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第四十七話 暗殺の準備

 レイに会うため、スンニドロに戻った。

 レイの部屋で密談をする。


「まず、報告するよ。暗殺は失敗した」

「それは残念だ。それで、何も収穫はなかったのか?」


 特に怒っているわけではなさそうだ。

「いいや、。国王の寿命だが、放っておけば、あと二十年は生きるとわかった」


 レイが鼻で笑った。

「なんともまあ健康な人間だな」

「そこでだ。寿命を削る毒を持つモンスターであるアンタレスの召喚スクロールを手に入れてきた」


 レイは小首を傾げる。

「儂に毒針を作れ、と?」

「いや、毒針を作るのは人間だ。使うのも人間だ」


 レイは考え込む。

「人間だけでは不安だな。ヘイズ、お主が人間の傍にいて助言をしてやってくれ」


 簡単に頼んでくれたもんだ。

「インプの言葉なんて人間は聞かんよ」

「ならば、ヘイズはマリアの使い魔だとすればよい。マリアを使って人間を欺いてくれ」


 マリアをあまり前線に出したくなかった。

「マリアはまだ子供だ。上手くやれるかどうかはわからないぞ」

「子供が子供のままではいられない時代だよ」


 ヘイズがそれでも首を縦に振らないとレイは提案する。

「もし、マリアも手伝うのなら、マリアにも報酬を払う」


「森の樹はいらないよ」

「そう、当て付けるな。払いは悪魔大銀貨で十枚を払う」


「暗殺の報酬としては安過ぎないか」

「働くのはヘイズだ。マリアはあくまでも補助だ。せいぜい悪魔大銀貨十枚がいいところだろう?」


 これから戦いは激しくなる。ここらで、マリアに経験を積ませたほうがいいのか。

 マリアは生贄ではない。流されるだけの人生なんて悲惨なものだ。


 俺が傍にいるなら守ってもやれるか。

「わかった、少し時間をくれ」


 レイの宿舎を出る時に、黒の龍人たちとすれ違った。

 白の龍人たちが優勢とあっては、黒の龍人たちの心中も穏やかではないだろう。


 ごごご、と地面の下から低い音がした。音は小さく十秒で止んだ。

 地震の前に聞こえる地鳴りの音によく似ていたが、揺れが起こることはなかった。


 アローラの森で地鳴りか。初めての現象だな。

 近くで地鳴りを聞いていたであろうダーク・エルフに声をかけた。


「地鳴りですね。アローラの森って時折地鳴りが聞こえるんですか」

「いいや、スンニドロは地震と無縁の土地だ。俺も初めて聞くよ」


 ダックスは龍骨ケ原や龍骨谷でも地鳴りが聞こえるようになったと教えてくれた。

 龍骨ケ原で地鳴りを聞いた覚えはない。


 まさか、地鳴りは移動しているのか。

 製材所の地下には謎のトンネルがあった。


 何かがアローラの森の下にやってきてトンネル内を動き回っているとしたら……。

 普段なら馬鹿げた考えだと思うところだが、スンニドロは案外危険な場所なのかもしれない。


 宿に帰ってマリアを呼ぶ。

「お前に話がある。人間の暗殺に協力してほしい」


 マリアの顔が強張るのがわかった。

「命に代えても実行します」

「そうじゃない。マリアは俺の主人役を演じてくれ。後は俺がどうにかする」


 マリアの表情が和らぐ。

 装備を整えるため、マリアとともに武器庫を管理するダーク・エルフに会いに行く。


「武器と防具を譲ってくれ」

 武器庫を管理するダーク・エルフは愛想よく応じてくれた。


「レイ大隊長から話は聞いています。好きなものを持っていってください」

 武器庫の中にはダーク・エルフが使っていた武具が多く残っていた。


 高価な武具は人間によって持ち出されてしまったのであまり良い品はない。

 それでも高位の術者が身に付けていそうな緑のローブと小振りのワンドを見つけた。


 マリアにはサイズが少し大きいが、着れないことはないだろう。

「それなりだな、こいつをもらおうか」


 ローブに付いている刺繍の芥子の花の紋章を見てマリアは渋い顔をする。

「芥子の花は上級貴族の印です。私のようなものが着ているのを見ると森のダーク・エルフならおかしいと気付くはずです」


「紋章の刺繍は取っておけ。かつて刺繍があったのがわかるようにしておくんだぞ」

 マリアが不思議がって尋ねる。


「なぜですか?」

「スンニドロには間違いなく人間のスパイが入り込んでいる」


 マリアは驚いた。

「スンニドロに捕虜以外の人間はいませんよ」


「一目見てスパイとわかるスパイはいないぞ。人間のスパイに、見慣れないダーク・エルフの元上級貴族が合流したと思わせるためだ」


 刺繍のあとを残しておけば、マリアを新たに合流した凄腕魔術師に見せかけることができるはずだ。


 装備はこれで充分だろうが、念のため保険も掛けておくか。

 ヘイズは鞄から金の指輪を取り出す。


 ビクトルの遺産の一つ、強欲の指輪。

「前に渡した主従の指輪の強化版。強欲の指輪だ。これなら、もっと強い魔法が使える。前に渡した主従の指輪と交換するぞ」


 マリアは主従の指輪を名残惜しそうに見てから外した。

 ヘイズとマリアは指輪を交換した。


 これで、ぱっと見たときには俺が使い魔で、マリアが主人に見えるな。

 そのまま、マリアとともにレイの屋敷へと向かった。


 レイはマリアをしげしげと見つめる。

「恰好だけは雰囲気が出たな。どれ、儂が直々に従いていって各大隊長とベルトランドにお披露目してやろう」


「マリア、国王暗殺作戦が終わるまででいい。上手く演じきれよ」

 マリアは真剣な顔で頷いた。


「必ずや、お役に立って見せます」

 こういうちょっと真面目なところが不安だな。


 大隊長ともなると忙しい。なかなか会ってもらえないのでヘイズは手紙を運ぶ。

 中身は白紙だった。何通も手紙をマリアの元から大隊長とベルトランドの元に送った。


 レイも裏で動いた。各大隊長とベルトランドから白紙の手紙がマリアの元に届く。

 陣中で注意して動きを見ていれば、マリアが重要人物に見えてきていた。


 そろそろ頃合いかと思った。レイがヘイズの屋敷を訪れた。

 盗み聞きがない状況を確認してからレイが話す。


「森の外れで人間たちと協力してアンタレスを呼び出す計画となった。ヘイズに現場に赴いて人間がミスをしないように手助けしてほしい」


 マリアの表情から緊張している様子が伝わってくる。

「そう心配するな、マリアは見ているだけでいい。アンタレスの始末は人間たちがやる。しくじった時は俺がやる」


 腹を決めたのか、俺の言葉にマリアは大きくうなずいた。

「わかりました、やり遂げましょう。ヘイズ様のために」

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