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第四十九話 転換点

 アンタレスの尾を渡して四週間後。人間の国王ベネディクトが亡くなった。

 死因は老衰との発表だった。真相は違う。だが、国民は真相を知ることはない。


 スンニドロを奪還する動きはあった。

 だが、国王が亡くなると軍事行動の動きが止まった。


 戦況は人間側が圧倒的に有利。人間は戦争を急ぐ必要はなし。

 戦争より国王の葬儀と後継者の決定を優先したとしても理解できる。


 ここまでは読み通り。後は後継者争いが起こればいいのだが。

 ベルトランドのもとに兵は集まりつつある。だが、せいぜい二千名程度。


 対する人間は国王軍の二万に加え帝国軍が三万である。

 まともにぶつかれば勝負にならない。


 ヘイズとマリアがレイの屋敷に呼ばれた。

 スワン・レイスの表情は読みづらい。


 されど、付き合いが進めばわかってくる情報もある。

 今日のレイはあまり機嫌が良くない。


 また、無理難題を頼まれるのか。

 ヘイズとマリアに杏のジュースを勧めてからレイが切り出す。


「悪いニュースから伝えよう。人間の内部で後継者争いは起こらなかった」

 話と違うな。だが、ヘイズは慌てない。


「想定通りに物事が進まないことはある。それでどうなった?」

「皇太子のフェリペが宮廷を掌握した」


 マリアが不安な顔で意見する。

「それはまずいんじゃ」


 フェリペには政治的な手腕があったか。この手の支配者は軍事にも強かったりする。

「随分と早いな。それだけ優秀な人間だったんだな」


「次に良いニュースだ。帝国とフェリペの仲が冷え込んだ。帝国兵三万はしばらく動かない」

 成果がゼロではないか。苦しい戦いには変わりはないが。


「帝国はフェリペとベルトランドをぶつけて、王国軍を少しでも減らそうって腹だな」

 マリアも同意見だった。

「展開によっては王国を帝国の領土に組み入れるつもりでしょう」


 レイは瞳を鈍く光らせて答える。

「新国王になったフェリペは実績が欲しいはず」


 当然の読みだ。俺だってそう予想する。

「人間のスンニドロへの再侵攻は時間の問題だな」


 レイは目を光らせ語る。

「フェリペは完全に後方の憂いをなくす。その後、帝国と共存を模索するはずだ」


「帝国と王国の関係が冷え込んでいる今が重要局面か」

「そこでだ、アローラの森に強固な防衛線を築く」


 スンニドロが落ちれば取り戻すための軍事行動も難しくなる。

 また、負ければ兵が集まって来ることもない。


 負けたらおさらばだな。ヘイズは冷静だった。

「で、俺たちに何をさせたいんだ?」

「ボルカニア地方のオークに援軍を求めに行ってくれ」


 オークのお偉いさんはインプの顔なんていちいち覚えていない。

 とはいっても、万が一知り合いに遭うと面倒が起きる。


「ボルカニアには他の奴を送ってくれ。ボルカニアにはいろいろと柵がある」

「わかった。では南方の山岳地帯にいってほしい。トロルに援軍を求めてきてくれ」


 トロルは屈強な体を持つ優秀な兵である。強靭な力。強い生命力がある。

 味方にできれば心強い。ただ欠点もある。


 トロルは光を嫌い朝に弱い。それに、考え方は保守的で自軍領土から出てこない。

 用兵を間違えれば役に立たない。


 うだうだと考えても仕方ない。トロルの支配地域はアローラの森より南。

 戦禍を免れているが、スンニドロが再陥落すれば次はトロル領と考えるのが自然だろう。


 マリアをみて意見を尋ねる。

「トロルとダーク・エルフってどんな関係だった?」


 マリアの表情はぱっとしない。

「わずかに交易があった程度です。ほとんど交流はありません」

「関係が悪くなかっただけでも良しとするか」


 手土産に魔石を用意する。

 翌日、こっそりとスンニドロを後にする。トロルの棲むフレダルト山脈に向かう。


 フレダルト山脈は東西に長い高地である。標高は五百mから二千m級の山が連なってできている。雨はあまり降らない。草食動物の山羊が棲息し、山羊を襲う獣がいる。


 アローラの森とフレダルト山脈の境界には、交易をするためのダーク・エルフの小さな村があった。村でトロルの商人がやってくるのを待つ。


 村長に挨拶に行く。村長はダーク・エルフの青年だった。

「トロルを仲間に引き入れる策をとることになった。ついてはトロルと交渉をしたい」


 村長は良い顔をしなかった。

「交渉は難しいでしょう。トロルの王は前にスンニドロが陥落した時も援軍を出しませんでした」

「それでもやらねばならない」


「ならば、トロルの勇者ボンダに話を通すといいでしょう。ボンダはトロルの呪術師であり、勇者であり、知恵者です。トロル王の信頼も厚い」


 武力が重視されるトロル世界で呪術師が勇者なのか。

 魔術の上でも腕が立つことながら、武器も扱えるとみた。


 数日後、身長二m、体重は百三十㎏はあるトロルが村にやってきた。筋骨隆々で肌はオレンジ色。立派な体だが、トロルにしては小柄だった。簡単な革の服を着た、トロルの商人だった。


 トロルの商人はダーク・エルフの村長から話を聞く。

 トロルの商人は良い顔をしなかった。


「ボンダ様には会わせてやる。だが、結果に責任は持てない」

「会わせてくれれば、あとはこちらでどうにかしますよ」


 商人は山脈の中をすいすいと進む。

 道は大柄なトロルが一人通れるていどの幅だった。


 小柄なマリアやヘイズにとっては充分な広さがあった。

 道は途中で分岐している箇所が何か所もあった。


 マリアが興味を示して商人に訊く。

「道があちらこちらに伸びているようですが、村は多いのですか」

「道の大半は行き止まりになっている。それに、自然を利用した罠もある」


 余所者を入れないための工夫だな。トロルもフレダルト山脈が戦場になる危険を感じている。これは交渉次第では援軍を出してくれるはずだな。


 三日を掛かけて山道を進んだ。

 慣れない山歩きでマリアは疲弊していた。だが、迷惑をかけまいと黙って従いてきた。


 マリアが遅れないように時折回復魔法をかけてやる。

 トロルの大きな村に到着した。村は岩肌をくりぬいて作ったものだった。村は砦の機能を兼ね備えている。逆茂木や矢を防ぐ矢盾が見える。また、高所に櫓もある。


 トロルも街を持つと聞く。この村は首都への入口となる防衛の最前線だな。

 村にはぴりぴりした空気はない。村人はヘイズとマリアの来訪に興味を持っていた。

 ヘイズとマリアは岩山に掘られた部屋に案内される。


 商人が指示する。

「村を守るボンダ様に伺いを立てるからここで待て」


 マリアの荷物から貢物の魔石を取り出して商人に渡した。

「ボンダ様への心ばかりの品です。お渡しください」


 マリアは疲れているのか商人が出て行くと眠った。

 ヘイズは全く疲れていなかったので暇になる。


 魔法で部屋から村の様子を眺めることもできる。

 だが、下手な対応をして心象を悪くしないようにした。


 夕食に山羊の煮込みが出た。肉は少し硬いが味は良かった。

 食事の後に商人がやってくる。


「ボンダ様がお会いになる。」

 マリアもふらふらしながら立つので命ずる。

「俺だけでいい。マリアは休んでいろ」

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