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群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――  作者: 宮島更紗/三良坂光輝
三章    ―― 魔都哀愁 ――
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つばさと悠人6 『解放』

【ロキ エリシャの杭】


「あぁ! わかんねぇ!」

 散々『エリシャの杭』に付いているモニターと格闘した挙げ句に地面に大の字で転がる。

 三角形のスタートと途中の頂点を色々変化させ六芒星を作ってみるが、ウンともスンとも言わない。


 こうなって来ると、そもそもの考えが間違いなんじゃないかと思ってしまう。

 実はこのモニターがフェイクで、杭の横にボタンが付いているかもしれない。そう思って調べるも何も無い。

 モニター全部を指でなぞって光らせるんじゃないか? そう思ってやってみるが勿論ダメ。


「クソ……こんなところで苦戦するとはな。どうするか……って何やってんだ? お前ら」

ふと魔族娘どもを見ると、二人で地面に格子模様を描いてマルバツをつけて遊んでる。


「暇人か!」


「うぐ……否定出来ない。意外と時間掛かってるし」


「ねーまだー?」


「文句言うならお前らも考えるの手伝え! 何か引っ掛かった事とかでもいいから」

 んでその遊びは必勝法がある。昔散々つばさ相手に使った。調子に乗りすぎた所為でしばらく口を利いて貰えなくなったのは良い思い出だ。この世界にもあるとは驚きだ。


「うーん、要するに鍵だよね? 簡単にとけたらそれこそ鍵を付けてる意味がないんじゃないかな?」


「じゃあ例えばこのいかにも繋げて下さいーって感じの点が、実は関係無いとか?」


「っても、上空から見たら六芒星の魔方陣が出来てるわけだしな」


「そこが罠なのかもしれないね。だいたい、解くのに両手使わないといけないって面倒くさいし」


「両手……」


「兵隊さんなら片手の人だって居るんだよね? 片手ですむ記号なんじゃないかな?」


「ね。こっちの星なら片手で簡単に書けるのにねー」

 エアが地面にささっと五芒星を描く。

 頂点は関係無い、片手、五芒星、簡単に解かれないようになっている。でも解き方が伝わっていれば、誰にでも解くことができる……

 ……そうか、なるほどな。


「二人ともナイスだ。……どうやら俺としたことが考えすぎてたらしい」

 再びモニターに指先を当てる。問題はスタート地点だった。

 スタートの頂点が何処なのか、それをずっと考えていた。思考の落とし穴にすっぽりはまってしまっていた。

 頂点は関係無かったんだ。どこから初めてどこの頂点を通らないといけない。そんな紛らわしい運用、するはずが無かったんだ。

 俺は頂点と頂点の丁度間の空間に指先をあてた。


「これなら片手で書けるし、どこから初めてもいい」

 片手できれいに六芒星を作っていく。完成させた途端に、カチリと音がして『エリシャの杭』は活動を停止した。 


        ****


 最初に三角形を書き、その後そのまま正六角形を書く。そして三角形を五つ書いていく。

「いわゆる一筆書きというやつだ。こういう書き方もあるが……空から見た魔方陣とはかなり形が変わってくる」

 中を通る線が斜めになる六芒星を地面に書き込む。

 詳細は端折るつもりだったが、魔族娘どもにせがまれ、書き方を一から説明したのだ。


「なるーこんな書き方良く知ってたねー」


「小さい頃にこの手の問題を出して、反応を楽しんでたからな」

 小さい頃というのは俺がまだ白石悠人だった頃の話だ。つばさに色々と問題を出して、悩む姿を見てニヤニヤしていた。

 今にして思うと、我ながら根性がねじ曲がってるな。


 それでも、いい思い出だ。

 俺とつばさの間でおこった出来事は、どんなことであれ、俺にとっては大切な記憶だ。

 俺にとってつばさは大事な存在だった。

 俺は、何よりも大事な存在から離されてしまった。


 常見が丘に住んでいた頃は、十六年間、想いを壊したくなくてぐだぐだやっていた。

 そしていざ勇気を出してみたら何もかもが壊れてしまった。


 馬鹿な話だ。


 もう少し早く俺が行動していれば、全ては変わっていたかもしれない。

 もう少しだけ、たった一日でいい。つばさに想いを伝えるという、一世一代の決断が早ければ……少なくともあの日、屋上で石碑を見ることも、切り落とされた腕を見ることも、何者かに刺されることもなかった。


 生まれ変わって早十六年。いや、たかが十六年だ。

 そんな程度でつばさの存在がすっぽり抜けるなんて、あるはずがない。

 いつまでも俺の心に残り続けるだろう。


 そして俺の心は、それで良いと思っている。

 つばさへの想いを失うくらいなら、未来を望まなくて良いと思ってしまっている。


 弱い男だ、俺は。

 もう思い出でしか会えない相手の事。

 いつまでも未練がましくしていたら、死んだつばさに怒られてしまう。


 浸りたくなる思い出を振り払い、俺は現実に目を向ける。

 魔族の魔法を封じるエリシャの杭は解除したが、まだまだ俺にはやることが沢山残っている。


「さてとじゃあ、ちょっくら本陣に行くか」


「えっもう!?」


「三人で!?」

 二人いっぺんに突っ込まれる。仲がいいなお前ら。

 俺はぎゃーぎゃー騒ぐ二人にこれから何をするのか、何故この三人なのか。その概要を説明していく。


「――という訳だ。あまり大人数で行くと、気取られる恐れがあるからな。……の前に」

 エアに顔を向けると丁度大あくびをしているところだった。何か……酷い顔してたぞ今。思わず口の中に小石を投げ入れそうになった。大人しくしてると美形なのに。


「何ー? 見とれてた?」

 訳の分からない事を言っている。今の仕草のどこにそんな要素があるのか教えて貰いたいもんだ。


「残念ながら違う。リレフだったか? ツガイが心配なら先に探しに行くか?」

 エアが先ほど提示した交換条件だ。俺の本心では本陣の方を先に攻めたいが、助けが遅れて死なれても目覚めが悪いしな。


「え? 何の話?」


「いや、さっき言ってただろ。愛する彼氏様を助けたいーって」

 ちょっとニュアンスが違うが似たようなものだろう。


「ああ……そういえば」

 エアが思い出した様に翼を羽ばたかせながら続けた。


「大丈夫だよ。もう前のツガイだから」




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