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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

願い鈴の音にのせて

作者: SchwarzeKatze

 今年で何回目になるだろうか?

 美代との神社へ行くのは。小学校の五年生ぐらいからだろうか? もう計算も面倒くさい。今は高校二年生。来年には受験だ。

 来年の願い事はきっと、美代と同じ大学に進学出来ることを祈っているだろう。

 今年の願い。もう決まっている。だって、美代とは……。

「奈緒! お待たせ! 遅くなってごめんね? 家族の恒例行事があって、抜け出すのが大変だったの。寒くなかった?」

「ううん、平気だよ。私もさっき着いたところだから」

「嘘。だってほら、手がこんなに冷たくなってるじゃない! 嘘つきはいけないんだからね! 正直に話すこと!」

 美代に指摘された通り嘘。実は一時間ぐらいここで待ってたのだから。でも、美代に手を触れられると、自然に体温が上昇する。冷え切った手も例外ではない。私の気持ち。本当は美代にあるんだよ?

 美代にはわからないかも知れない。私は初めて初詣に来た時から。美代の事ずっと気になってたんだから。……好き、だったんだから。

 おかしなことだと思う。女の子が女の子を好きになるだなんて。私はそういう趣味じゃないって思っているのに。美代だけは特別な存在だから。

 小さいころから一緒に居た幼馴染。一緒に野山を駆け巡り泥だらけになって、いつも美代の家でお風呂をお借りしてたっけ。小学校のころに私が男の子に泣かされた時も、助けてくれてたし。だけど、意識するようになったのは小学校の五年生になった時。

 その時も男の子に私がいじめられてたのを助けてくれた。けど、その時私は男の子の暴力に怪我を負っていて、怪我の手当てをしてくれた。優しく「大丈夫?」と問いかけに私はドキッとしてしまったこと。それを紛らわせるために「大丈夫!」と強く言い放ったけど、「ダメ! 傷から黴菌が入ったらどうするの!」って怒られた時の顔。真剣に私を心配してくれる顔。今でも瞳に焼き付いている。その真剣に私を想ってくれるその心に私は参ってしまったのだった。その眼差しに、私の心は吸い込まれてしまった。

 それ以来、どうも美代と視線を合わせるのが苦しくなってきた。私が避けたこともあった。それが今想っている気持ちだとは知らずに。避けてしまった。その結果、美代を泣かせてしまったことがあった。

 その時に私は気が付いた。本当の気持ちに。美代を泣かせてしまった時、私の心は抉られるように苦しさを感じた。

 なんでこんな気持ちになるんだろう。

 なんで心が締め付けられるんだろう。

 なんでこんなに苦しんだろう。

 その気持ちも最初は分からなかったけれど、重ねる毎にそれが恋心であることがわかってきた。私は全力で否定を続けた。だって美代は。大切な幼馴染で。大切な親友で。大切な……。大切な……。

 ……初恋の人。

 時が過ぎれば、その気持ちも何れ消えてなくなると思っていた。そう思っていた。そう確信していた。

 でも、現実は違った。

 恋だと知って、どんどんと募る想い。ブレーキをかけてるつもりなのに、どんどんとつのっていく想い。止めようとしてお止まらない想い。その笑顔。柔らかな笑顔。柔らかい肌。柔らかい唇……。私の妄想も止まらなくなっていった。時折、美代と顔を合わせるのも気恥ずかしく感じてしまう事だってあった。そんな時、彼女は決まって私の臥せった顔を覗き込んだものだった。心の中では「やめて~!」と叫んでいた私。そのたびに心を奪われていく私。もう、私は止められない。

「奈緒?」

「ひゃ!?」

「……なんで、そんなに驚くのよ。さっきから何ぼーっとしてるの? あれ? 顔赤いよ? 熱でもあるの?」

 回顧していた私に不意打ちの様に、おでこを合わせて熱を測ろうとする美代。だ~か~ら~。美代、その無防備さやめようよ。私が男だったらどうするつもりなのかなぁ。……あぁ、そうか。もう女の私でも落とされてるから、天然なんだなぁ、きっと。

 無垢な天使か! このヤロー!! その純朴さに私は引きずりまわされてるんだからね? もっとさ、自覚しようよ、自覚。

「女の子同士でも、おでこはちょっと……」

「ん~? じゃー手で!」

 美代の手。私のおでこにペタッとくっつく。美代の小さな手は私のおでこを覆い隠す。少しホカホカして、温もりを感じる。思わず私は目を閉じてしまう。この手の温もり、ずっと感じていたい。そう思っていた。

「ん~、熱はないみたいね」

「うん、ありが……っ!?」

 私は目を開けると、美代の顔がものすごい近くにあった。思わずドキッとしてしまう。思わずときめいてしまう。あぁ、神様。なぜ私は女の子なのでしょうか? もし男の子だったらこんなに悩まなかったのに。……いや、修学旅行の時も同じ部屋で、一緒にお風呂に行けたから役得なのか。って、違う!!

「?」

 一人悶絶する私に美代は不思議な顔をする。それもそうだろう、私が一人で表情をカメレオンしてるもんだから。美代には今の私はどう映ってるんだろう? 嫌われなければいいんだけど。いや、いっそ嫌われた方が、私の気持ちは晴れるのだろうか?

「ねぇ、そろそろ並ばない? 人集まってきてるからさ」

「う、うん」

 私達は列に並んで、他愛のない会話をしながら順番を待つ。今年一年の思い出を語り合っていた。そしてそろそろ順番になるころ。美代は話題を切り出す。

「ねぇ、奈緒は今年なんのお願いするの?」

「え? いや? ひ、秘密! み、美代は?」

「へぇ~。じゃあ、私のお願いだけど。耳貸して?」

 ニヤッと笑う美代。私は言う通りに左耳を美代の方に向ける。すると美代はゆっくりと唇を近づけて、ゆっくりと吐息交じりにこう告げる。私はシチュエーションだけでも参ってしまいそうだというのに。

「ひ・み・つ!」

 私の耳は真っ赤に染まる。秘密なのはわかったけど、その吐息で私の弱い耳に刺激をかけないでと。心の中で懇願した。

 そして、私達の順序になり、社の賽銭箱の前に着く。鈴を鳴らそうと私が手を紐に賭けようとすると、美代はその手に温かい手を重ねてくる。

「一緒にならそ?」

「う、うん!」

 社の鈴をそっと一緒に鳴らす。

 美代の手が重なり、吐息も近く体温も感じる。そんな私の鼓動は早くなり、私の体温を上げる。そんなことを露知らず美代は私の顔を見つめて微笑みかける。その笑顔は私の網膜に焼き付いた。大切な想い出。

 初恋は実らない。

 私の場合は、女の子を好きになってしまったから、尚更なのかも知れない。

 こんな事、本当の事なんて、言えない……。

 けど。

 それでも。

 私の祈りは届いてほしい。

 今年こそは。

 ハッピーニューイヤー。

 明けましておめでとう!



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