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14ー精霊獣

「精霊に導かれたかねぇ」

「おばばしゃま、この場所がいいじょ」

「そうかい、ハル」

「ん、精霊がいっぱいら」

「そうかい、そこに精霊樹があったのかい……ゆっくり眠れているだろうさね」

「ん、らいじょぶら」

「ハル、ありがとうね」


 おばば様がしゃがみ込み、そうっとハルを抱き締めた。おばば様の大切な場所だったんだ。自分の家に態々分骨しているくらいだ。どんな関係だったのか想像に容易い。


「ルシカ、お茶を頼めるかね」

「はい、おばば様。カエデ、手伝ってください」

「はいな、ルシカ兄さん」


 おばば様の家のリビングだ。木の匂いがしてどこか温かい。

 以前来たときには小さな火が入れられていた暖炉がある。広いテーブルには相変わらず手作りだろうテーブルクロスが掛けられていて、イスにもお揃いのカバーの掛かったクッションがある。

 家の外観は、何かの鉱石を同じ形に切り出した煉瓦の様な物を積み重ねて出来ているが、中に入ると木が多い。家具だけでなく壁や床もそうだが、天井は梁がむき出しで架け渡されている。落ち着く家だ。

 おばば様が家の中を見渡しながら話し出す。


「この家を建てたのも旦那なんだよ。ドラゴシオンは鉱石で建てられるのが普通なんだけどね、せめて内装だけでも木の温かみが欲しいと言って拘って建てたんだ」


 おばば様が懐かしそうに話す。今は亡きご主人もきっと温かい人だったのだろう。


「ここで子供も育てた。後の人生2人でユックリしようと言ってた矢先に病になってしまってね。あっけなかったよ」


 紅龍王が複雑な表情をして聞いている。


「これ、ホンロン。考え込まなくても皆が知ってる事だ。気にするんじゃないよ」

「おばば様、けど俺は知らなかった」

「あんた達はまだ小さかったから、覚えてないんだろう」


 ルシカとカエデが入れたての温かいお茶を出してくれている。

 

「良い思い出だよ」

「おばば様……」


 話を聞いて、リヒト達まで眉毛を下げて少し悲しそうな表情になっている。


「なんだい、リヒトまで気を遣うんじゃないよ。もう昔の話だよ」

「長い時を生きるワシ等は、パートナーだけでなく大切な人を失ってからが長いと堪える。しかし、それも長い時に癒されていくんだ。忘れる事はできないがな」


 長老も愛娘を亡くしている。目の前から突然いなくなった娘、ハルの祖母だ。長老も思い出しているのだろうか。


「あたしは偶々竜王達がいたからね。寂しいと思うヒマもなかったよ。あの子達も子供の頃は皆やんちゃだった。そりゃあもう手を焼いたよ」


 遠い日を思い出すように語るおばば様。


「まあ、いてくれたらとは思う事はあったよ」


 大切な人を亡くしてから数百年。どんな気持ちでいたのだろう。


「おばばしゃま、あしょこはいい場所らじょ」

「そうかい」

「ん」

「ハル、良い子だねぇ」


 ハルを撫でる手が愛しそうでとても優しい。


「ハル、精霊樹だけどね」


 そうだ。ハルは精霊樹を探しているんだ。その手掛かりになればとおばば様を訪ねていた。ハルが唯一、精霊樹だと認識している木があったからだ。

 ハルが思っていた木は確かに精霊樹だった。


「あそこにあるんだろう?」

「ん、ありゅじょ。元気ら。おばばしゃまのお陰ら」

「あたしは何もしていないがね」

「おばばしゃまの庭がいいんら」

「そうかい」


 花が植えられ薬草も育てられている。立派な野菜だって作られている。

 そして精霊が沢山いる場所だ。精霊樹にだって良い環境なのだろう。


「1つあたしが協力しようと思う」

「おばばしゃま」


 おばば様はそう言うと、また庭に降りていった。

 ハルや皆がおばば様の後を付いていく。

 精霊樹のある前でおばば様が立ち止まった。


「いるかい? 出ておいで」

「ぶもッ」


 おばば様が声を掛けると鳴き声がして精霊樹の後ろ側からのそりのそりと出て来た。

 体長は4メートル位だろうか。短い脚にぼってりとした身体、そして小さな耳。顔の側面に小さな、目、鼻が並んでいる。耳の辺りから下方へ向けて広がっている下膨れの顔が、最後はおおきな口へと繋がっている。


「かばしゃん!?」


 そうだ、見た目はハルの前世の世界にもいたカバだ。だが、ヒョコヒョコとよく動く耳と耳の間に小さな角が3本あり、足も4本ではなく、6本もある。

 そして、背中には小さな翼の様なものが2対ある。この巨体にこの大きさの翼で飛べるのか? と心配してしまうくらいの大きさだ。だが、耳と同じ様にパタパタと動く様がなんとも可愛らしい。


「この子は精霊獣なんだ。ヒポポタマスのヒポポだよ」

「ひぽ!」

「いや、ハル。ヒポポだとおばば様が言ってるだろう?」

「ひぴょ……ぴょ」

「アハハハ、言えてねー」


 ハルはどうやらヒポポとは言い難いらしい。


「ハル、ヒポでもいいさ」

「おばばしゃま、しょうか?」

「ああ、いいさ」

「ひぽ! おりぇははりゅら。よりょしくな!」

「ぶもッ」

「アハハハ! ないた!」


 ハルの顔に『ぶもぶもッ』と鳴きながら頬ずりするヒポポ。


「アハハハ、よりょしくな」

「やはり直ぐに懐いたね」

「おばば様、精霊獣とは初めて聞きますぞ」

「長老は知らないかい? そうか、エルフは見えないんだったね」

「はい、精霊を見る事は出来ませんが、あのヒポポは見えますな」

「精霊獣と言ってね、精霊の仲間さ。あの子はちゃんとこっちの言う事が分かるし聞いてくれるんだ。そして何より、精霊樹の場所を匂いで分かると言われているんだよ」


 精霊樹に匂いがあるとは思わなかった。


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