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群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――  作者: 宮島更紗/三良坂光輝
三章    ―― 魔都哀愁 ――
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つばさと悠人4 『遭遇』

【ノエル 商業区】


 商業区、大通りの広場まで辿り着いた私達は、物陰からこっそり様子を伺っていた。


「あそこにエアはいないみたいだね。……どうする?」

 リレフが上空に鼻を向け、その後私の方を向く。

 その私の視線は商業区の中心に集められた魔族の女の子に集中していた。


「女の子ばっかりってことはやっぱりそういうことだよね……」

 広場の中央に五十人ほどの女性達が集められ、一様に両手両足をロープで縛られている。

 中には翼のある女性もいるけれど、折られているのか、変な方向に曲がっていた。

 それを囲うように兵士達が十人程立っていて、女性達を見ながらなにか冗談を言いあっている。


「人間はツガイを作らずに次から次に交尾するって言うもんね。……気持ち悪い」

 いつもは冷静なリレフなのに、珍しく言葉に怒気が含まれている。

 そういう人ばかりじゃないだろうけど、攻めて来ている人達だし多分そのつもりで集めてるんだろう。


「あの女の子達になにかある前に助けたい……けど、難しいかな?」


「この青い光……魔法が封じられてるんだよね?ボクは元から使えないけど、魔力の流れがおかしいのは分かるよ」

 そう、この青い光がある限り、私は戦力にならない。


「……『反射の魔石』は?」


「ダメ、反応ない」

 だめかぁ……リレフは魔法が使えない代わりに魔法を反射させることができる。

 この青いフィールドが魔法の一種ならもしかしたら……って思ったんだけどなぁ。


「人間は見た感じだとゴブリンより素早くないし、ボクがあいつらの注意を引きつけて、その間にノエルが女の子達の拘束をとくってのが一番いいかな」


「そんなの危ないよ!」

 ゴブリンより遅くても、敵には連続で発射できるボウガンがある。


「大丈夫。危なくなったら逃げるから。まあ、見てて」

 リレフは辺りを見渡すと、屋根の上にひょいひょいと登る。そして助走を付けて、兵の一人に飛び移った。


 突然なにかが背中にへばりいたと感じた兵士は悲鳴を上げる。

 なにかがいる。状況からそう判断した兵達がそれぞれ武器を構えた瞬間、リレフを背負った兵士の首筋から鮮血が噴き出した。


 兵士達がそれを見て驚いてる隙に二人目、三人目と首筋を伸ばした爪で切り裂いていく。

 残った兵は慌てて距離を取り、それぞれボウガンを構える。


 その構えた腕にボウガンの矢が突き刺さった。


 まだビクビク動いている倒れた兵士達を盾にして、隙間からリレフがボウガンを撃っていた。目標も見ずに次々に兵士に矢を当てていく。


「……そっか、匂いで」

 確かにリレフなら、匂いだけで生きた兵士達の場所を把握できる。

 だからボウガンの発射口が出る隙間さえあれば、顔を出さなくても打つことができるんだ。

 兵士達もボウガンを撃っているけど、味方の死体に突き刺さるばかりだった。


 最後の一人に矢が突き刺さったところで私は走り、集められた魔族達のもとに辿り着いた。途中落ちてた剣を取り縛られたロープを次々切っていく。


「ノエル!危ない!」

 リレフの叫びと悪寒が同時に襲いかかってきた。

 咄嗟に伏せると上空を剣が回転しながら通過していった。そして座っていた女の子の胸に突き刺さって停止する。


「だーめ、ダメ。人の食い物逃がさないでもらえるかなぁ?楽しみにしてんだからさぁ」

 飛んで来た方をみると、ワインレッド色のフルプレートを着た兵士がこちらに歩いてきていた。

 明らかに他の兵士とは違う。装備も、身の振る舞いも。


「んー?キミいいんじゃない?ちょっと生娘っぽいけど、そこがまた……うん」

 悪寒がおさまらない。この人が一歩近づく度に、気持ち悪さが増えていく。


「いいね。戻って来た甲斐があったわ」

 表情の見えないフルフェイスの中から、舌なめずりが聞こえてきた。


        ****


【帝国軍 本陣】


 ブルシャンの北西部、ラーフィア山脈にほど近い岩石地帯に、ターンブル本体は腰を下ろした。

 進軍時に山脈上部から確認したラーフィア山脈と岩盤に囲まれた自然砦。その中は中央に川が流れその周りを草花が密集するように生えている。

 そこは円い平地のようになっていて、草花が途切れたところから人の足でも駆け上ることが出来そうな緩やかな傾斜に繋がっていた。傾斜を登ると、幅の広い岩盤の頭に繋がり、その先はほぼ垂直な崖となっていた。

