171ー驚き
ドワーフ族とロマーティとシオーレの5人は、目が零れ落ちそうなくらい驚いているのだが、ハルはお構いなしに進めていく。
「ひぽ、出てきてくりぇ」
「ぶもッ」
やっと呼んでもらえたと、張り切って出てきた。大きな体に小さな瞳と尻尾、6本足のカバさんだ。これまた驚かれた。精霊獣を見るのは初めてだ。
「私は昨日見ていますからね」
そうだった。ドワーフ族の宰相は昨日部屋に訪ねて来た時にヒポポを見ている。菓子が空中を浮いて消えるというホラーを体験している。
こんな時は、フォロー担当のルシカの出番だ。いつの間にか王達の側に付いて、ちゃんと説明をしている。こんな時は頼りになる奴だ。
「精霊獣とは、私達でも知りませんでした」
「エルフ族でもか?」
「はい、陛下。精霊樹だって初めて聞きましたから」
それは長老達だってそうだった。ハルに付いて精霊王に説明を聞くまでは、精霊樹の存在を知らなかったんだ。
ハルはその名前を知らなかったが、あれがきっとそうだと分かっていた。ドラゴン族のおばば様の庭に、光っている木があったと話していた。
ハルの加護『世界樹の愛し子』が大きく関係している。なにしろ、世界樹の精霊が精霊王なのだから。
「ひぽ、よんでくりぇ」
「ぶも」
ヒポポが、ここは自分の出番だよと一歩前に出て鳴いた。
「ぶもぉ」
すると、3本の精霊樹から出て来た大型のトカゲさん。と、いっても30センチほどある。トカゲと言っていいのか? 大きなまん丸の目をしていて、眉毛の様に細長い葉っぱが付いている。背中には2対の葉っぱ、そしていつもなら尻尾にも葉っぱがあるはずなのだが。
「おー、もえてりゅじょ」
「火山地帯だからか?」
「火龍の類なのかも知れんな?」
そう、尻尾に付いているはずの2対の葉っぱの代わりに、小さな炎が揺れていたんだ。
体色は淡いクリーム色をベースに大きな縞模様がある。その縞模様の色が、クリームイエローと、ベビーピンク、それにライトブルーだ。
今迄見て来た精霊獣の中では大きい方だ。アンスティノス大公国を先に回って来たからかも知れない。あの国の精霊樹はみんな弱っていたのだから。
改めて、ヒポポは大きな精霊獣なのだと思える。
「元気らな! よかったじょ」
ハルが手を出すと、それに向かって飛んでくる。背中にある小さな羽をパタパタと小刻みに動かしながら。
「おー、おいれ、おいれー」
「アハハハ、ハルは何でも呼ぶから」
「ハルちゃん、元気そうで良かったやんな」
「らな」
カエデが一緒になって手を出している。が、精霊獣はみんなハル目掛けて飛んでいる。
「えー、やっぱハルちゃんがいいんやな」
「ふふふん」
「ハルちゃん、自慢気やん」
「ふふふん」
ちびっ子コンビは可愛らしい。ここに白い奴が入ると姦しくなる。
「ハルちゃ~ん!」
やはり白い奴は黙っていなかった。
「しゅしゅ、まってりょな。後れ、あしょぼうな」
「ええー、ハルちゃ~ん!」
「しゅしゅ、今は違うやろ。精霊獣やん」
「カエデ、分かっているわよ。でもハルちゃんのそばに居たいじゃない」
「ほな、黙っていたらいいねん」
「あら、なんかムカつくわ」
「なんでやねん」
ほら、姦しくなってきた。そんな事には構わず、ハルは出てきた精霊獣と戯れる。
大きなトカゲさんなのだけど、目が笑っているように見えてしまう。
表情は変わらないのに、喜んでいるように見えるのだから不思議だ。
「コハル、ここは植えなくても良いだろう?」
「はいなのれす」
3本生えているし、元気だ。
「長老、それでもやっとくなのれす」
「そうか?」
「はいなのれす。栄養なのれす」
「よし、任せなさい」
ああ、また長老がやり過ぎてしまう。確信犯だから仕方がない。
長老がどこからか魔法杖を出した。それを、掲げて静かに詠唱する。
「ピュリフィケーション……ヒール」
精霊樹だけでなく、辺り一面にキラキラと光りながら白い光が降りていく。
すると、精霊樹がより輝き出した。そして、驚いた事に白く光りながら精霊樹の枝が伸び、葉っぱが出てその先に芽が出て花が咲き、みるみるうちに精霊樹の実が生ったんだ。こんな事は初めてだった。
「長老、どんだけやり過ぎてんだよ」
「いやいや、リヒト。ワシはいつも通りにやったぞ」
「精霊樹が元気だからなのれす」
「コハル、そうなのか?」
「そうなのれす」
そうか、だから植える必要がなかったのだな。
で、この実はどうするんだ? このままで良いのか?
「自然に地面に落ちて木になるのれす」
「ほう、そうなのか」
長老が何だったら、またやっちゃう勢いだ。
「じーちゃん、しゅげーな」
「驚いたな」
もっと驚いている人達がいるぞ。
今回参加の5人だ。あんぐりとお口を開けて驚いている。
精霊獣だけでも驚いていたのに、目の前で木の枝が伸びて実が生ったんだ。それは驚くだろう。




