169ーもう1本
小さな葉っぱのついた尻尾をフリフリとしながら、クッキーを食べている。
ヒポポのお口が大きいので、クッキーがとっても小さく見えてしまう。
長老が宰相に精霊獣の説明をした。
今回、調査しようとしている精霊樹には必ず精霊獣がいるのだと。
それらは普通では見る事ができない。エルフでさえもそうだ。
それをコハルの能力で、一時的に見えるようにしたのだと。
コハルはただの聖獣ではない。神使なのだ。もっている能力は比べ物にならない位に大きい。記憶にしても、聖獣という枠を超えたものを持っている。滅多に披露はしないが、創世期の記憶もあるらしい。
「精霊とは……我々ドワーフは、主に火の精霊を敬っておりますな」
親方もそう話していた。見えなくても、敬う気持ちが大切なのだ。
そんな気持ちを神は大事にする。
「こうして、いざ目の前に精霊獣がいるのを見ると、なんとも不思議なものです。しかし、精霊を祀ってきた事は正解だったのですな」
「我々エルフ族もそうです。ハルとコハルのお陰で、精霊王に会う事もできた。それに今回の様な経験は滅多にない事です」
「なんと!? 精霊王ですか!」
目をまん丸にして驚いている。ヒューマン族だと、そんな御伽話をと一笑されていたところだ。
このツヴェルカーン王国には精霊樹が二つあるとハルは言っていた。
「実はもう1本あるやも知れん」
「じーちゃん、しょうなのか?」
「ハル、もう1度ワールドマップで見てみなさい」
「ん、分かったじょ」
はい、お決まりのポーズだ。ワールドマップと言えば、ハルは目を閉じて両手を胸にやる。今日はその手にクッキーを持っている。それは良いのか? 半分齧ったクッキーはさ? ほら、プクプクのほっぺに屑がついているぞぅ。
「ありぇ? じーちゃん、ここにありゅのか?」
「分かったか?」
「ん、ぴかぴかしてりゅじょ」
「長老、どう言う事なのでしょう?」
長老も国に入るまで気が付かなかったらしい。何故なら城の真下、地下にあるからだ。反応が小さかったのだろう。
ツヴェルカーン王国の城の地下には遺跡がある。きっと、そこなのだろう。
「もしかして、まだ見ていない遺跡があるのかも知れんな」
「そうなのですか!?」
長老がワールドマップで見た限りでは、遺跡があるだろう位置から微妙にズレているような気がするのだそうだ。
この国の火山地帯にある遺跡は、奥にもう一部屋あった。しかも広い大きな遺跡だった。
そんな物があるのかも知れない。
だが、地上からだと何分反応が鈍い。地下の遺跡に行ってみるしかないのだろう。
「遺跡に関する事は、全面的にエルフ族に任せておりますからな。我々ドワーフ族は浄化ができないので」
ツヴェルカーン王国だけではない。各国にある遺跡のメンテナンスを、エルフ族は一手に引き受けている。
遺跡にある巨大な魔石を、浄化する必要があるからだ。そんな事ができるのは、エルフ族くらいだ。
「今回の調査は是非私も同行したいものです」
「アハハハ、陛下もそう仰ってましたな」
「そりゃそうですよ、長老。エルフ族の方々の能力を目の前で見られるだけでなく、精霊樹です。そりゃあ、見たいでしょう!」
興味津々といった感じか。だが、ゲレールが同行すると言っていたぞぅ。
「何も同行者が一人と決まっているわけではないでしょう?」
「アハハハ、そりゃそうだ。ワシ等はかまいませんぞ。だが、そうなると陛下が臍を曲げるだろうと」
「そうなのですよ、そこが問題なのです」
はいはい、別に誰が同行しても良いのじゃないか?
何なら一層の事、陛下や宰相も一緒に行けば良い。ね、コハルちゃん。
「かまわないなのれす」
「コハル、そうか?」
「はいなのれす。ドワーフ族なら全然いいなのれす」
このコハルの一言を宰相から聞いた陛下は、超乗り気になってしまった。もう同行する気満々だ。
しかし、ヒューマン族だとあんなに渋っていたのに。コハルちゃんったら。
この日は宰相が同行すると言った事で、陛下まで乗り気になってしまって夕食までその話で持ち切りになってしまった。
翌日、その精霊樹の調査に出発だ。案の定、ゲレールや宰相だけでなく王も一緒にいる。
「聖獣様が良いと言ったのだ! 私は同行するぞ! 止めても無駄だ!」
ほら、張り切っている。コハルが良いと言ったのだから良いのだろうけども。
「陛下、構いませんがこの城の裏手と地下だけですぞ」
「えぇー! 長老、私は全部立ち会うぞ!」
「いえ、火山地帯はさすがに駄目です」
そりゃそうだろう。危険だ。万が一にも噴火なんてしたらどうするのだ。
長老だけでなく、ハルやリヒトがいるからいざとなったら転移できると言うものの、危険地帯には連れていけない立場の人だ。
「仕方ない。それで手を打とう」
渋々だ。王は同行する気満々でいつもと服装まで違う。
まるで、鍛冶職人のような恰好をしている。宰相はいつも通りなのに。
「いつもの恰好だと動き難いのだ。やはり私はこっちの方が良い」
どうやら、王も元鍛冶職人らしいぞ。ドワーフ族は本当に鍛冶が好きだ。
宰相も元鍛冶師見習いだ。なんなら鍛冶ができないと、王にはなれないのか? といったくらいだ。
遅くなりました!
慌てて書いたので、誤字報告お願いします!m(_ _)m
いつも読んでいただき有難うございます!
 




