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群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――  作者: 宮島更紗/三良坂光輝
三章    ―― 魔都哀愁 ――
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    悠人2 『侵入経路』

【帝国軍 本陣】    


「妙な石だと?」

 ブルシャンの正面に本陣を構え、張られた簡易テントの中で戦況を見守る総司令官アレクシスの下にその報が届いたのは制圧隊突入後一刻半ほどしてからだった。

 伝令がブルシャンから運んできた『謎の石』を受け取る。

 琥珀のような結晶体と血で覆われた拳より少し大きめの石だ。所々赤色がかった半透明の物体が付着していて、中の水晶石が見え隠れしている。


「ふむ、コレが魔族の心臓なのか?」

 アレクシスは興味深げにその石を眺め、指先で軽く弾いたりしている。

 その様子を内心懸念に思いながら二人の側近が見守っていた。

 親衛隊長イヴォンと軍団長筆頭オリヴィアである。


「はっ。魔族の中でも一部ではありますが心臓の代わりに入っておりました」

 伝令が敬礼をとかず答える。


「閣下。なにが起こるか予想が出来ません。せめて私がお持ちしますので」


「いや、よい。魔族の胸にあったと言うならば、悪い物ではなかろう」

 オリヴィアの危惧をはねのけ、手のひらでひとしきり石をもてあそぶと、近くにあった手頃な岩にその石を叩きつけた。

 まるで洞窟内部にいるときを錯覚させる反響音が響き渡る。石から断続的に甲高い音が発せられていた。


「硬いな。とても心臓とは思えん。予測は出来るが……お前たちはなんだと思う?」


「その発光周期は、商人の持ち込む特殊戦略商材に似ております」

 オリヴィアが答える。それに呼応するようにイヴォンも頷く。


「確かにこりゃ『エリシャの杭』の光に似てるっちゃ似てますが……材料の一部ですかね」

 二人の発言にアレクシスは軽く頷く。そしてそのアーメットの中で小さく笑いを含む。


「少し違うな。これは恐らく……『魔石』だ。魔石の原石……魔原石と言えばいいのかな。なるほど幾ら地を掘っても出てこないはずだ」

 二人とも同時に息を呑む。アーメットの中ではどちらも顔に驚愕の色を浮かべていた。

 『魔石』。ルスラン王国の将が持つ戦略兵器である。


 人間、という存在は魔法が使えない代わりに己の肉体と武器を強め、戦術という知能を駆使して発展してきた。

 だがそんな中ルスラン王国は『魔石』と呼ばれる魔法を封じ込めた石を使い、近隣諸国を次々と制していた。

 中級以上のモンスターが使う魔法。それと同等の力を駆使するルスランにターンブルも長らく苦しめられ、それは今にも至る。


 数こそ少ないが、ルスランの将が必ず持つとされる魔石を使用者ごと捕らえたこともあった。

 そこで分かったことは、魔石は祖先より代々受け継がれ、『血の盟約』により使用者とその血縁者以外に使うことができない。

 王族のみ全ての魔石を扱うことができ、『血の盟約』の解除や変更も可能であるということ。

 そして原料と製法は秘匿とされており、王族の限られた存在にしか詳細を知る者がいない、ということだった。


「血の盟約前。所持一族がまだ誰も存在しない魔石が手に入る……ということでしょうか」


「っても加工できなきゃどうしようもないンだがなぁ……それでもこの戦利品はデカい」

 長年苦しめられてきたルスランの魔石。それを得る足がかりができたのだから。


「『エリシャの杭』の動力部に魔石が使われているんじゃないか、という話も出ていた。もしそうであるならば……商人への負担も減らせる。集めておくに超したことはないな」

 それにしても、面倒なことになったな。と心の中でイヴォンはため息を付いた。

 テントの隅に無造作に置かれた麻袋に目を移す。厳重に縛られた袋の中で、部下が捕まえた生物が時折動いている。


 ラーフィア山脈を進軍中に発見した掘っ立て小屋。その中を調査した部下がドラゴンの子供を捕獲したのだ。それも二体も。

 親とは違い特に攻撃能力を持ってなさそうだったので生け捕りにして放っている。


 帝都に持ち帰れば、恐らく誰もがヨダレを垂らして欲しがるだろう。

 一匹は皇帝に捧げるとして、残り一匹はある程度成長させた後に肉を細切れに裂き食べ、皮を加工して服かマントに仕立て、骨は美術品として展示される、といったところだろうか。


