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毒を減らして

干支と十二支は違う〜「えと」は十干から来てるのに忘れられてかわいそう

作者: 黒野千年

「来年の干支は、子年だね」


 年末が近くなれば、こういう話が出てくる。ところが、これ微妙に間違っている。和風、中華風のファンタジーや伝奇風小説の作者・読者なら、すぐにお気づきだろう。


 動物だけで「子年」いうのは、干支ではなく、十二支なのである。「干」と「支」は別のものなのだ。

 もともとは十干十二支じっかんじゅうにし。「十の干」+「十二の支」であり、それを略した表記だから「干支」なのだ。


 それでは、十干とは、何だろう?

 これは陰陽五行説とか、五曜と呼ばれるものに基づいている。自然を構成する。5大要素である。端的に言えば、


 木火土金水もっかどごんすい


 一週間から「日」と「月」を抜いた「曜」である。それに兄弟がある。


五曜✕兄弟=十干


というわけだ。一般的に言って、兄のほうが陽にして激しく性質を表に出し、弟の方は陰にして内に力を制御するタイプである。

 漢字一文字で表すと……


 こうおつへいていこうしんじん


「ああ、甲乙をつけるの甲乙ってここから来てるんだ〜」


なんて思い当たる節もあるだろう。ルビは音読みである。

 訓読みはそれぞれ、木火土金水の訓読みに、兄「え」または弟「と」をこんなふうに付ける。


甲 きのえ 木の兄

乙 きのと 木の弟

丙 ひのえ 火の兄

丁 ひのと 火の弟

戊 つちのえ 土の兄

己 つちのと 土の弟 

庚 かのえ 金の兄

辛 かのと 金の弟

壬 みずのえ 水の兄

癸 みずのと 水の弟


 干支の「え」と「と」の読みは、実は、十干の兄弟に由来する。「干支」といった時に「子年」と十二支しか言わないのは、十干側からすれば


「俺たちを忘れるなんてヒドス」


というものなのだ。


 ちなみに2020年は


庚子 かのえね


こそが干支になる。


 十干十二支を使うと、60年間かぶりがない。10と12の最小公倍数は60だからだ。逆に言うと、60年で元に還る。

 暦が元に還る。

 それだけ長生きした証拠だから、60歳の節目を


還暦


と呼んで祝うわけだ。


 年号のかわりに使われてしまうこともある。多くの日本人が慣れ親しんでるものをあげるなら


阪神甲子園球場【はんしんこうしえんきゅうじょう】


がある。日本を代表するスタジアムだが、完成した1924年の干支が「甲子」(きのえね)だったことに由来している。


 歴史的事件にも多く使われる。例えば


乙巳の変【いっしのへん】

 

というのは、大化の改新のうち、蘇我入鹿の暗殺事件が干支では「乙巳」(きのとみ)の年に起こったことに由来する。音読みは「おつみ」ではなく、「いっし」が当てられている。


 大海人皇子(天武天皇)と大友皇子(弘文天皇)が争った


壬申の乱【じんしんのらん】


は、乱の始まった天武天皇元年が、「壬申」(みずのえさる)だったからだ。

 ほかにも「天正壬午の変」とか、「戊辰戦争」とか、元号以外に歴史的事件に用いられるものなのだ。


 こういう暦法は中国発祥で、割と近代まで根付いていることがわかる例としては


辛亥革命【しんがいかくめい】


が挙げられる。「辛亥」(かのとい)の年に孫文が起こした政変で、清王朝を打倒し、共和制の中華民国の成立に至った革命である。


 ちょっと変わり種だが、現代日本人も使った例としては、


丙午ショック【ひのえうましょっく】


なんてものがある。これは96年の少子高齢社会の到来を表現した言葉で、別名「1.57ショック」とも呼ばれる。

「丙午」=「ひのえうま」は、「火の兄」と「馬」の組み合わせ。激しく物を燃やし尽くす火のイメージが先に立つ。しかも、日本の在来馬というのは気性が荒い。

 この2つのイメージが結びつくところ、「丙午年生まれのやつは荒っぽい」という迷信があった。これが何故か昭和の現代人に刷り込まれ、66年の合計特殊出生率(女性が生涯で何人子どもを生むかという統計上の推計値)が1.58に極端に落ち込んだ。「丙午生まれは性格に難がある」「そんな年に女の子が生まれたらかわいそう」……特に女の子は引き合いに出されるのが「八百屋お七」だから、どんだけである。

 こうして、現代日本人がアハーンなことを控えたのだ。その前後の年は合計特殊出生率が2点近い=女性が子供を2人生むのがあたり前の時代だった。

 ちょっと信じがたいが、統計は残酷に現代人の迷信の深さを浮き彫りにしている。で、「66年生まれの日本人すべてが傍若無人な陽キャ揃いか?」と問われれば、そんなわけはない。

 その後は、人口のトレンドは少子化が当たり前となり、どんどん合計特殊出生率は低下。ついに96年に、「丙午という特殊事例」以下の合計特殊出生率1.57になってしまった。そういうわけで「丙午ショック」という人口論の象徴的用語が誕生したわけだ。因みに、合計特殊出生率は今は1点台前半で推移する=一人っ子が当たり前の少子社会である。


 とまあこのように、現代に至るまで以外に十二支ではなく干支は使われるもの。年表を探ってみると、「ああ、この事件にも干支が使わてれてる」なんて発見があるかもしれない。

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