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第十五話 シュタイン城陥落

 シュタイン城には昼前には到着する。

 空は曇ってはいたが風はない。雨も降りそうになかった。


 シュタイン城は城下町を囲う第一城壁と、城本体を囲う第二城壁により守られている。

 城下町の人口は二万五千人クラス。ボルカニア地方では一番大きな街だった。


 高度五百mから遠見の魔法で下を観察する。第一城壁の東門はすでに破壊されて城門付近はオークに占拠されていた。オーク軍は街から八百m後方に陣を張っていたが、移動する最中だった。


 時間は掛かったが、城下町への侵入はできたか。本格的な城攻めに向けての戦いだ。

 カタパルトの移動も始まっていた。カタパルトの移動速度から開戦時間を逆算する。


 カタパルトが再配置まで三時間は掛かりそうだった。

 交代で休憩するとして、昼過ぎから戦いが本番だな。


 無茶でも無理でも、夜までに落さなければマーリンがやって来る。

 街の様子を見るが、逃げ惑う人間は見えない。


 まさか、三万近い人間をオーク軍に知られずに動かしたのか。

 心当たりはあった。三傑の一人のセシルの仕業か。


 全く姿を見せないと思ったら、余計な仕事をしてくれる。これでは、多くの人間の命が戦場に散らない。


 警戒すべきは死に掛けのマーリンではなく、セシルだったかもしれない。

 いない敵の事情をあれこれと考えても仕方ない。視界を戦場に戻す。


 オーク軍は街の外の陣を放棄して城門付近に指揮所を移動していた。

 放置された後方の陣を確認する。


 マリアが馬に飼い葉をやっている姿が目に入った。

 馬の世話係として従軍したのか。ボラテリアは近くにいなさそうだった。


 マリアの近くに素早く飛んで行く。マリアはヘイズの姿を見ると驚いた。

「ヘイズ様、どうして、ここに?」


 オークはほとんどが最前線に出ているか、飯を食いに行っていた。なので、ヘイズを知る者はいない。


 ダーク・エルフの馬の世話係と使い魔のインプが話していても、不審がるオークもいない。

「今は時間が惜しい。戦争の経過を簡潔に聞かせてくれ」


「夜中から戦闘が始まり、夜が明ける前に東門の破壊に成功しました。激しい戦闘の末に、街を占拠しました。カタパルトの再配置が済み次第、戦闘開始です」


 思った通りだ。

「抜け穴はどうなった? 使えそうなのか?」


 マリアは暗い顔で首を横に振った。

「ボレット様たちの話を盗み聞きしました。穴は人間に発見され途中まで埋められていたそうです」


 中途半端に掘られた穴でも、城壁の下まで続いていたら利用できる。

「わかった。お互い無事なら、また会おう」


 マリアは不安に揺れる瞳で声を懸ける。

「ヘイズ様も、お気を付けて」


 空を飛び、抜け穴のある場所に行く。抜け穴は、城の北側にあった。

 穴は城壁付近の民家の床下から、城内に向けて掘られていた。


 第二城壁は厚さが八mと厚く、高さも二十五mある。

 抜け穴は使えないとの情報が出回っているせいか、付近にオークの影はない。


 用心のために、城壁の上には三人の弓兵がいる。

 城の防衛側の人数が少ないから、危険のない場所に兵は割けないか。思った通りだ。


 こそこそと弓兵の目を盗み、民家の床下に侵入した。

 床下の穴を通って進む。穴は途中から土で塞がっていた。


 進んだ距離から計算すると、城壁の真下になる。見上げれば石材も見える。

 外で大崩壊を使えば、威力の大半は空中に逃げるので城壁は崩れない。


 だが、真下で使えば城壁にもろに爆発のエネルギーがぶつかる。