 壁に吸い付きでもしない限りは登ることは出来ないだろう。

 空から魔族が来ることに備え、岩盤の上には見張りの兵を並べてある。

 内部に侵入するための道は一つだけなので、そこにも兵を固め、目を光らせていた。

 

「そうか。じゃあ君らには性別というものが無いんだな」

 長い髪を結い、しっかりとまとめ上げた女が二匹の子竜に話しかける。その手には固いパンが握られ、少しずつちぎり口の中に運んでいた。


「なのなの。だからお父さんはお母さんなの」


「ボクたちみんな卵うめるの」


「それは楽でいいな。……もう少し食べるか?」

 女は縛られた子竜達の為にパンをちぎり、口の前まで運ぶ。それを二匹ともほぼ噛まずに飲み込んでいく。


「もう少しゆっくり噛め。詰まらせても知らないぞ」

 子竜達に水を与え、撫でる。

 束の間の休息。本陣を変えたターンブル軍は落ち着き次第、身を休めることになった。

 そして子竜達も死なれたら困る、という理由で、オリヴィアが食事を与えることになったのだ。


「ねぇお姉ちゃん。ボクたちどうなるの?」


「ん……。人間の世界に連れて行くことになる」


「人間の所に行った後はどうなるの?」


「……分からない。ただ、命までは取らぬよう、私の方からも働きかけてみる」

 名言は避けたが、一匹は皇帝の下でしばらくは飼育されるだろうと考えていた。すぐに命を奪われることはないだろう。

 問題はもう一匹だ。

 商人に売られるか、アレクシスに譲られるか、皇帝が取るか。


 オリヴィアは竜の戦略的な価値を説いてみるつもりだった。飼育されることで兵器として運用できるならば、他国に対しこれ程の脅威はない。その為に、予備も生かすべきじゃないかと進言する。

 確証は無いが、これならば両方とも大事に育てられるはずだ。そんな自信があった。


「ボク帰りたいなぁ。お姉ちゃん助けてよ」


「……すまない、それは出来ないんだ」

 それはアレクシスに対しての裏切り行為に他ならない。どれだけ子竜が愛らしくても、それを行動することはできなかった。


「そっかー。でもホシがいるから大丈夫だよ」


「カゼと一緒なら人間のところに行ってもいいよ」

 子竜達は縛られながらも絡み合っている。


「さっきから気になってたんだが、そのホシとかカゼとかは君らの名前か?」


「うん!他にもハナとツキがいるよ!」


「背中の模様がそう見えるんだってー!ノエルにつけてもらったの」


「なんだそれは。単純な名付け親なんだな」

 釣られて子竜の背中を見る。ホシは確かに言われてみると五芒星に見えるが、カゼはよくよく見ると風車の形に似てるかもしれない、程度だ。少しこじつけな気がした。

 パンを食べ終えたオリヴィアがしばらく子竜と語り合っていると、兵の一人が駆け込んできた。


「! し、失礼しました!」

 慌てて後ろを振り向く。オリヴィアが全身甲冑パレードアーマーを外していたからだ。

 特に不埒な格好でもなかったが、オリヴィアの素顔を見る兵自体が少なく、一種隠されているものだという認識があったからだ。


「いや、良い。どうかしたか?」


「はっ。皇太子殿下が到着されました。ヴィクトル隊です」


「そうか。奪取できたか……!」

 すぐに全身甲冑パレードアーマーを身に付け、アレクシスの幕屋に入る。

 中央に座るアレクシスの横に既にイヴォンが控えていた。そしてその前に六歳程度の男子と同じ歳くらいの女の子が二人立っている。


「オリヴィア。機は熟した。全軍に伝えよ……これより我が軍は撤退する!」

 アレクシスが指示を出す。闘技場の形をした自然砦の中で、再び兵達が準備を開始した。



お待たせしてごめんなさい。

PC不調のため昨日アップできませんでした。。。

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