150ーハルとおともらち
宰相の邸で遅い昼食をご馳走になった。
突然だったので、簡単なものだったのだが、それでもハルは美味しそうに食べていた。食べ終わると直ぐにウトウトとし出した。
「おやおや、まだ幼いからお昼寝が必要なのですな」
「ごめんなさいね、少し寝かせて頂いても良いかしら?」
「アヴィー先生、もちろんですとも。直ぐに部屋を用意させましょう。皆様も、ゆっくりなさって下さい。私は城に出向いて手続きをしておきますので、明日城に向かうという事で如何でしょう?」
「有難う、助かるわ」
という事で、ハルはアルセーニ君と一緒にスヤスヤとお昼寝だ。もちろん、あのデカイ白い奴、シュシュも一緒だ。ハルの頭の横にはコハルが、ベッドの直ぐ横にはヒポポもノベッと体を伸ばして眠っている。
亜空間に入るつもりはないらしい。
もう見られているから、気にしないのだろう。
「こうして見ていると普通の小さな子供なのに、ハルくんの能力は素晴らしい。さすが、エルフ族だ」
「あら、ハルはエルフ族とハイヒューマン族のクォーターなのよ」
「ハイヒューマン族ですか!? もう何千年も前に絶滅したという!?」
ハイヒューマン族は約2000年前に、現在のヒューマン族の祖先に絶滅させられた種族だ。
その最後の生き残りだったスヴェルト・ロヴェークの暴挙で、この貴族街は壊滅状態に陥った。
運よく、宰相の邸は難を逃れた様だが。
「この邸も門や庭は壊されました。生まれて初めて見た魔物は……それはもう恐怖でしたよ」
「そうでしょうね。ティノはこの国から出た事がないのでしょう?」
「はい、ありません。それどころか、5層や6層にも行った事がありません」
「俺達は毎日あの魔物と対峙しているんだ。大森林には魔物が生息しているからな」
「そうでした。大森林を守護しておられるのでしたね」
リヒトはベースの管理者だ。エルフ族が管理しているベース。そこは、大森林に入る多種族を監視するだけでなく、増えすぎないように魔物の討伐もしている。
太古の昔から続けられてきた事だ。エルフ族は『森人』と呼ばれることもある。
森を守り、森に生きる種族なんだ。
「エルフ族の国は大森林の中央にあるのでしょう? 私達ヒューマンが辿り着くことのできない国だと」
「そうね、結界で覆われているから、魔力量の少ないヒューマン族には認識できないわね」
「何もかも、違うのですね」
「ティノ、大切な事を忘れてはいけないわ。ヒューマン族やエルフ族だって、この世界に生きているのよ。他の種族もそうだわ。皆でこの世界の平和を守らないといけないの。その為の協定なのよ」
アヴィー先生が中心になって、この国の加盟を進めている。現大公も加盟を希望している。なのに、この国の一部の貴族達が反対をしているのだ。
最後の一国だ。何を考えているのか。
他種族との協定自体が嫌なのだろうか。
もう少しで空が夕焼けに染まりそうな時間になって、昼寝から起きたハルとアルティノ君が庭で遊んでいた。
この貴族街の2層でも、敷地が広い邸の作られた庭だ。
見る者が綺麗と思えるように、花の大きさだけでなく色も考えて植えられている。その庭に作られた小道を、シュシュがゆっくりと歩いている。
「あー! あうー! キャハハハ!」
「ありゅ、おもしれーか? シュシュはしゅげーらろ?」
「あうあー!」
こらこら、何をしているのだ。ハルはまだ赤ちゃんのアルセーニ君をしっかりと抱きかかえ、シュシュに乗っていた。
さすがにいつもの様に爆走はしていない。出来るだけ揺らさないように大人しく、ゆっくりと歩いている。
それだけなのだが、何しろ赤ちゃんのアルセーニ君を支えているのがちびっ子のハルだ。
心許ない。見ていてハラハラするぞ。
こんな時は彼に任せよう。
「ハル! 何をしているんですか! 危ないでしょう!」
そう、ルシカだ。こんな時にハルを止めるのは、ルシカしかいない。
「あー、りゅしから」
「ハルちゃん、おしまいね」
「しょうらな」
「あうあー?」
「りゅしかが怒ってりゅかりゃな、もうおしまいら」
「あうー」
「アハハハ、楽しかったか?」
「あう」
ヨシヨシとアルセーニ君の頭を、小さな手で撫でる。アルセーニ君はハルにとても懐いている。ハルも可愛がっている。
「ちびっ子コンビは可愛いなぁ」
「何言ってんのよ。カエデだってちびっ子よ」
「なんでやねん! ミーレ姐さん、自分はもうおっきいっちゅうねん!」
「ふふふ、そうかしら」
「そうやっちゅうねん」
いやいや、カエデだってまだ10歳の子供だ。10歳とは思えない位にしっかりとしている。それでも、まだ可愛らしい女の子だ。
今のカエデからは想像がつかないが、出会った頃は男の子のフリをしていた。
奴隷だった頃だ。あの頃より、髪が伸び体つきもふっくらとしてきた。
「かえれ、みーりぇ、中に入りゅじょ」
「はいな、ハルちゃ~ん!」
「はいはい」
その頃、直接城に出掛けていた宰相が戻って来た。
宰相直々に城に出向き、明日リヒト達が城に入れるように手続きをしてきたのだ。
「直接明日の件をお話してきました」
宰相が大公に直接交渉してきてくれたらしい。




