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GeneSourceTree  作者: 早雲
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第二話 馬鹿げてる

 日が暮れかける頃、僕たちはようやくログハウスに着いた。

 12から14才の子供たちだけで、そこそこ険しい道を進んできた。

 大人の同伴者はいなかった。どのみち大人がいようがいまいが、緊急時には5分以内に救助が来るのだ。いたってあまり意味はないし大人たちにとっても面倒だろう。

 ハルは目的地の建屋を見て不思議な顔をした。

「なんだ、全然木の家じゃないんだ。街にある建物と変わらないや」

 ハルはそう言って、白くて流線形のドームのようなものに入ろうとする。

 ログハウス、というが、別にログ(丸太)を使って作られた家ではない。データログをとる家だから、ログハウス。

 確か、データログのログも船の速度を測定するときに丸太に紐を結んでいったことに由来しているらしいから、別に丸太のログでも案外正しいのかもしれないけれど。

 僕はそんなことを口にせずに、ハルについていく。

 

         ◯


「あれ、ここGstが使えないじゃん」

 建物に入るなり、ハルは言った。中には空間が一つ。大体半径10mくらいの半球の中。

「ハル、こんなところでアップデートできるわけないでしょ」

「いや、だってなりたい方向が決まったらその都度調整した方がいいって言われるじゃん」

 そこには僕らのほかに3人の男の子がいた。どうやら、僕らは結局最後の到着だったらしい。

「ねえ、ここで寝泊まりするの?一ヶ月も?」

「そんなにいや?」

「だって」

 ハルが言いかけたとたん、日本家屋の屋内みたいな風景を作った。

「なんだ、ちゃんと整備されてるじゃん。使えないのはGstだけか」

 太陽に似た光が僕の視界を明るくしてる。

 そんな景色をみて、雪の日のやたらと目につく明るさを思い出した。この明るさと雪の明るさは同じ性質のものだった。

 なんだ、雪が降ったら明るくなるのって、別に心象とか気持ちの問題じゃないんだ。ただ地面が白いから明るいってだけなんだ。

 そんな風な言葉を頭の中で思い浮かべてしまうと、途端に景色は色あせてしまう。気持ちひとつで世界は色あせるのに、色をつけるには気持ちひとつでは足りないみたいだ。

 僕は先についていた男の子たちの方を向いて、ハルに言う。

「ねえ、あの子たちの中に知り合いいる?」

「いないよ……いや、一人知ってる」

「どんな子?」

「話したことはないんだけれど……変わった奴でさ」

「へえ?」

 変わった奴。この時代に会って変わってないやつの方が少ないと僕は思った。

 誰でも、どんな才能でも持てる時代。

 ハルだって、何回もGeneSourceTreeからのアップデートをしているから、能力という点で平均値ではありえない。

 誰も、誰しも、平均値じゃない。

 僕だって、何度もアップデートした。多分昔の人類と比べたら、知能指数は相当高いと思う。少なくとも昔の人たちは微分方程式を暗算で解くのは苦労したはずだ。それも僕なら難なくできる。

 だから、ハルがいう『変わった奴』の意味がよくわからなかった。

 ハルがこう続けたとき、僕は少なからず驚いた。

「あいつ一回もアップデートしてないって」

「嘘だろ?」

 僕はハルが指した男の子を見た。

 小柄でおとなしそうな、そしてそれがそのまま気弱そうな印象を与えるような男の子だった。

 

         ◯


 そこは古いお屋敷のようだった。再現されたものでしかないけれど、少なくとも僕たちの目にはそう見えている。江戸時代みたいだ。

 僕は右手の人差し指を上に立てて、目の前にやる。そのまま指を動かすと、どこからともなくふにゃふにゃの容器に入った飲み物が僕の手に滑り込んできた。

 ジュースが来た方向をみると、自動販売のマークがついた大きな物体が目に入った。なんだかグネグネのデザイン。ガウディの建築物の真似だろうか?

 きっと江戸時代の人たちは、これが魔法に見えるんだろうな。僕はふとそう思った。とはいえ、僕にだって、どうやってこんなふうに何も考えずにジュースを指一本で『出現』させてるのかは全然わからない。

 昔の偉い学者さんは、科学が進むと魔法みたいになると言っていた。きっと今がそうなんだろう。

 少し考えて、僕は興味をなくした。

 そうだ。どうでもいい。

 だって、世の中のすごいことは誰かがもうやってる。

 まだ誰もやっていないことだって、すぐに誰かがやってしまうだろう。

 指一本でなんでもできる魔法も、ガウディのデザインも、江戸時代の再現も。

 そして僕だって、望めばその誰かになれる。偉業を成し遂げる人たちに。きっといとも簡単に。

 でも、それが馬鹿げてるって、そんな言葉が頭から離れない。


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