修羅場
階段をゆっくりと降りてくるドーラ
いつも優しく笑う彼女が
今は鋭く獲物を見る目つきをしている…
僕をしばらく見つめ
視線を来訪者に向ける
「久しいのう…行商人…」
「お…お久しぶりです…
えーっと ドーラさん…」
怒っているのがわかるのか委縮している
「ずいぶん楽しそうに話しておったの…」
「いえそんな…滅相もございません…」
「大声で盛り上がっておったじゃろ…
おかげで助かったわ 目が覚めたの…」
本気で怒っているようだ…
無意識なのか五指が開き爪が鋭く尖っている
「まって…落ち着いてください誤解なんです…」
ゆっくり椅子を立ち上がり後ずさりしている
本気で逃げる準備をしているようだ
チラリと出口を確認している
「ドーラ 落ち着いて」
僕がそう言うと今度はこちらを睨みつける
「お主もお主じゃ!すぐ戻ってこいと言ったじゃろ!」
「あまり人を待たせてはいけないよ」
「じゃが! それとこれとは違うのじゃ!!
奴が大事になったのか!」
埒が明かないのでドーラに近づく
「ならないよドーラ…君が一番大事だよ
僕が嫌いになってしまったのかい?」
「嫌いになってない…なるわけないのじゃ…じゃが…」
感情をどうすればいいのかわからず
狼狽しているようだ
僕が近づく分後ろに下がる
そのまま進み 壁際で捕まえた彼女を抱きしめる
「むぅ…うぅ…すまんのじゃ…」
「大丈夫…今はとくかく落ち着いて…」
しばらく宥めたあと 椅子に座らせる
「ほら 水でも飲んで」
「うむ…」
やっと落ち着いたようだ
行商人の姿が見えない
すると 玄関の方から
「あの~…大丈夫そうですか?」
一瞬のスキを逃さず外に出たようだ
顔だけを覗かせている まだ警戒しているようだ
「うむ…もう大丈夫じゃ」
「ふぅ~ 本当に殺されるかと思いましたよ
久々に命の危険を感じました…」
「じゃが…何を話していたか詳しく話してもらおう…」
ギラリ と行商人を睨む
落ち着いても怒っている
「わしが納得するまで鱗は渡さんからの」
「そんな~ 困りますよぉ…」
助けてください と
目で訴えかけられる
「ドーラ」
「なんじゃお主」
「僕は塩が欲しい」
「む…」
しばし黙った後
「しょうがないの…わしの負けなのじゃ…
今鱗をもってくるでな…」
席を立つ彼女 上階に取りにいくようだ
「助かりました人間さん!
怖かった…」
心底怖かったのか
放心している…
怒ったドーラもまた可愛い
僕の感想とは真逆のようだった




