表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女に育てられたドラゴンと記憶のない人間  作者: 一蓮托生熊
ドラゴンの住む森
2/34

目覚めの朝 彼女の姿を探す

意識が覚醒する

僕が一時的に目を覚ました場所から移動したようだ


「起きたかの」


彼女の姿を確認して安堵する…

もう一度会えた


「意識ははっきりしておるか?」


「うん…大丈夫そうだ 運んでくれたのかい?」


「うむ 夜風は冷たいからの」


「そうか…ありがとう」


とりあえず助けてもらったようなのでお礼を伝えておく

いろいろと気になることがあるけれどまだぼーっとしているのか

何から聞けばいいのかわからない


「とりあえずこれでも飲むのじゃ」


コップに入った水を渡される


「ゴクッ… 美味しい」


一息ついて落ち着いてきた

改めて彼女を観察する


緋色の長い髪、頭の左右に角らしきものが生えている

燃えるように光る深紅の瞳

姿形は人間に近いがよく見ると全身が鱗で覆われている


「あれ…」


何も覚えていない

自分の名前さえも思い出せない


「何も…覚えてない」


「そうか…見たところ…話しに聞く人間みたいじゃの…

 人間ははるか昔に滅んだはずなんじゃが…


…僕は人間なのだろうか?

そんなことにも確証はもてない


「人間だとして…僕しか人間は居ないのか」


「うむ…ドラゴンに戦争を仕掛け敗北した人間は城壁を作り引きこもったんじゃが

 今度は人間同士で食料の奪い合いをした結果じゃ…ほとんど自滅じゃったらしい

 まぁそれも大昔で聞いた話じゃが」


ドラゴン…聞き馴染みはない


「君もドラゴン…なのかい?確かに素敵な尻尾は生えているけど」


「口説くんじゃない 照れるじゃろ

 意外とドラゴン慣れしとるのかの?」


嬉しそうに尻尾が揺れる


「わしの事は追々話すとして まず食事じゃな 一階に行くぞ」


部屋を見渡すと扉はなく 窓と反対側の壁の下に穴が開いている


「あそこが階段じゃ 今は上階におる」


彼女の後ろについて階段をゆっくりと降り始める


「ここは…木の中みたいだね」


とても大きな 巨大樹とでも言うべきか

その巨大樹の中をくり抜いたような空間が広がっている


「そうじゃ もう亡くなってしもうたが魔女が住んでおってな

 植物を操るのが得意じゃった

 家のように改装してあるが この大樹はまだ生きておる」


長い階段を下りて一階に到着する


「そこの椅子に座っておれ 今スープを温めるからの」


料理をするスペースなのかレンガで作ってある竈に向かう

僕が居るテーブルから少し進むと段差があり

部屋の床が土の場所がある


調理場に立つ後姿を眺める

スープが入っているであろう鍋の下に顔を近づける


ふぅーーーっ 彼女が火が噴く

火も出せるようだ


「パンも焼くかの~

 魔女が居なくなって一人の食事が長かったから…

 誰かのために準備するのは 楽しいのじゃ」


尻尾で器用にスープを混ぜながら

パンの準備をしている


料理が運ばれてくる


「スープと焼いたパンじゃ

 わしがいつも食べているもので悪いが口に合えばいいんじゃが…」


パンは僕の認識からみてもパンのように見える

スープの方は小さい赤や緑の実

それに小さく切られた薄黄色の芋のようなもの


料理を眺める僕をそわそわしながら見守る彼女

テーブルの下で両手を握ってうつ向いている

まるで祈っているかのようだ


「嫌いなものでも入っとったかの…」


泣きそうになりながら此方を見つめる


「いや そういうわけじゃないよ

 見覚えのない木の実だったからよく見たくて 頂きます」


赤い実を食べてみる 続いて緑の実 そして芋

僕の記憶があやふやなままなのか初めて食べる味なのかわからないが

味に覚えはない


「美味しいよ」


覚えはないが美味しかった

胃の中が空だったのか食べ始めた途端に空腹を思い出す

次から次とスープを口に運び たまにパンをかじる


「そうか よかったのじゃ 

 たくさん食べてくれ おかわりもあるでな」


嬉しそうに笑うと自らも食べ始める

彼女の口には牙があり

スプーンを持つ指も鱗で覆われ爪が尖っている


スープのおかわりを一度貰い お腹も満たされた

食器を片付けてくれた彼女が水を持ってきてくれた


「さて一息ついたところで何から話せばいいのか…

 取り急ぎ気になることでもあるかの?」


「君について知りたい」


昔の記憶は思い出せない

思い出せないというより始めから無いように感じる

しかし自身のことよりなにより

目の前の彼女が気になって仕方なかった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