコハルが出して植えるのだと、補足も忘れない。
「え、なりゃこはりゅ。しぇいれいじゅうは、こんらけか?」
「そうなのれす」
「えー、ちゅまんねー」
ハルちゃん、つまんなくはないのだぞ。
「こはりゅ、植えねーのか?」
「必要ないなのれす」
「ええー、もっといっぱい、しぇいれいじゅうが出てこねーのか?」
どうやら、ハルはもっと沢山の精霊獣を期待していたらしい。確かに、アンスティノス大公国ではそうだった。
精霊樹に元気がないからと、コハルが実を出し沢山植えた。その精霊獣がワラワラと出てきて、ハルは嬉しそうだった。
「あの実が自然に落ちて、精霊樹になり精霊獣も生まれるなのれす」
「こはりゅ、今がいいじょ」
「充分なのれす」
コハルも譲らない。と、言うかコハルは今の状況を判断して言っているだけだ。
ハルの期待がどうとかは考えていない。気付きもしていない。
「しゃーねー」
ハルちゃん、諦めたみたいだ。
そう言うハルの頭や肩に精霊獣が乗っている。尻尾に小さな炎がユラユラと揺れているんだ。
「ハルちゃん、熱くないんか?」
「かえれ、何がら?」
「だって、精霊獣の尻尾に火がついてるやん?」
「あー、あちゅくねーじょ」
「へー、凄いなぁ。燃えてへんしなぁ」
確かに、ハルの髪や服が燃えたりしていない。しかも、熱さは感じないらしい。不思議なものだ。
「しゃーねー、んじゃ終わりらな」
「こらこら、ハル。ヒポポに聞いてもらう事があるだろう?」
「あ、じーちゃん。わしゅれてたじょ」
1番肝心な事じゃないか。精霊女王の行方を探しているのだろう? それを忘れてどうする?
「ひぽ、聞いてくりぇりゅか?」
「ぶも」
ヒポポが、ハルに近づく。何故なら出てきた精霊獣が、皆ハルの頭や肩に乗っているからだ。
キョトンと立っているハルの、頭や肩に精霊獣。想像してみて欲しい。
ハルちゃん、何をしていても可愛いぞぅ。
「ぶもぶも」
ヒポポが話しかけると、精霊獣が何やら話しているらしい。微かに、キュゥと小さな声が聞こえてくる。
背中にある2対の葉っぱを、パタパタと動かしている。
「ぶもッ」
「しょうなのか!?」
「ハル、どうした?」
「この国のしぇいれいじゅを、まわりゅって言ってたんらって」
「ほう、この国か」
だが、それがいつの話なのかだ。
「ちょっち前らって」
「さて、どれくらい前なのか」
「長老、だよなぁ」
「ここで考えていても仕方あるまい。次に行こう」
そうそう。次だ。次はどこだ?
「では長老、城の地下にある遺跡ですかな?」
「そうですな」
宰相が話した通り、次は城の地下にある遺跡に向かうらしい。地下にある精霊樹は初めてだ。
「ハルくん、その精霊獣に私も触れないかな?」
ルシカの説明を聞きながら見ていたドワーフ王だ。触りたかったらしい。
「ん? しゃわりぇりゅじょ。ほりゃ」
ハルが肩に乗っていた精霊獣をそっと両手に乗せて、ズズイとドワーフ王の前に出した。
「おおー!」
ドワーフ王が、ゆっくりと手をのばす。すると、精霊獣がヒョイとドワーフ王の手に乗り移った。
キュルと小さく鳴きながら、つぶらな瞳でドワーフ王を見つめている。
相変わらず、背中の葉っぱを動かしている。
「重さや熱さを感じないのだな」
「しょうらな。どの、しぇいりぇいじゅうも、しょうらじょ」
「ハルちゃん、自分も触りたい!」
「いいじょー」
ハルはまたヒョイと、精霊獣を差し出す。すると、精霊獣も抵抗なくカエデの手に乗りそのまま肩まで登って行った。
「にゃぁ〜、可愛いにゃぁ!」
「カエデ、ズルイわよ」
「なんでやねん。シュシュも乗せてもらったらいいやん」
「ハルちゃん、あたしも! あたしも触りたいわ!」
「おー」
ハルが同じ様に、精霊獣をシュシュに差し出した。だが、精霊獣が動かない。
「え? なんで? どうしてなの?」
「にゃははは! シュシュは嫌われてるんやわ」
「なによ、カエデ!」
「シュシュは聖獣だからなのれす。シュシュの方が、ちょびっとだけ偉いなのれす」
「やだ、そうなの?」
そうらしい。聖獣と精霊獣の関係性は分からないが、どうやらシュシュの方がほんの少し偉いらしい。だから、精霊獣は乗りたがらないんだ。
「でもまだ、ピヨピヨなのれす」
「もう、コハル先輩。それは言わないで」
精霊獣は精霊女王に従うもの。聖獣はこの世界の神が認めたもの。その差なのだろうか?
「かじゅはしゅくねーし、お歌も歌えねーし」
こらこら、ハルちゃん。何を言っているんだ。
「アハハハ、ハルは物足りないか?」
「らって、じーちゃん。しゅくねーじょ」
「この国は瘴気を浄化する設備が、しっかりとしておる。だから、精霊樹もこれで充分なのだろう」
なるほど。長老、さすがだ。
さて、次は城の地下だ。
お読みいただき有難うございます!
昨日投稿したつもりが、できていませんでした^^;
申し訳ありません。
本日、ハルちゃん第1巻が発売です!
お手に取って頂けると嬉しいです!




