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群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――  作者: 宮島更紗/三良坂光輝
三章    ―― 魔都哀愁 ――
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    悠人1 『転移石』


        ****



彼の前に、ツガイのメスが倒れている。



彼女は腹から血を流し、大粒の涙を流しながら彼を見る。



彼女は彼に向かい、擦れる声を絞り出す。


「なんで? なんでこんなこと……するの?」


彼はなにも答えない。ただ、彼女を見つめている。



彼女はもう一度、同じ言葉を彼に投げかけ、事切れた。



彼は、運命のツガイの死をその目に強く焼き付けた。



        ****


【ルールー 歯形断層】    


 地を走る鳥の部隊を殲滅させた男たちは、私を連れて湿地地帯奥深くにある『歯形断層』に身を潜めていた。ギザギザの小さな崖が連なっている場所だ。


「敵はレギオン隊五つ、それに親衛隊。総勢三万一千ねぇ」


「事前に想定してたよりも少ないですわね。それでも多いですけれど」


「奴さんらも色々と大変なんだろう。ガラハド、一人で殲滅できないか?」


「ご冗談を……」

 ガラハドと呼ばれた銀髪の人間が呆れ顔で首を振っている。

 さっきの兵士たちを切り捨てる動きを見ているので、冗談に聞こえなかったりもするけれど流石に無理みたいだ。

 私の見えない所で捕まえた兵の拷問が行われたらしく、引き出した情報を四人でいろいろ共有してる。……っていうか、


「え、なんで悠長にご飯食べてるの?」

 四人は落ち着けそうな丸太に腰をおろすと、火をおこし始めて、兵士が乗っていた鳥を焼いて食べ始めていた。


「いや、この角の生えたダチョウみたいな鳥……鶏馬ルロって言うんだが」

 ジューシーに焼けたもも肉を私に見せながら白い髪の自称王子様が言う。


「実は美味いんだ」


「美味しそうに食べてるしね! じゃなくて! 今現在私たちの街が襲われてるんだよ!?」

 なにをのんびりしてるんだ。早くしないと皆が殺されてしまう。


「さっき見たら敵も本陣を作っていた。きっと奴らも今頃良い飯を食ってるんじゃないか?」


「攻めてる人間たちもいたよ!」


「って言ってもな、今更どうしようもないだろ。進軍前ならともかく」


「うぁ、やる前から諦めてる。助けに来たんだよね?」


「まーまー、そうカリカリしないで。おいで、一緒に食べよ?」

 金髪の男がウィンクして自分の隣をポンポン叩く。なんか錯覚か顔の周りがキラキラ輝いている。なんかかっこつけてるけど口の周りは鳥の脂でベットベトだよ。


「俺たちは魔族の敵ではないが、味方でもない。ついでに言うと助けるとも言ってない。だがまあ、俺たちの目的に沿う範囲ならば助けてやらんでもなくはない」


「結局どっち!? じゃあなんで私を助けたのさ?」


「新しい土地に行くのであれば、案内役は必須ですわね」

 赤いフードを被った女の人は生の胸肉をナイフで削ぎながら食べてる。絵面が怖い。


「いつの間に私雇われた!? なんなのさこの人間たち!」

 このまま自分だけでも帰ろうかとしたところで、無言で食べてたガラハド人間が口を開いた。


「ここから離れても構わないが、先ほどのように襲われて死ぬだけだ。気持ちは分かるが少し落ち着け」


「落ち着いてられない! 同僚が殺されたんだよ!?」


「物事には順序がある。仮に今我らが魔族の街(ブルシャン)に突撃したところで多少は善戦するであろうが、結局は数に押し切られるだろう。ならば少しずつ敵の勢力を削ぎながら計画を練った方が良い。分かったら座って休め。小さき魔族よ」

 そりゃまあそうだろうけど。そもそもこの人間たちは魔族を助ける気があまりなさそうなのが問題な訳で。


「ルールー。マンドラゴラ種のルールー。これが私の名前。あなたたちは?」

 しぶしぶ、金髪の隣に座りながら尋ねる。


「ロキ=フォン=ラフォード=ルスラン。ルスラン王国第五王子だ。王都では『碌でなし王子』と呼ばれていた」

 『碌でなし』。どう考えても良い意味とは思えないけれど、言ってる本人はまんざらでもなさそうだ。


「んでコイツがガラハド。俺の従者だ。王都では『雷の英雄』、略して『雷英』ガラハドと呼ばれていたこともある」


「昔の話です」

 銀髪のガラハドがロキに頭を下げる。


「んで残り二人が下僕AとB。以上だ」


「蹴り飛ばしますわよ!?」

 フードの女性が奇声を上げる。金髪に至っては大きな声で笑っていた。


「僕は一応神官だからね?神に仕えても、王族の君に仕えたつもりはないかなぁ」

 金髪が髪を掻き上げて光をまき散らしてる。その謎のキラキラはなんなんだろう。


「司祭エメット。見ての通りの『チャラ導師様』だ」


「……だからそのチャラってなに? 絶対いい意味じゃないでしょ?」

 私も分からないが響き的にそんな気がする。ロキはエメットの訴えを無視して続ける。


「最後に没落貴族エロリーヌ」


「カロリーヌ!」

 フードの女が生肉をロキに投げつける。ロキは難なく避けて続ける


「とまあ、性格も粗暴。顔も怖いと……見ての通り巨乳だけが取り柄のお色気担当だ」


「撃っていいかしら?」

 カロリーヌがいつの間にか白い弓を引き絞っていた。宝石の飾りがいくつも付いた、豪華絢爛な強弓だ。フードから見える目が本気で怒ってる。

 碌でなしにチャラ導師に没落貴族……え、雷英さん位しかまともな肩書きの人がいないけど大丈夫なんだろうか?


