名探偵黒木 1
part1
「疲れた…」
私、秋田舞は音をあげた。このところ働き詰めで布団が恋しい、しかし手を休めるわけにはいかない、この連続強盗事件の解決を市民達はただ待つことしかできないのだから。
「そうは言っても仕事が辛いのは変わんないし、あーあ、新人来ないかなー」
「そんな秋田さんに小粋なプレゼント、なんと温泉旅行券だよ」
今声をかけてきたのは中野課長、小粋な時計と眼鏡、ついでに頭部を光らせるハラスメントマシーンだ。
「課長のお心遣いには感謝します、では準備があるのでここらで帰らせていただきますね」
「その必要はないよ、服もスーツのままでいい、何せ温泉旅行というのは
「次の強盗事件現場というわけですね?」
「その通り、80点の回答だね」
微妙だ、マックスは100点にしておけよ、底上げされた弁当のような採点だ。
すると課長はここ一番と言わんばかりに光モノ三種の神器を輝かせながらこう言い放った。
「何せ、強盗事件は…強盗殺人事件に格上げされたようだからね」
part2
ここまでの展開でお察しだと思うが、私は岡山県警刑務部捜査第一課勤務、早い話が立派な刑事さんである。
そうは言ってもヒラの現状に変わりはなく、今となっては刑事というより社畜、鋼の連勤術師と言った方が正しいのかもしれない、そんな馬鹿なことを考えていると(因みに好きなキャラクターはヒューズさんである、私も早く家庭を持てばあんなかっこいい人になれるんだろうか)目的の旅館に着いた。
「ここが問題の旅館…『幽明庵』だったっけ?見た感じ名前に反して無名も無名、さびれまくりって印象けど…」
さて、強盗殺人なんて大仰な犯罪の捜査が私一人で行われるわけもなく、私の目的はあくまで大部隊が到着するまでの現場保全、言うなれば番犬役なのだが(そして捜査が始まったら書類作成の仕事に駆り出されるため、追い出されることになる)課長から一つ謎の伝言をもらっていた、なんでもこの事件、『探偵』とやらが関わっているらしい。
「探偵って…コ○ン君でも来てるのかな?課長が言うにはあの名探偵中の名探偵、西黒家達の子供らしいけど」
ここでストーリーテラーとしてのマナーを果たすべく、西黒家達の説明をしておこう、西黒家達、日本の犯罪史を変えたとさえ言われる高名な探偵である。
彼が暴いた真相、あるいは未然に防いだ事件は数知れず、闇に葬られた事件の中には総理大臣暗殺に関わるものすらあったとされている、その有能ぶりは凄まじく、常日頃お世話になっている立場の警察では、トップクラスのVIPだ。
「今はロサンゼルスだかどっかに行ってるんだったよねー、いいなー、名探偵は仕事があってもロスいけるんだなー」
「おい、さっきから駐車場でぶつぶつ独り言を言ってる不気味な女」
謂れのない侮辱を受けて反射的に振り返ると、そこには黒い服を着たロングヘアーの女の子が、死んだ目でこちらを睨んでいた。
「気持ちわりーんだよ、用がねーならすぐ帰れカス」
なぜこんなあってすぐに罵倒されなければならないのだろう、なんとかしてこの子を凹ませたいと思って反論を考えていると、次なる罵倒が先に飛び出した。
「何じっと見てんだ、帰れっつってんだよ、パパに言ってケーサツにぶち込んでもらうぞ」
「いや、私がその警察…ってパパ?もしかしてあなたが西黒氏の」
「俺は黒木、お前らが言う西黒家達は俺のパパだ」




