幕間 『瞳の住人』
『それで、いいの?』
「――っつ、」
フィリーの唇に近づいた瞬間、頭の中を何かが駆け巡った。
鋭い痛みが走る。
同時に何か、声が聞こえてきた。それはとても、懐かしい声だった。
痛みは一瞬で、淡い幻想のように消え去る。
私は首を振り、止めていた動きを再開する。
私は、フィリーの頬に手を当て、顔を近づける。
これで、私は、私は――
「……え?」
私はフィリーの瞳越しにそれを見た瞬間、体の時間が止まり、動きを止める。
それを見た瞬間、心臓が高鳴る。本能が何かを訴えかける。
錯覚? ……ううん、ハッキリと見えた。
フィリーの瞳越し、そこに映る私の目が青白く光っていた。
「ノエル……」
フィリーが言う。
「う、ううん、何でも――」
「好きだ」
「へ!?」
さっき二度と言わないって……
「好きだ」
「ちょ、ちょっと」
「愛してる、アイシテル」
「フィリー……?」
フィリーの瞳が、濁っていく。真っ直ぐな瞳が失われていく。
「好きだ、ノエル、スキダ」
違う、これはフィリーじゃない。フィリーはこんなことは言わない。
――!?
一つの事実が、頭をよぎる。
思い出した。
大事な事を、私は忘れていた。
そして震えた。
足の力が抜けていく。
――そんな、じゃあ、じゃあフィリーは……――
私は地面に崩れ落ちた。
……嘘だ。嘘だ。嘘だ! 嘘だ!!
声にならない声を出す。涙が溢れてくる。
「フィリー……ふぃりぃ……わたし、わたし、…………うぁああああああああ!!!!」
――いや! いやだっ!! こんなの、あんまりだ!!――
「私は……私はッ!……」
私は、婬魔、サキュバスだ。






