一大事
しばらく瞑想したのち
身体が芯から温まってきたのを感じる
「そろそろでようかな」
湯船をでてタオルで身体を拭いたあと気づく
「服がこれしかない」
一大事だ
幸いタオルが大きいので腰に巻き
彼女に呼びかけようと思ったが
「そういえば名前も知らないな…」
そんな当たり前のことも気づかなかった
「うーん さすがにこの服は汚れすぎてる…」
最初に土の上に寝ていたし
これを着て寝るのも忍びない
「おーい!」
少し大きな声で呼びかける
「なんじゃー!」
「ちょっときてくれないかー!」
「一緒に風呂はまだ早いのじゃ~!」
「違う!替えの服がないんだ!」
「おー!そうじゃのー!ちょっとまっておるのじゃー!」
着替えあるようで安心した
着の身着のままである事実を再認識する
「何ももってないんだな僕は…」
ちょっと悲しくなる
「これから増やしていけばいいのじゃ
ほれ まずこれをやろう」
聞こえてしまったらしく励まされる
「魔女のお古しかないがの」
「十分だ ありがとう」
もうすぐ食事ができるでな~
っと手を振りながら調理場に戻っていく
貰った服に着替えて僕も追いかける
「戻ってきたな ほれ丁度できたのじゃ」
テーブルの上にはすでに料理が運ばれている
スープと少し大きめの焼いた魚
「初日のお祝いじゃ 貴重じゃが塩が振ってある」
「美味しそうだね 頂きます」
食事を二人で楽しむ
魔女との思い出をいくつか聞きながら
「魔女は小食でな 魚や暖かいものは食べんかった
このスープに入っている実をそのまま数個食べて終わりじゃった
あとは水を飲むくらいだったのじゃ」
少し寂しそうに語る
「食べられない理由でもあったのかもしれないがの」
「自然に近いものしか取れなかったのかな…」
「そうかの…そうじゃったら人間の姿をしておったが
ドライアドだったのか ドライアドのつがいだったかもしれないの~」
「つがい…」
「詳しく話すと長くなるがの…
ざっくり話すと他種族同士でつがいになるとの」
「他種族同士つがいになれるのかい?」
「なれぬ種族もいるが相性にもよるでの
ドライアドと人間なら格上のドライアドに引っ張られるはずじゃ
人間はドライアドと人間の混血へと変化する
子を産むことはほぼできん」
「相性があるんだね」
「見た目は人間のようだったが…
わしのように見た目が人間に近い何かの亜種なのか…
今となってはわからんのじゃ」
でも確かに…人間が居たとてつがいになりたがるのは稀じゃがの~
…わし以外はの…」
最後が聞き取れないほど小声だったが
聞かせるつもりもないのか会話を切り上げる
「食事も済んだことじゃし 湯浴みをしてこようかの」
「食器は僕が洗っておくよ」
「いいのかの?」
「僕もこの家で暮らしていくんだし
できることは任せてよ」
「助かるのじゃ
調理場の湧き水が溢れて流れているところで頼むのじゃ」
「わかった」
「くふふ 洗い終わったら覗きに来てもいいぞ」
「覗かないよ!」
「冗談じゃ まぁわしは鱗が服みたいなものじゃからの
湯浴みのときは人間の姿に寄せて肌を多く見せるが…今と差ほど変わらんのじゃ」
「確かに… でも覗かないよ!」
「じゃ いってくるでな~」
彼女を見送ったあと食器類を洗う
洗いながら考える
「ドライアド…いろんな種族がいるのかな…」
人間は滅んだと言っていた
ドライアドは存在する
人のような姿の彼女しかしらないがドラゴンもいる
他の種族もいるんだろうか…