最初の夜
種族の事に考えていると
彼女が帰ってくる
「洗い物助かったのじゃ」
「ずいぶん早かったね」
「湯が暖かい日はこんなもんじゃな
冷たい日のほうが好みなんじゃ」
そういって湧き水をたくさん飲む
「ゴクッ…ゴクッ… ぷはーっ 湧き水は冷たいの~
さてこっちにきて歯を磨くのじゃ」
「これは?」
「木の枝じゃ 先端だけ繊維をほぐして柔らかくしてある」
並んで歯を磨く
木の枝でもなんとか磨けないこともない
「よし 歯も磨いたことじゃし
そろそろ寝ようかの~」
「寝る前に聞きたいことがあるんだけど」
「そうか まぁ横になりながら聞くかの
寝床にいってお喋りじゃな」
「同じ部屋で寝るのかい?」
「嫌かの…?」
「嫌じゃないけど…」
心の準備ができてない と告げる
「くふふ お主も初心じゃの
安心せい 部屋は同じじゃが寝床は別じゃ
あの部屋しか暗くならん」
一日中光ってるのか…
「寝る前にトイレにいっておくんじゃぞ」
「僕を子供扱いしてないかい?」
「しとらんのじゃ 魔女が毎日のように言うておったからの」
家訓の一つだったようだ
「わかった 一応すませておくよ」
助言通りトイレを済ませ
長い階段を上り上階を目指す
僕が今朝目覚めた部屋だ
「この部屋だけ暗いのじゃ
下から漏れるわずかな光に目が慣れるまで気を付けるのじゃ
お主は窓際の 目覚めた寝床に寝ておくれ」
言われた通り窓際に進む
わずかに星の明りも見える
手探りで寝床の上に慎重に乗る
寝床は木製で ベッドのような形をしている
その上に布団らしきものがある
「布団とかタオルはどうしてるの?」
「たまに行商にくる奴がおってな 物々交換じゃな
欲しいものを伝えておくとどこからか探してくるのじゃ」
「見返りに何を渡すんだい?」
「わしの鱗じゃな 三度夜を超えると一枚ほど抜け落ちる」
「何に使うんだろう…」
「わからん 興味もないのじゃ」
ドラゴンの鱗…貴重な気がする
日用品と釣り合うのだろうか…
「夜はさすがに冷えるからの 布団に入るんじゃ」
言われた通りに布団に入る
「して 聞きたいこととはなんじゃ?」
「さっき着替えがないときに気づいて君を呼んだとき思ったんだけど
名前はないのかい?」
「名前のう…」
「魔女さんは君の事をなんて呼んでいたんだい?」
「ドラゴンの半分だからドラ と呼ばれてたのじゃ
ドラや 歯は磨いたのかい?
ドラや ブーツはそろえて置くんだよ そんな感じじゃな」
「母親みたいだ…」
「わしも魔女を魔女と呼んでおったし
お主も好きに呼ぶが良い」
「そうだなぁ
じゃぁ…ドーラって呼んでいいかな」
「うむ 良いぞ
ではわしは今からドーラじゃな」
響きが気に入ったのか声が嬉しそうだ
「名前は特に気にしたことがなかったんじゃが…
お主にも名前があったのかの?」
「思い出せないんだよね…」
「しばらく様子見じゃな」
ハ…フワァ…ハァァ~
ドーラが欠伸をする
限界のようだ
「そろそろ寝ようか」
「そうじゃの…おやすみじゃ」
「おやすみドーラ」
「くふふ 名を呼ばれるのは悪くないの…」
眠りにつくしばしの間に考える
自分の名前…元の生活…
思い出せることは何もない
何ももってない自分
僕に何ができるだろう