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第四十四話 賢者リョウオウ

 相手はフラヴィアを捨てても逃げ切れない速度だった。

 精霊界での戦闘は経験がないので避けたかった。


 だが、「やるしかない」と思った時だった。

 白い光の玉が飛んできて、ヘイズと並んで飛ぶ。


 光の玉が呪文を唱えると、ヘイズの鞄が光る。

 ヘイズの移動する速度がみるみる上がった。追っ手をぐんぐん引き離す。


 人間界へと繋がる出口が見え、人間界へと戻った。

 出て来た場所は樹に囲まれた空間で、辺りには清浄な気が満ちていた。


 霊体から肉体へと体を戻す。

 助かったのか。だが、あの白い光の玉は、何だったんだ?


 ヘイズが不思議に思っていると、ヘイズの前に白い光る玉が出現した。

 光る玉は、老いたケンタウロスの姿を取る。


「私の名はリョウオウ。龍神を見守る者だ」

 ケンタウロスの賢者か。死して冥府に赴かず、精霊界に留まっていたのか。


「俺の名はヘイズ。あんたが助けてくれたのか?」

「いかにも、そうだ。儂が残した呪物の気配から、お前さんの危機を知った」


 価値のないガラクタに思えたが、意外なところで役に立ったな。

「それで、ピンチだからタダで助けてくれたのか?」


 賢者だからといって、タダで人助けをしなければいけない理由は、ない。

 簡単な願いなら聞いてやってもよかった。


 リョウオウは困った顔をして尋ねる。

「私が目覚めたのなら、祭器が誰かの手に渡ったのだろう」


「当たりだ。一つは人間の手に、一つはダーク・エルフに渡った」


 リョウオウは厳しい顔で告げる。

「龍神を蘇らせてはならない。龍神は世界を破壊する」


「なら、祭器を破壊しておけばいいだろう。なぜ壊さなかったんだ?」

「祭器は破壊できない。破壊しても、また別の祭器が、世界のどこかで生まれる」


「祭器は神々の遺産のワールド・アーティファクトなのか?」


 ワールド・アーティファクトは世界に唯一の魔道具。

 その存在は破壊されれば、またどこかで再生され世界に戻って来る。


 完全に破壊するのは破壊神でも不可能と噂されていた。

「そうだ。だから、龍神の復活を止めてほしい」


 随分と高く付いた助力だった。


「ちなみに、さっき俺を追いかけてきた存在は何だ?」

「あれは龍神の魂だ。龍神の魂はもう冥界から出て精霊界に出現している」


「おいおい、何だって? それじゃ、龍神がいつ人間界に出てきてもおかしくないだろう」


 リョウオウは厳しい顔で宣告した。

「そうだ。時間はもうあまり残されていない」


「それで、出てくる龍神は白なのか黒なのか、どっちだ?」

「白の龍神だ」


 白の龍神が蘇れば、人間はさらに勢力圏を伸ばす。

 最悪、龍神に魔神が倒されれば、人間の世界が到来する。


 人間の世界の到来か。また生きづらい世の中になりそうだぜ。

 リョウオウの姿が消え、誰かの気配がした。


 樹にぽっかりと穴が空き出口が出現する。

 視線をやると、十人の部下を連れたガガタがいた。


 ガガタはヘイズとフラヴィアを見て驚いた。

「ヘイズ、ここで何をしている? ここは立ち入り禁止の区域だぞ」


 ガガタがいるのなら、ここはスンニドロの中で間違いない。

「それが、その、フラヴィア殿を発見して逃げ回っているうち、なぜかここに出ました」


 適当に言葉を濁して説明する。

 ガガタは不可解な顔をする。


「いいだろう。知らない仲でもない。罪には問うまい」


 ガガタが部下に命じる。

「出発は遅らせる。フラヴィアを医務室に連れて行く」


 ヘイズは兵士に先導され道を進む。ヘイズのいた場所は世界樹の中央だった。

