漠然とした不安
来た道をゆっくり戻る
今度は周りをゆっくり見渡しながら
「辺りが気になるのか?ゆっくり帰るのじゃ」
「うん ありがとう」
この丘をぐるっと森が囲んでいる
迷いそうだなと思ったが
大樹を見つけて安心する
「森で迷ったら丘に行くがよい
森の中では見えずとも丘ならば家がわかる」
「丘に向かう道は傾斜があるからなんとなくわかるのか」
「その通りじゃ」
大樹を目指して再び歩く
「どこまで記憶があるかわからんが
草木にそんなに違いがあるのかの?」
「うーん…なんとなくしか…わからないけど…
木も草も似てたり似てなかったり…
でもこんな広い森や大樹も初めてだと思う」
覚えてるようで何も覚えてない
不思議な感覚がする
地面に目を向ける
たくさんの種類の植物がある
木の幹もいろんな模様が存在する
見覚えがあるような 無いような…
「時間が立てば思い出すこともあるのかもしれんの…」
丘に向かう時は気づかなかったが
木が両脇によけていて一本道のようになっている
「森の中だと大樹は見えないんじゃが
大樹から丘までは迷わぬよう魔女が木と交渉しての
道を譲ってもらったのじゃ」
「この木たちは歩けるのか…」
それに衝撃を覚える
大樹の目の前まで戻ってくる
再び大樹を根元から見上げてみる
大きさに圧倒されそうになる
「まだ案内したい場所もあるがの
そろそろ夜がくる」
「どこで判断してるんだ」
「夜に飛ぶ鳥がおってな、ほれ」
指さした先の木に黒い鳥が止まっている
「あの鳥は明るい時はずっと寝てるのじゃ
枝に集まりだしておる そろそろ夜じゃ」
少し待つと辺りが暗くなってくる
「ほれ 夜がきたじゃろ」
「本当だ」
扉から光が漏れてる
「家の中が光っている…」
「そうじゃ 昼に光を吸った大樹が分けてくれるのじゃ」
家の中に入りブーツを脱ぐ
「湯浴みでも先にしてくるんじゃ
わしは食事を作るでな」
「今日は暖かいのかい」
「多分大丈夫じゃ なるべく毎日湯浴みしろと
魔女が言うとった
魔女はなぜか人間と同じ暮らしをさせたがっていたの~」
朝は明るくなったら起きなさい
起きたらまず顔を洗い 歯磨きなさい
顔を合わせたら挨拶しなさい
「まだまだいっぱいあるのじゃ…
最初はただただ優しかったのに!」
どうやら家訓が多くあったようだ
「お主にも追々教えてやろう」
「でも僕はそれに近い生活をしていた気がするよ」
「なんじゃ つまらんな
そういえば人間じゃったな…
ほれさっさと湯浴みにいってくるんじゃ」
少々不貞腐れてドラゴンは言う
「ほれタオルじゃ 大事に使ってくれ
あまりないでな」
そんなことを言う割には尻尾でつかんで投げて渡してくる
「じゃ 先に入ってくるよ」
一人で風呂に向かう
脱衣所で服を脱ぎ
それらしきカゴに衣服を脱ぐ
そして湯船に
「ふぅ~ 思ってたより暖かいな…
何も思い出せない…というより記憶がない…」
しばらく頭の整理をしよう
お湯に浸かりながら天井を眺める
不思議と不安はなかった