表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女に育てられたドラゴンと記憶のない人間  作者: 一蓮托生熊
ドラゴンの住む森
3/34

人ならざる彼女

そうじゃな…まずは自己紹介じゃ

そう彼女が言う


「わしの種族はファイアードラゴンじゃ

 今はこんな人間に近い姿をしているがの」


彼女は続ける


「尻尾の艶には自信があるのじゃ

 スープも作れるし パンも焼けるのじゃ

 じゃから…」


しばらく無言になったあと


「わしと友達になって欲しいのじゃ…」


そういって手を差し出す


「僕でよければ」


その手を強く握り返す


「でも僕はあまり覚えてることがないから役に立てないかもしれないよ?」


「何もしなくてもいいのじゃ

 一人でいるのが飽きたのでの…」


「でも僕はどうやってこの場所に来たんだろう」


少しだけ自分のことが気になる


「うむ わしの呼んだと思うんじゃが…

 この家は魔女が住んでおったといったな」 


ちょっと長くなるがの

そう前置きした彼女は語ってくれた

この場所は深い森の中にある

元々ドラゴンの彼女がドラゴンの姿のままが一人で暮らしていた

彼女が巣として選んでいたのがのこ大樹

最初は木の根元に穴が開いていたのでそこで寝泊りをしていたらしい


「そこにじゃな ある日魔女がきてなんて言うたと思う?

 素敵な大樹ね 私に譲ってくれない? などと言うんじゃ

 ドラゴンの言葉をどこで覚えてきたのか…」


魔女は植物を自在に操り 大樹をさらに成長させはじめた

ありがとうね ドラゴンさん 素敵なお家ができたわ

そう魔女は告げる

先ほどまであった根本の穴に扉ができている

中に入っていく魔女


「何をするか興味もあって見守ってたんじゃ

 あっと言う間の出来事じゃったから何も言えんかった…

 まぁ別にその木に未練はなかったんじゃが

 気になってちょこちょこ魔女を覗いておったんじゃ」


自分とはまったく違う生活が目の前で繰り広げられている

興味がわかないわけがない


「数日たったある日な 魔女がわしに向かって手招きをしてな

 こう言うのじゃ

 私の生活に興味があるのかい?

 寝床を提供してくれたお礼にこれをあげる 飲んでごらん」


小さい木の実のようなものを渡される


「で、飲んだらこうなったのじゃ」


両手を軽く広げ やれやれ なポーズをする


「もうドラゴンの姿には戻れないのかい?」


「完全には戻れないのじゃ…最初はもっとお主の姿に似ておった

 長い時間を魔女と過ごしながらな 部分的にはドラゴンに戻りつつある

 尻尾もまだ成長しておるのじゃ!」


よほど尻尾が自慢なのか 僕に見せつけてくる

腰の少し下から生えているその尻尾

生え際は黒々とし鱗と同じ色だが先端は鮮やかに赤い

本当に成長途中なのかもしれない


「それから魔女は…」


好きに遊びに来て色々触ってもいい

気になったら聞いて 教えてあげる

疲れたらそこにお座り 話をしよう

気に入ったらここに住んでもいいのよ


「そう魔女は言うてな… 本当に住みついてやったのじゃ

 人間の言葉や生活を教えてもらったのじゃ」


暮らしてみると屋根のある生活は快適だった

そしてずっと一人は寂しかった

その時知ったと彼女は言う


「それからこの家の自慢もされたのじゃ

 まずは大地から より養分を吸えるようにしてあげて

 見返りに大樹の身体の一部分を家具のような形に変えてある とな

 ある程度傷ついても勝手に修復されよる」


ちょっと案内しようかの

そう言いながら立ち上がる


「まずはそうじゃな…トイレじゃ」


そういって案内された部屋には木でできた便座のようなものがある

深い穴が開いている…底がまったく見えない


「狭いが落ちるなよ どこまで深いかわからんのじゃ」


不思議な構造の部屋だった

同じ部屋に便座が二つある


「なぜ二つあるんだい?」


「一つはドラゴン専用じゃ 背もたれがあると尻尾が邪魔だからある日壊したのじゃ

 次の日二つに増えとった

 魔女は先に言ってくれればいいのにと笑っておった」


「何も同じ部屋に作らなくてもいいのに」


「便も肥料になるらしいが 一か所に固めておいた方が大樹的に有難いそうじゃ」


「大樹の気持ちも反映されているのか…おもしろいね」


「わしにはわからんかったが魔女は時々大樹と話をしているようだったのじゃ」


次は風呂かの といって次の部屋に案内される


「風呂じゃ 人間は風呂に入るらしくてな

 最初は川で十分じゃと思ったんじゃが…」


「天井から水が流れてくる…」


「大樹が上層で温めておいてくれるのじゃ 天気が悪い日は冷たいのじゃ

 冷たいのが苦手なら晴れたら入るくらいの気持ちじゃな」


「なるほど…」


「じゃが大樹に守られながら水浴びできるのは落ち着くのじゃ

 なかなかにお気に入りじゃ

 案内する場所はあとはそうじゃな…」


そう言いながらテーブルに戻ってくる


「飲み水はあそこから汲むが良い」


調理場の隅 切り株に穴が開いて湧き水が溢れている


「地下水を汲み上げてもらっておる

 すぐ飲むときはだいぶ冷たいから注意するのじゃぞ」


溢れた水が溜まるようにレンガが積まれており

そこに先ほど食べた赤や緑の実が冷やされている


「もし湯が飲みたいときは言うのじゃ

 着火するにはわしの出す火しか方法がないのでな」


だいたい説明したかの とつぶやき床に伏せ

何をするかと思ったら背伸びだった


「んっ…んんっ… はぁ~~

 背伸びするときはドラゴンの時のくせが抜けないのじゃ」


腰を突き上げ尻尾をほぼ真上に伸ばす

手と足の指先を最大限に広げて全身で伸びている


「こんなに喋ったのも久しぶりじゃからの

 アゴがちょっと変な感じじゃな」


ちょっと休んだら外も案内しようかの

魔女の墓とお主を呼んだ場所がある

そう僕に告げる

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