「大丈夫、戦うのは主にガラハドだ。俺は高みの見物を決め込む」


「確かに『碌でなし』だね! ってか私今口に出してないけど? どうやったのさ!?」

 ロキが「頼むぞガラハド」と豪快に笑い、ガラハドが困った顔をして頭を掻いている。なんかもう、この人疲れる。なんでこの緊急事態に人間と世間話しなくちゃならないのだろう。しかもまだ自己紹介だけとか!


「それで? その碌でなし王子さんは魔族半島になにをしに?」

 こんなんだけど、少なくとも雷英って人は腕が立つ。目的に沿えば助けるって言ってたし、是非とも魔族の皆を助けてもらいたい。


「四ヶ月程前かな。魔族の街(ブルシャン)に人間の子供が三人、保護されたという話を聞いたことは?」


「あるよ? って言うか私が領事館で担当してたことあるし」


「ホントに? それはそれは……神が与えたもうた奇跡の出会いだね。いや、これが運命ってやつかな」

 金髪がためらいもせず葉っぱを撫で始めた。勝手に触らないでもらいたい。……これがチャラか!


「その人間の子供だが、身に付けていた服からターンブル……ルスランの敵国のことだな。それの皇族なんじゃないか、と推測され本国に連絡が入った」

 館長が領事館にある『通信石』を使ったのだろう。別名『ツガイの石』。対になる石を持ってさえいれば、どれだけ離れた相手とも会話が出来る。一日一回十分のみで使えるのは館長トップだけだ。


「んで帝国ターンブルに密偵を送り調べてみたところ、皇太子第一候補者が行方不明になってるらしいぞーと。つう訳で、なんとしても王国ルスランは子供を本国に囲い込みたかった」


「敵の弱みを握りたいってことだね」


「そういうことだな。だが途中にあるラーフィア山脈は古代からの白竜が護っていて通ることが出来ない。ならば、と王国ルスランは『教会』を利用することにした」

 ラーフィア山脈……ドラゴン山脈のことかな。文脈的に。


「『教会』? 館長と同じように『転移石』を使ったってこと?」


「知ってるなら話は早い。んでもって……そこのチャラ男のツテと俺の人脈の広さで『転移石』を使えるようになった。……は、いいが、問題が一つ」


「人数制限?」

 『転移石』は移動できる人数が限定されている……と館長が言ってた気がする。


「そう。『行き』に六人、『帰り』に六人まで。一度、人数分の往復を行えば宝玉オーブのエネルギー切れに陥ってしまう。回復には半年はかかる。俺も個人的な繋がりで宝玉オーブを持っているが、現在回復中だ。今回は『教会』保有の宝玉オーブを利用させてもらった」

 宝玉オーブがなにかは分からないけれど、思ってたよりも条件がきつい。まあそれはそうかもしれない。無制限に人間が移動できるならば、魔族の街はいつ人間に攻められてもおかしくない。なんて状況になってしまう。


「転移石とも繋がりが深く、雷英ガラハドも配下にいる。そんな俺だからこそ送られた……という訳だ。厄介払いも兼ねてな」

 私たちが保護していた人間の子供たち。その中の一人、皇太子を王国ルスランに連れて行く為に。……え、ちょっとまって。


「それじゃ王国ルスランが悪者だよね?」

 元々子供たちが帝国ターンブルの住人なんだとしたら、今攻めてきている人たちに返すのが正しい気がする。


「あーそこ気が付いちゃった」

 チャラ導師もちょっと渋い顔をしている。図星らしい。


「戦争に良いも悪いもないさ。考え出したらキリがない」


「でも今攻めて来てる帝国ターンブルの人たちもあの子たちを取り返しにきてるんだよね? 素直にわたせば万事解決だと思うんだけど」

 目的を果たせばそんな無茶はしない気がするし。


「ターンブル軍が街に進行する前ならばその道もあったかもしれないな。だが恐らく今それをやってもこの戦争は止められない」


「なんで? ちゃんと話して引き渡せば――」


帝国ターンブルが納得しても、魔族が納得しませんわ」

 私の言葉を遮って、カロリーヌが言う。その目には今までとは違う悲哀の感情が上がってる。


「今の間も家族が殺された魔族がいらっしゃるでしょう? 恋人が辱めを受けるかもしれません。それを目的が達したからといって、はいさよなら。なんて普通は出来ませんわ。本来であれば、許されることではありません」

 その言葉は迫真を帯びている。多分魔族は自分の家族を殺されたら、黙ってない。どんなことがあっても復讐しようとするはずだ。

 それを覚えているならばだけど。


 子が残り親が殺されたら復讐心が残ると思う。


 問題は交尾をしたことのない魔族だ。


 交尾前のツガイは存在自体が不安定だ。

 もし片方が死んだら、もう片方は世界の何処かにいる新しい魔族と心が結ばれる。

 それはつまり死んだら、残ったツガイの相手から、世界から愛情を否定されるということ。

 好きだという気持ちがなかったことにされる。

 生き残ったツガイはそれまでの楽しかった記憶も薄れ、新しいツガイへの希望で満ちあふれる。

 それを悪だと言うならば、魔族全体が悪だということになる。


「もう一つ大きな理由がある」

 ロキが言葉を続ける。どこから出したのか、その手には煌めくこぶし大の石が握られている。


「魔族の街を攻める利点、恐らくターンブル軍はそれに気が付くだろう」

 ロキが言葉を続ける前に、私を除いて四人とも立ち上がる。

 沢山の地を走る鳥、鶏馬ルロが私たちのいる場所に近づく足音が聞こえてきた。



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