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116/220

116ーコハルさん、ズレてますよ

「みんな仲良しら。いたじゅらじゃなくて、一緒にあしょぶ方が楽しいじょ」

 ――一緒にー?

 ――遊ぶのー?

「しょうら」


 ハルが妖精族に向き合い、辿々しい言葉で話し続ける。

 この場所に棲みつくのはいい。だが、この場所を通るのは、ヒューマン族の子供達だ。

 ここで、勉強をしているんだ。その子達に悪戯をするのではなく、一緒に仲良く遊ぶ方が絶対に楽しいと。

 ハルが、ぷくぷくとした短い人差し指を立てて言い聞かせる。


「な、分かりゅか? 痛い事や嫌な事をしないれ、みんなと仲良くしゅりゅんら」

 ――うん……

 ――分かったのー

「ほんちょか?」

 ――うんー!

 ――遊ぶのー!

「しょうら。木の実を当てたり、魔法で怖がらしぇたりゃらめらじょ」

 ――わかったー

 ――わかったのー


 本当に分かっているのか、怪しいところではあるが。

 対他種族との接し方を知らないのだろう。


「アハハハ! ハル、妖精族に説教か」

「らって、じーちゃん。ここれ悪さをしなくても、他でしたりゃ一緒ら」

「そうだな」

「半分でも分かってくりぇたりゃいいじょ」


 それはそうと、この学園の中に入りたかったのは妖精の件だけではない。


「ハル、精霊樹だ」

「じーちゃん、あしょこらな」


 ハルと長老が見ているのは、木立の奥だ。アカデミーの敷地に入る境目らしき場所。そこに、一際キラキラと輝く木があった。


「うわ……マジなん!? めちゃキラッキラやん」


 おや、カエデは見えるらしい。コハルが、ムニッと手を当てた所為だろう。


「カエデ、見えるのか?」

「イオス兄さん、超見えるで」

「ズリーな。俺、見えねーし」


 カエデは別にズルくはない。コハルのお陰だ。


「イオスも見るなのれす」


 コハルが、またムニッとイオスの額に手を当てた。そして、ルシカやミーレにもだ。


「うわ……マジかよ」

「なんて綺麗なんでしょう」

「ハッキリと見えますね」


 もしもし、コハルさん。そんな裏技があるのなら、どうして最初からそれを使わなかった? 今更感が半端ないぞ。


「言われなかったなのれす」


 そうだ。コハルはこんなとこがある。きっと、感覚が違うのだろう。


「コハル、俺も頼む」

「え、リヒトは見えているのではないなのれすか?」

「ボヤーッとだよ。ハッキリ見たいんだ」

「コハルちゃん、私もお願い」

「分かったなのれす」


 リヒトとアヴィー先生の額にもムニッと。


「おぉー、全然違うぞ」

「本当ね、ハッキリと見えるわ」

「アハハハ、コハルは万能なんだがな」


 そうだ。万能なんだが、何しろ少し感覚がズレている。

 あれだけ、見えない、残念だと話していたのにだ。


「アヴィー、シールドを頼む」

「分かったわ」


 アヴィー先生が魔法杖を出した。

 アヴィー先生の魔法杖は、もちろん長老作だ。世界樹の枝で作られていて、透き通った綺麗なブルーの球体がついたエンブレムだ。

 何かを唱え、魔法杖で大きく半円を描く。それだけで目には見えないが、認識阻害のシールドが張られている。

 この認識阻害のシールド。まだハルやリヒト達には展開する事ができないらしい。


「ハルちゃん、いいわよ」

「よし、ヒポポ」

「ぶもッ」


 やっと出番が来たと、張り切ってハルの亜空間から出てきた。

 今までは、コハルが出ていても遠慮して顔だけ出していた。それはそれで、ホラーなのだけど。

 だって、何もない空間にカバさんの顔だけ浮かんでいるんだ。知らない人が見たら驚くだろう。

 ヒポポは精霊獣なので、ヒューマン族には見る事ができないのだが。


「この精霊樹はまだマシなのれす」

「そうだな。この場所が良かったのか? あの時よく魔物に倒されなかったな」


 2層と3層に魔物が出現した時だ。この学園がある3層も、壊滅状態になった。

 貴族の邸宅の殆どを立て直したんだ。


「学園は無事だったからだろうな」

「良かったわ、無事で」


 そうだ。本当に良かった。精霊樹が倒れると、その精霊樹の精霊獣も一緒に消えてしまうんだ。無事で良かった。

 学園の敷地の奥まった場所にあったから被害を受けなかったようだ。

 そこにある精霊樹は、まだ自分の力でしっかりと地面に根を下していた。

 確かに少し弱々しくはあるが、枝を伸ばし葉も茂っている。


「こはりゅ、やりゅじょ」

「お願いなのれす」

「よし、まかしぇりょ。ぴゅりふぃけーしょん、ひーりゅ」


 ハルがそう詠唱すると、白く輝く光が精霊樹を包み込む。ゆっくりと光が消えていくと、より一層精霊樹が輝きだした。


「うわ、全然違うやん。ハルちゃん、凄い事してたんやな」

「ふふふん」


 おやおや、ハルが自慢気にポヨンポヨンのお腹を……違った。胸を張っている。


「ひぽ、しぇいりぇいじゅうを呼んれくりぇ」

「ぶも」


 待ってましたと、ヒポポが一歩前に出る。


「ぶも!」


 ヒポポが一鳴きすると、出て来た小さな精霊獣。

 背中が、体毛の変化した棘で被われたハリネズミだ。棘のある背中に、グリーンの葉っぱの様な小さな羽が2対ある。あるのかないのか分からない様な、ピンクベージュの短い尻尾の先にも2枚の小さな葉っぱが付いている。よく見ると、棘に隠れながら小さな角が2本ある。

 背中の羽と、尻尾の葉っぱをヒョコヒョコと動かしながら、フワリフワリと浮かんでいる。

 飛んでいるとは言えない位に、前に進んでいない。ただ浮いている。


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