 それだけでも戦利品として十分なのに、更にそこに魔原石が加わる。

 欲の皮が突っ張った帝国領の連中は目の色を変えるだろう。

 魔族を攻めれば金になる。ならば一つと言わずに全ての街に攻め入ってしまおう。

 そう考える輩が大多数を占めることは自明の理だ。

 そうなると経験と実績のあるアレクシスが命じられ、自動的にイヴォンも付き従うはめになると。


 イヴォンは今後訪れるであろう自分の苦労を考え、もう一度深くため息を付いた。



        ****

【ルールー 歯形断層】


「撒餌に引っ掛かったな」

 断層から平地を見渡せる位置まで向かう。鶏馬の集団が土煙を上げながら真っ直ぐこちらの方に向かってきていた。

 さっきロキたちがあげていたタキギは敵をおびき寄せる作戦だったらしい。鶏肉を食べたかった言い訳の気もするが一応それで納得した。


「やはり百人隊ですわね。遊撃とは言え、なにが起こるか分からないのによくやりますわ」


「ま、それだけ魔族のこと舐めきってるんでしょ?僕たちにとっては都合がいいじゃない」


「やりますか?」

 ガラハドがロキからの指示を待っている。さっき同じ位の数を始末したばかりなのにまだまだ余力がありそうだ。


「いや、少し温存してくれ。血に飢えた女がいるからな。どうやら暴れたくて仕方がないらしい」

「誰のことですの!?」

 誰かなんて明白だ。ロキがカロリーヌの肩を叩いてる。

 心外だといった顔をしていたけれど、ため息を一つ付いて背中の弓を構える。弓の中心に装飾された宝石が輝き、それに連動するように弓全体が大きく広がった。かわったギミックだ。


「適当に減らしますので、残りはガラハド様お願いします」

 ガラハドが頷くのを確認して、矢を番えずに弓を引く。すると最大まで引き絞られた弦から光る矢が次々と生まれる。


「頑張ってガラハドの負担を減らしてくれよ。カロリーメイト」


「カロリーヌ!」

 カロリーヌの叫びと共に矢が照射された。一射で放射線状に放たれた光る矢の束が山なりに飛び落下の瞬間に速度を変えて敵の頭上に降り注ぐ。

 敵と鶏馬の悲鳴がこちらに届く前に、カロリーヌは同じように次々と連射する。無数の光る矢の雨が敵の一団に襲いかかってきた。


「なにアレ? 魔法?」

 余りの現実離れした光景に圧倒されながらロキに尋ねる。


「いいや、魔道具だ。魔石のカケラを埋め込んだ武器。魔族の世界にはないのか?」

 そんなものあるはずがない。魔石自体がそうコロコロ転がってる物じゃないし、行政区内でいくつか見たあるけれどどれも生活の利便性を高める物ばかりだ。


「ただアレはいくつかの魔石が複合して出来てるからな。だいぶん特殊なやつではある。邪魔そうな乳袋二つ付けた女には勿体ない位だ」


「なにかいわれのない罵倒を受けてる気がしますわ!」

 カンの鋭いカロリーヌは一人で怒りつつ、それでも手を休めずに矢を打ち続けてる。敵の一団はもはや私たちに近づくどころではなくなっていた。


 兵士が減ったところでガラハドが断層から飛び降り、残った残党を片付けていく。

 カロリーヌも一射に切り替えたらしく、逃げていく敵を一体ずつ撃ち殺している。


「ところでルー子。このような階段を傾けたような断層群をケスタ地形と言ってな。ギザギザの地形が特徴で、硬い地層と柔らかい地層がミルフィーユ状になって出来ているんだ」


「え、それ今言わなきゃなんないこと? それでルー子ってなに!?」


「だがしかしだ、さっき見てきたんだが『断罪の崖』は所々御影石のような硬い岩盤で出来ていた。更に驚くべきことに、ラーフィア山脈自体は火山地帯ではないはずなのに、その周辺の土壌はシラスと言う白い砂、つまり火山灰が降り積もって出来ているようだ。このちぐはぐさが興味深く、考えさせられるものだな」


