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第三十三話 スンニドロ解放戦(下)

 人間の集団から騎士が十人、出てくる。騎士は白く輝く魔法の鎧に身を包んでいた。


 十人の騎士は剣と盾を構えて横一列に並ぶ。騎士の後ろで、中央を少し開けるようにして左右に四人ずつ魔術士が並ぶ。十八人の集団はゆっくりと前進を開始した。


 たった十八人で炎の壁と化したサンドラを破る気か。大した自信だ。

 無謀に思えた。されど、人間が考えなしに炎の壁に向かってくるとは思えない。


 炎の壁から牛をも焼き尽くす火球が連射される。

 騎士たちが大きな盾を構える。魔術士が防御魔法を唱えて集団を覆う。


 サンドラの火球が次々と騎士たちに当たる。だが。人間の歩みは止まらない。

 魔法の防具に魔術の力が加わったとはいえ、サンドラの攻撃に耐えている、だと。


 どうやら、遅れてやってきた人間たちは精鋭部隊のようだ。ここで、侵入を許すと戦況が変わるな。どうする? サンドラと一緒に撤退するか。ヘイズは迷った。


 俺の判断が勝敗を分ける、か。ならば、ここは踏み止まって手厚い恩賞を貰おう。

 まだ、俺にはベヒーモスの手札がある。


「サンドラ、そのまま炎の壁を維持してくれ。俺も力を貸す」

 ヘイズがサンドラとの間に築いている盟約の絆を開く。


 盟約の絆を通して、魔力の供給を開始した。

 サンドラから歓喜のテレパシーが伝わってくる。


「体が、心が、魂が、燃えるわ。全てを焼き尽くせと衝動が騒ぐわ」

 炎の壁から飛ぶ火球が激しさを増した。


 堪らず、人間たちの歩みが停まった。

「いいわ。このまま焼き尽くしてあげるわ」


 ヘイズは人間たちの行動に違和感を持った。

 進めないなら、後退するはず。何で止まったままだ?