 威力を上げた俺の大崩壊の魔法なら、下から城壁を突き崩せるな。


 穴の確認が終わると、床下に戻って戦いが始まるのを待つ。

 外が騒がしくなってきた。


 城の東側から音がするので、オークたちは果敢に攻めているのだと思った。

 ヘイズは戦闘が始まってから三十分後に穴の中に戻った。


 穴の行き止まりで、大崩壊の魔法をゆっくり、しっかりと詠唱する。

 大崩壊は神速詠唱しなければ詠唱に六十倍の時間が掛かる。だが、威力は四倍になる。


 二十分後に魔法が完成した。ヘイズを中心に大地を揺るがす大爆発が起きる。

 地面が大きく揺れて波打つ。全方向に衝撃波が起きる。


 ヘイズの放った破壊魔法が城壁を下から突き上げた。

 視界が明るくなった。ヘイズの頭上の城壁が衝撃で宙に浮いていた。


 ヘイズは一瞬にできた隙に外に、さっと飛び出す。華麗に降って来る石材を回避した。

 そのまま天高く飛び、下を確認する。


 城壁の一部が大きく崩れて、歩いて入れる状況になっていた。

 爆発の数分後には、人間とオークの斥候が現場を確認にやって来た。


 どちらにも、城内への侵入口が突如できたと知れた。

 最初に人間がやって来て、守りを固めようとする。


 だが、二分もしないうちに、オークの歩兵がやって来て乱戦になった。

 人間はどうにかオークを入れないように頑張る。だが、オークも果敢に攻める。


 ヘイズの眼下でどんどん、オークと人が死んでいった。

 いいぞ、いいぞ。もっと死ね。死んで、俺の経験値になれ。


 乱戦が続くのを黙って空高くから眺める。

 侵入口の存在が戦の流れを変えた。オークが徐々に優勢になり、第二城壁を超えて行く。


 オークの軍勢はそのまま内側から周り込み、城門を開けた。

 残っていたオーク軍が場内に侵入する。数で勝るオーク軍が有利となった。


 勝敗は決した。ヘイズは城から離れる。

 城の近くで、金のありそうな家の窓を割って中に入った。


 そのまま、泥棒袋を使う。金目の美術品や調度品をわんさと回収する。

 オークが来ないうちに、好きなだけ泥棒をした。


 外から興奮の勝鬨(かちどき)の声が聞こえてきた。

 ヘイズは割った窓から外に出る。空高くに飛び上がった。


 さて、お目当ての経験値の回収の時間だ。

 ヘイズは戦場に散った命を吸う。大量の力がヘイズに流れ込む。


 戦場で散った人間とオークの命を堪能した。

 来たね。二千を超える命の味だ。この味が俺を、さらに強くする。


 ヘイズは力に酔いそうになった。どうにか、自制する。

 シュタイン城攻めは終わった。だが、まだ美味しい戦いは二回ある。


 取り零してはいけない。ヘイズは気分よく、リアータの街に飛ぶ。

 夕方にはリアータ街と対峙するオーク軍地に戻れた。


 他の使い魔のインプが、ヘイズを怒った。

「もう、どこに行っていたんだよ。探したんだぜ」


「いやあ、済まない。作戦が上手く行ったら、やるように言われた命令があるんだよ。お前も雇われインプだから、わかるだろう」


 ヘイズの抽象的な説明でもインプは納得した。

「わかるちゃあ、わかるよ。でも、姿を消すなら消すって一言、断ってくれよな」


「わかったよ、ごめんよ。それで、ボラテリア様は、どうした?」

「役目が終わったから、帰るんだと。シュタイン城攻めも、気になるからな」


 シュタイン城は落ちたよ。あとはマーリンが自然死すればオーク軍の勝利だ。

人間の兵士は皆殺しだ。ヘイズはまだまだ強くなれる事態を喜んでいた。


 帰りの馬車が出る。ヘイズと三人のインプは、また馬車の上でのんびりと過ごす。

 司令部に寄って一泊した。


 翌朝には早馬により、シュタイン城陥落の報告が司令部に入った。

