魔女の墓
今の僕の最初の記憶…
初めて彼女をみた場所に案内してくれるようだ
「さて これを履くのじゃ」
ブーツを手渡される
「ありがとう」
外に出る
歩き出して数歩 少し後ろを振り返る
「外から眺めると…大樹の大きさがわかるね」
「そうじゃろ?元から大きかったんじゃが…魔女の仕業でより大きくなっての
帰ってきたら好きなだけ眺めるがよい」
二人並んで歩き出す
「どこに向かっているんだい?」
「そうじゃの~ 綺麗な湖やかなり歩けば滝もあるんじゃけど
まずは魔女のお墓じゃな
お主を呼んだ場所にある」
家を出てからまっすぐに進んでいく
「そろそろ森を抜けるでな」
森を抜けると空がよく見える丘に出る
まだ明るい
空には見覚えのある大きさの違う緑色の星が二つ
しかし小さいほうは少し欠けている
明るいうちでもはっきり見える
「綺麗な星だね」
「綺麗な緑色じゃろ 魔女もあの色が一番好きじゃった
緑色の星の時期は植物がよく育つらしい」
「緑じゃないときもあるの?」
「あの小さい星が欠け切ると次はあの大きい星がかける
そうすると次の色の星が満ち始める
赤色だと暑い日が多くなり 青色だと雨が多いの
一日中出ておるが 夜は特に綺麗に光るのじゃ」
丘を少し上ると一本の木が見えてくる
「あそこが目的地じゃな」
「あれが…魔女さんのお墓…?」
「そうじゃ 墓といっていいものかわからんが…」
木の根元まで来るとドラゴンは膝をついて両手を合わせて目をつむる
祈っているようだ
「魔女よ…安らかに眠っておるかの」
隣で同じような姿勢を取り 心の中で魔女に挨拶をする
「魔女がの…」
そう口を開く
「寂しくなったら二つの月が緑で満ち足りたとき
森が寝静まった時間に祈りなさい
そうすればお友達を呼んであげる とな」
「それが僕なのかな」
「うむ…祈っとったら木から落ちてきてな
星の光を浴びせながらそこの岩場で座って様子を見ておったのじゃ
じゃから…記憶が思い出せないのは…わしのせいかもしれん」
「魔女さんは木の根元に埋めたのかい?」
「いや…なんと言うかの…」
魔女はそろそろ寿命だからお別れね そう告げたという
「その日も緑の星が満ちておった
この木に触ったと思うたら
そのまま木と同化したのじゃ」
「魔女さんは何者なんだ…」
「人間…かどうかもわからんのじゃ
いつも帽子を深くかぶっておった
謎だらけじゃ」
「どれくらい前の事なんだい?」
「星が何度もいろんな色に満ちて欠けて…
数えてないしうまく伝えられる気がせん…
だいぶ前じゃ」
そういうと魔女の木を撫でながら
「この木ももっともっと小さかったのじゃ…」
魔女と暮らしてぬくもりを知ったドラゴンは
どれくらいの時間 一人で暮らしていたのだろう
「今は僕が居るよ」
そう自然と声をかけていた
「…そうじゃな…」
僕を見て少し笑う
「でもここは景色がいいね
今度ご飯をもってここで魔女さんと食べよう」
「それはいい考えじゃの
次きたときはそうするのじゃ
今日はそろそろ帰るのじゃ」
「確認したいんだけど…」
「なんじゃ?」
「僕は一緒に暮らしていいのかな?」
「何を今更なことを言うのじゃ」
少々のあきれ顔をしながら
「多分…わしが祈ったせいでここに来たはずじゃ
魔女の話を聞くに人間はもうこの世にはおらんはずじゃから…
別世界の人間じゃと思う
たまたま魔女が知らん生き残りがおって
木の上で寝ていた線もないことはないんじゃが…」
それとも…と続ける
「それとも…わしと暮らすのは嫌かの…」
かなり心配性のようだ
泣きそうになっている
「いや…当てがないどころか記憶もないし…
僕からお願いするよ」
「そうか では我が家に帰ろう」
嬉しそうに彼女が笑う
あの大樹が僕の家になる
二人並んで帰路につく