 人間の列が光り輝いた。光は大きなクロスボウを形成する。

 ぼん、と音がして、何かがサンドラの壁を撃ち抜いた。


(つう)」とサンドラが呻く。

 サンドラはダメージを負った。だが、炎の壁の形態は維持していた。


 すぐに、壁に空いた穴が塞がる。

 サンドラを貫いたのは、赤く光る鎧を着た騎士だった。


 魔術の助けを借りたとはいえ、サンドラの炎の壁を通り抜けた。

 こいつは人間のSクラスか。サンドラが人型に戻れば、倒せるかもしれない。


 だが、サンドラと赤い騎士が戦えば、その間に精鋭部隊が入ってくる。

 今、精鋭部隊に突入されれば戦争は負ける。


 恩賞が欲しければ俺がやるしかないか。こりゃあ、森の樹が一万本では合わないぞ。

 赤い騎士は空中を駆けて、ヘイズに斬り懸かってきた。


 ヘイズはさっと避ける。

 こいつ、速度は速くないが、空を自由に走り回れるのか。


 赤い騎士の足元に目をやる。羽の付いたブーツを履いていた。

 あれか。あのブーツが空を自由に飛ぶ秘密か。


 ヘイズは魔力の矢を唱えて、ブーツを狙った。

 空を飛べなければ、あんな騎士を倒すのは容易い。


 赤い騎士もブーツを壊され、機動力を奪われれば負けるとわかっていた。

 赤い騎士は鎧で魔力の矢を体で受けても足を庇った。


 ヘイズの本気になって放った魔力の矢は簡単に人を射殺す。

 だが、そんなヘイズの魔力の矢を何本も受けても、赤い騎士は倒れなかった。


 ヘイズは途中で魔力の矢でブーツを狙うのを諦めた。

 ひたすら動き、赤い騎士に魔力の矢を浴びせて行く。


 機動力で勝るヘイズが騎士の命を削りきればヘイズの勝ち。

 ヘイズが体力か魔力を使い果たせば、赤い騎士の勝ちだった。


 魔力量には自信はあった。黒魔術を行使したといえは、まだ魔力は充分にある。

 このまま、赤い騎士の命を削り切る。


 赤い騎士がヘイズから距離を取った。そのまま燃え盛る建物の陰に隠れる。

 ヘイズは構わず、魔力の矢を纏めて放った。


 魔力の矢は誘導弾の性質がある。少しくらいの遮蔽なら回り込んで当たる。

 赤い騎士が突如としてヘイズの目の前に現れた。


 瞬間移動か。赤い騎士を追尾していた魔力の矢が反転する。

 赤い騎士が剣を振り下ろす。ヘイズは咄嗟に魔力を腕に通わせ、腕で剣を受けた。


 剣はヘイズの右腕を切断した。ヘイズの黒い血が噴き出した。

 ヘイズは口から毒の息を吐く。赤い騎士が瞬間移動して消えた。


 赤い騎士を追っていた魔力の矢が目標を見失い、ヘイズに刺さった。

 激痛が体を襲う。わずか数秒でヘイズは危機に追い込まれた。


 ヘイズは斬られた右腕を高く上げ、少しでも出血を抑えようとした。

 これだから戦いは油断ならない。


 次に瞬間移動で赤い騎士が現れれば、頭をかち割られる。

 流石にヘイズといえども、頭を潰されれば死ぬ。


 ヘイズは魔法で出血を止められた。だが、あえて血を流し続けた。

 黙っていれば、出血多量でヘイズは死ぬ。


 ヘイズの修めた黒魔術は命の危機に際してこそ、魔力を増していく。

 ヘイズにとって、ピンチは逆転のチャンスでもあった。


 赤い騎士の追撃はなかった。

 瞬間移動は連続で使えないんだな。ここぞという時に使う奥の手だな。


 赤い騎士は時間が経てば、出血している俺より有利になると踏んでいる。

 ここが思い違いであり、勝機だ。


 ヘイズは闇の魔法で辺りを覆った。

 単なる闇の魔法では赤い騎士の視界を奪えるとは考えない。


 闇は地面に落ちた血を使った黒魔術を隠すためだった。

 ヘイズは死の檻の魔法を準備する。


 死の檻は捕えた対象から生命力を吸収する魔法だった。

 普通の死の檻なら効果範囲はせいぜい直径三m。威力も、じわじわと体力を削る程度。


 だが、ヘイズのような猛者が黒魔術で効果を上げれば、捕まった人間は、ほんの数秒で死に至る。

 ベルワランダの加護を願う。魔法の威力を上げる血の儀式を執行した。


 足元で血により魔法陣が描かれヘイズの魔法の力をさらに押し上げた。

 出血で少しふらっとした時に風を感じた。ヘイズの闇を見通す目が赤い騎士を捉えた。


 ヘイズは赤い騎士に体当たりをした。体格で劣るヘイズの体は飛ばされ、距離が空く。

 体当たりを受けた赤い騎士は体勢を少し崩した。


 目の前を赤い騎士の剣が通り過ぎる。

 ヘイズは自分を中心に死の檻を発動させる。


 直径十二mにもなる死の檻がヘイズと赤い騎士を閉じ込めた。

 すかさず治癒魔法を連続魔法で間を置かず発動させる。


 死の檻がヘイズから急速に生命力を奪う。

 だが、連続した治癒魔法のおかげで、失われる生命力より多くの生命力が回復する。


 どさっと音がする。地面を見れば、赤い騎士が落下していた。

 だが、用心のために、二十秒ほど時間を置いてから死の檻を解除する。


 ヘイズは地面に降り立った。斬られた右腕を拾い、魔法で繋げた。

 赤い騎士の兜を蹴る。兜の下には干からびた人間の顔があった。


 赤い騎士は死んだ。だが、まだ遺体には強い力が残っていたので吸収する。

 以前に吸収したアーチと同じ命の味がした。


 味については赤い騎士のほうが濃かった。

 やはり、Sクラスか。こんなのがうじゃうじゃいるのなら、ポンズ地方は魔境だな。


 騎士の装備とブーツを外して泥棒袋に収めた。

 剣と鎧はいかほどになるかわからない。だが、ブーツは良い値が付きそうだ。


 戦利品を回収して闇を解除する。

 サンドラは炎の壁の形態をまだ保っていた。テレパシーが送られてくる。


「私の炎の壁を破った憎たらしい人間砲弾はどうなったの?」

 サンドラはヘイズの心配をしていなかった。


 ヘイズは軽い調子でテレパシーを返す。

「もちろん倒したさ。少し苦労したけどね」


 空を飛び壁の横から人間を観察する。

 騎士と魔術士はすでに後方に戻っていた。


 赤い騎士を中に入れて、サンドラを挟み撃ちして破る作戦だったな。

 人間は赤い騎士が倒されてからは手出しをして来ない。


 サンドラが人間形態をとって後ろに下がる。

 おやっ、と思っていると、地面が震える。


 地面の下から大きな樹が生えてきた。

 樹は形状を変えると、閂が掛かった門になった。


 ベルトランドが世界樹の解放に成功したか。

 門の再生を確認すると、人間の部隊は速やかに撤退していった。


 サンドラが軽い調子で確認してくる。


「仕事は終わりって考えて、いいかしら」

「助かったよ。おかげでスンニドロを奪還できた」


「アローラの森は精霊界とも一部、繋がりある地よ。これは、精霊界でも、ちょっとしたニュースになるでしょうね」


「あまり、余計なことをぺらぺら喋らないでくれよ。下手な噂は困る」

「つまらないわね」


 サンドラは魔法陣を出現させると、精霊界に帰って行った。

 かくして、ダーク・エルフの都スンニドロは再びダーク・エルフの手に戻った。

第三話の漫画を載せました。「目次」の下ないしは「あとがき」の下の【マンガ第三話】から見れます。

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