 世界樹は大きな樹であるが、中に通路がある。通路は中腹部まで伸びていた。


 世界樹の外周を回るようにして下りる。入口は街にある神殿と繋がっていた。

 神殿から出ると、スンニドロの夜の街があった。


 一晩休む。マリアに果物を買いに行かせる。

 果物を籠に盛り、フラヴィアの見舞いに行った。


 フラヴィアは個室にいてヘイズと会ってくれた。

 顔には疲れが見えるものの、会話ができない状態ではなかった。


 ヘイズの姿を見ると、フラヴィアが礼を述べる。

「助けに来てくれたんですって? ありがとう、ヘイズ」


「礼を言うならガガタ殿に言ってください。様子を見に行くように頼んだ人物はガガタ殿ですから」

「それでも、危険な場所まで来てくれた行動には感謝するわ」


 挨拶もそこそこに事情を尋ねる。

「それにしても、なぜ、製材所の地下のような場所にいたのですか?」


 フラヴィアは暗い顔で語り出す。

「ケンタウロス居留地を飛竜が襲った後のことよ。私は白い鯨のような物体を追ったわ」


 あいつの正体は気になるところではある。

 何らかの兵器なら、どこを拠点にしているか知りたい。


「白い鯨のような物体はどこから来ていたのですか?」


 フラヴィアは無念そうな顔で首を横に振った。

「残念だけどわからないわ。見失ったわ。でも、目印を付ける企てには成功したわ」


 なるほど、さすがは中隊長だな。使えない奴ではない。

「それで追って行ったら、あの製材所の地下に行き当たったのですか?」


「そうよ。なぜ、空を飛んでいる物体を追ったら地下に行き着いたのかは不明だけどね」


 地下への入口は他にあるのかもしれない。

 とてもではないが、製材所のような狭い入口から、あんな巨大な物体は(はい)れない。


 では、次の質問だ。

「なぜ、仮死状態だったのです? 見つけた時は驚きましたよ」


「私は一人ではなかったのよ。ライテイも一緒だったのよ」


 ケンタウロスの長の息子か。ワウグーン草原から一緒だったのか。

「でも、ライテイ殿の姿は見当たらなかったですよ」


 フラヴィアは気分が悪そうな顔で語る。

「私たちは製材所の地下に閉じ込められたわ。すると穴の奥から何かがやって来たのよ」


「ライテイ殿はフラヴィア殿を壁に隠して逃げたのですか?」

「逃げきれたらいいんだけど」


 現場にライテイの姿は見当たらなかった。

 ケンタウロスの足はダーク・エルフより速い。


 何とも言えないが、ライテイの生存はないと思った。

 ライテイはフラヴィアを逃すために囮になった。


「他に何か思い当たることが、ありませんか?」

「暗がりの中で声を聞いたわ。大勢の種族の声。何を言っているか、わからなかった」


 フラヴィアは仮死状態で壁の中に隠されていた。普通の音が聞こえるとは思えなかった。

「それまた、奇妙な体験ですな」


「あと、老人の声を聞いたわ。龍神の復活を止めろ、と」

 これは、リョウオウの声だな。


 とすると、フラヴィアは仮死状態の時、冥界と精霊界の間を漂っていたな。

 フラヴィアが聞いた大勢の声の正体に見当が付いた。


 フラヴィアと同じく冥界と精霊界の間を漂う者たちの声だ。

 龍神の魂は精霊界にいた。


 龍神によって大勢の者たちの魂が冥界に行けず、精霊界に縛り付けられている。

 大勢の魂を束縛する目的は龍神が餌にするためだな。


 消えたダーク・エルフたちは生贄か。龍人も罪な行いをする。

【報告】漫画の第八話を掲載しました。「目次」の下ないしは「あとがき」の下の【マンガ第〇話】をクリッくすれば読めます。

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