「今私に話しかけてたんだよね? 私の質問普通に無視してなんの話してるのさ!?」


「ところでマンドラゴラ種ってのはどんな魔法が使えるんだ?」


「脈絡がなさ過ぎる! 会話が出来ないこの人! ってか仲間が戦ってるんだよ!?」

 カロリーヌは慣れてるらしく、いつもの悪い病気が始まったとばかりに呆れ顔で打ち続けている。


「王子が戦うものか。ふんぞり返ってるのが王族の仕事だ」


「開き直りですか。堂々と役立たず宣言するな!」


「まあそれを言ったら僕だって哀れな子羊たちにお祈りしているだけなんだけどね」


「あなたはもう先に帰ってもいいんじゃないかな?」

 もう本当にこの人たち疲れる。言い争っている間に敵を殲滅したのか、ガラハドが帰ってきた。


「殿下の為に、生きた鶏馬を四頭確保しました。これで少しは移動が楽になるでしょう」

 殿下の為に、という言葉を不自然に強調している。

 さっきまで戦っていた場所を見ると、兵士の死体に紛れて鶏馬が四頭繋がれていた。


「自分の為だろ。まあナイス判断だ。これで機動力を考慮出来る」


「良い悪だく……げふん、計を立てられそうですか?」


「丁度好材料になりそうなことを分析していたところだ……と言うか今、聞き捨てならない単語が聞こえたが」


「気のせいでしょう」

 ガラハドは涼しい顔をしている。


「ブルシャンの魔族ってのはどの位魔法を使えるものなんだ?」


「人によりけり、私は一応水魔法だけど、雲降ろし(クラウドフォール)っていう曇った日でも晴れ間が作れるって魔法しか使えないよ」

 両親共々マンドラゴラの私が種族の伝統として教わった魔法だ。コレがあれば、最悪日光と降ろした雲の水で生きられる。お腹は空くけど。


「水蒸気を操れるってことか?」


「違うと思う。前にお風呂の湯気を集めようとしたけど、出来なかったし」

 なんにせよ戦闘には使い物にならない。ノエルみたく手から炎をバンバン出せたらまだ役に立てるのに。

 ロキは納得したように頷き、次の質問にうつった。


「これまで人間が攻めて来たことは? どんな少人数でもいい」


「ないよ。昔のことは分からない。私の知る限り初めてかな」


「ふむ……ターンブルの兵たちを全部と言わないまでも千人位は相手できそうな魔族は何人くらいいる?」


「良く分からないけど多分ひとり……もしかしたらひとりもいないと思う。魔法ひとつ取っても、家事を楽にする為に使ってる魔族が殆どだから」


「少ないな。もっとこう……ターンブルの連中を丸ごと相手出来そうな魔族はいないのか?」

 そんな都合の良い存在いるわけがない。ノエルのお父さんが昔有名な戦士だったって話は聞いたことがあるけれど。流石にそこまでじゃないだろうし。

 他の魔族たちに至っては聞いたことがない。


「あの人数はそれこそ『帝都の厄災』でも連れて来ないと無理なんじゃないかな」

 エメットの言葉にカロリーヌが首を傾げる。


「なんです? 『帝都の厄災って』」


「大昔に帝国ターンブルに現れた化け物だ。領民ひっくるめて十万人以上の被害が出たらしい。まあ、どこまで本当かは分からないがな」


「おとぎ話のたぐいだね。絵本で良ければ今度読んであげるよ。枕元で」


「ずぇったいに遠慮しておきますわ!」

 カロリーヌがエメットのキラキラを手で弾きながら威嚇してる。なんだろう、一々反応するのが面倒くさくなってきた。人間ってこんなんばっかりなんだろうか。

 そんな二人を無視してロキが続ける。


「次に街の構造だが北東と北西に門があったが、他に出入りできそうな場所はないか?」


「ないと思う。私たち魔族はあそこからしか外にでないし」


「緊急時の避難場所は?」

 そんなのあるんだろうか。私は聞いたこともない。


「決めてないけど多分、行政区の建物内のどれか。役所か、領事館も使われているかもしれない」


「大抵、そう言った場所ならば抜け道の一つもあるはずなのですが」

 ガラハドが言う。


「見たことないし、聞いたことない。あったとしても多分誰もそれを知らないよ」


「水道局」

 ぼそりとロキが呟いた。


「風呂があるってことは水道が引かれているんだろう?その管理をしている建物は?」


「あるよ。水質調査管理場。行政区の端っこ」

 ブルシャン南の端にあるそれなりに大きい施設。私には馴染みの深い場所だ。


「街の外に水を止める水門がないか?」

 水門……水路が破損した時用にあるにはあるけど、


「今はもう管理館の中から全て操作してるはずだよ」


「いまは?」

 私の言い回しにロキが反応した。そりゃあ昔こそ水中で呼吸が出来る魔族が水路内部で止めてたけど、面倒くさいから今は全部管理場で……あっ!


「確かに一つあるけど。でもあそこは……え、もしかして……」


「よし、ルー子。そこまで案内してもらおうか」



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