 司令部は盛り上がっていた。


 ボラテリアはシュタイン城が陥落の報告を聞き、複雑な顔をしていた。

 無理もないね。ボダン軍閥の功績だから、喜びたい。


 でも、今回の作戦の最大の功労者は、政敵のボレットになっているからね。

 インプたちは素直に喜び、ボーナスの話に花を咲かせる。


 司令部で簡単に作戦結果を報告してからの出発になる。

 翌日の夜にはウーゴの街に着いた。


 本部はシュタイン城に移動していたので、宿舎にはボレットはいない。

 留守番にボッズだけが残っていた。


「帰ったよ、ボッズ。シュタイン城攻めは成功したんだって?」

「そうだあよ。何でも大きな地震で城壁が崩れたそうだあ」


 地震ね。まあ、そういう成り行きに、しておきますか。

「そうか。そいつはラッキーだったなー」


 翌日にはマリアと荷馬車がやって来る。

 マリアはヘイズを見て安堵した。


「本部はシュタイン城に変更になりました。ボレット様もお城の近くの館に引っ越しをします。今から引っ越しです」


「なら、荷造りを、さっさと始めよう。今日中に引っ越しを終わらせよう」


 作業をしに来たオークたちを手伝い、荷物を積む。

 引っ越しも二回目なので勝手がわかった。作業がスムーズに進む。


 荷物を運ぶ道中を歩きながら、マリアと会話する。

「街の人間たちの様子は、どうだ?」


「街にいるのは老人と病人がほとんどでした。自力で歩ける人間はセシルに付き従い、街を出たそうです」


 地図を思い返す。

 シュタイン城より西は荒れ地が広がっている。二週間ばかり行けばポンズ地方に出る。


 ポンズ地方はまだ人間の勢力圏だ。だが、ポンズ地方に出て街まで行くなら苦難の行程だ。

 ある意味、戦争するより厳しい道をセシルは選んだな。


 マリアが沈んだ顔で訊く。

「ヘイズ様。この世から戦争がなくなる日、来ないんでしょうか」


「来ないだろうね。魔神が死ぬとは思えん。だが、人間は案外にしぶとい。双方に決め手がないんだ。終わらないさ」


 マリアがぼそりと呟く。

「誰かがこの戦乱の時代を終わらせてくれればいいのに」


 従軍して悲惨な光景を見た一時的な(うつ)状態なら、いい。

 だが、マリアの思考は今の世の中では危険だな。


 ヘイズなりの親切心で、マリアに教える。


「時代を変えようと思うな。(あらが)って流されもするな。魚は水と喧嘩しない。水の中で生きる。俺たちはこの不確かな時代の中かで、利口に立ち回るしかないんだ」


「私にはこの世界を変える力はありません。ですが、いつの日か、この世を変えてくれる存在が出てくる状況を願います」


 救世主願望、か。わからなくはないが。他人に大事な決定を任せるとは危ういな。

 頼るほうはいいが、頼られるほうは辛いんだぜ。マーリンがそうだ。死ぬに死ねない。


 シュタイン城に到着する。シュタイン城では略奪が行われていた。

 城の財宝は軍のものになるが、一般人の家の財物は奪ったもの勝ちだからな。


 俺も貰ったけどね。荷馬車が千㎡の広さがある屋敷の前に到着する。

 屋敷は壊れておらず、綺麗だった。造りは武骨で、華美なところが一切ない。


 ボレットは宿舎に貴族の館より武家の館を選んでいた。

 荷物を下ろしている作業をしていると、外が慌ただしくなる。


 ボッズが慌てて顔でやって来る。

「大変だ。人間が隣国の軍隊を連れて戻ってきた」


 シュタイン城は復旧が済んでいない。兵も疲れている。

 ここで戦闘になれば、オーク軍は危うかった。

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