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群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――  作者: 宮島更紗/三良坂光輝
二章    ―― 夢と空の遺跡 ――
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遺跡5 『鏡』

「なにをぼうっと突っ立ってるんだ。まぁ、座れ。汚いところだけど」

 悠人が自分の隣をぽんぽんする。ってか汚いところだと?


「ここ私の部屋なんだけど! 毎日けっこう頑張って綺麗にしてるんだよ!」


「冗談だよ。来たのは久しぶりだけど、変わらないなこの部屋は」


「来るなら来るって言ってよ。べつにいいけど」

 私は頬を膨らませながら、悠人の隣に座る。……よかった、変な物は落ちてない。たまに下着とかほったらかしにしちゃうから危なかった。


「驚かそうと思ってな。つばさの嫌がることはなぜか無性にしたくなる」


「意地悪だもんね。悠人は昔から。あ、これ飲む? 美味しいよ」

 飲んでいたジュースの入ったコップを差し出す。

 ……飲みかけだけど、ストロー外せば――あっ


「……甘い。お前、昔から好きだよな、こういう味」

 こいつ、ストロー使って飲みやがった。



 ……いいけど。


 ……別にいいけど!!


「で、で? ど、ど、どうしたの? 急に」


「なにをどもってんだ」


「うるさぁあい!!」

 バチンと私の平手打ちの音が部屋に響く。


「いってぇ……この暴力女!」


「どっちがだ!! ふざけんな馬鹿!!」

 毎回毎回、天然で私を攻撃してきやがって。


 毎度毎度、ボディーブローみたいな攻撃してきやがって!


 受けるこっちの身にもなれ!



「こほん、で? どうしたの?」


「……急に、何事もなかったかのように戻ったな」


「もうそれはいいから!」


「いや、……つーか、アレだ。……告白の返事を聞きにきたんだよ」


「あー、告白ね。こくは――ぅあい!?」

 ヤバい、喉から変な音が出てしまった。

 隣の悠人は私から顔をそむけて窓の方を見ている。


 そ、そうだ。そういえば、私は告白されていたんだった。


 重工の屋上で。

 ずっと待っていた言葉を聞かされていたんだった。


「いつっ……」


「……どうした?」

 急に、頭の中で激痛が走った。

 沸いて出てこようとした、なにかを止めるように激痛が広がった。


「なんでもない。そ、それで、返事だっけ。私保留にしてた?」


「いや、聞こえなかった。なんせあの時俺達は――」

 ジジッと悠人の身体に筋が走る。悠人の身体が少しずつ崩れていく。


「そ、そっかぁ……えーっと、じゃあ改めて言うね」

 悠人の身体が薄れていく。あの時の姿に変わっていく。


「私も、悠人と――悠人と――あ、あれ?」

 急に涙がこぼれ落ちた。


 おかしい。嬉しいのに。なんで私は泣いてるんだろう。


 なんで、私の気持ちはこんなに沈み込んでるんだろう。


「ご、ごめん。コレは違うからね」


「いや、違わない」


「え……?――ひっ」

 顔を上げると、悠人は口から血を吐いていた。

 両手が、胸の辺りが鮮血で染められている。


「お前はずっと、泣いていればいいんだ。俺がこんなに苦しんでいるのに。俺のことをすっかりと忘れやがって」


「ち、違う。違うよ!」

 悠人のことを忘れたことはない。

 今でも、私の心には悠人が住んでいる。


 ……今? 今ってなに? 今っていつのこと!?


「俺がこれだけ苦しんで、死んだってのに、お前は新しい人生で、幸せそうにしやがって」


「だって……悠人は……だって、死んだんだよ。私だけずっと考えてても、もう――」


「だからどうした。お前にはもう、幸せになる権利はないんだよ」

 分かってる。心の中で、それを認められていないのは分かってる。


 私は閉じ込めていた。


 悠人が死んだ、あの日の記憶を。血を流して苦しんでいた悠人の姿を。

 その現実から目を背けて、私は――私は――


「ノエル……」


「フィリー……ひっ!?」

 いつの間にか、部屋の隅にフィリーが立っていた。

 フィリーは頭半分を消し飛ばしていて、翼が一枚折れていた。

 体中傷だらけで血を流した姿で、私を睨み付けている。


「オレがこれだけ傷ついて、それでもツガイとして一緒にいたいと思ってんだぜ。それなのに、お前はそいつを選ぶんだな」


「フィリー、違う。私は――わたしはもう」


「違わねーよ。結局おめーは俺達とは違うんだ。俺達と同じ道は歩けねーんだよ」


「そんなことない! 私は、私は……」

 私は……


 私は、なに?


 私は、なにもの?


 私は、私は、私は、私は、私は、私は、私は、私は、


「つばさ、お前は俺を忘れて、そいつを選ぶんだな」


「ノエル、てめーは思い出に縛られて、オレを好きにはなることはねーんだな」

 違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う――


「つばさ、お前はどっちを選ぶんだ?」


「ノエル、おめぇ……結局、どちらでいたいんだ?」


「私は……私は!」




 そうだ、私は……生まれ変わった。




 悠人が死んでから、私は人間を捨てた。





 ――私は、魔族、サキュバスだ。



 バチンと頭の中で何かがはじけ飛ぶ。

 部屋が音を立てて崩れ去っていく。


 私のお気に入りのベッドが、勉強机が、棚が消えていく。

 崩れ落ちる世界の中で、私は鏡に映る自分自身を見た。


 ずっと目を背けていた自分自身を見た。


 赤みを帯びた、長い髪。少しきつめの顔立ち。

 そこに立つ女は、ノエルの姿をしていた。


 その両目は、青白く光り輝いていた。


    *****


  

    *****


    *****



 ぴちょん、ぴちょん、と水の滴る音が聞こえてくる。

 それに合わせるように、「にー」「にー」と妖精フェアリーの鳴き声が響く。

 私の頭が揺すぶられる。


「……つっ」

 頭の中で激痛が走る。

 なんだろう、頭の中を虫が這い回ったような不快感がある。


 ……。

 そうだ、私はフィリーと一緒にリザードマンと戦って、

 そして――


「フィリー!?」


「にー!!」

 起き上がった私を見て、妖精フェアリーがぴょんぴょんと跳びはねる。

 私は、戦いのあった空間に倒れていた。

 あれだけあった、リザードマンの死体は消えていた。

 まるで、なんの戦闘もなかったかのように消え失せていた。


「なに? ……なにがあったの?」

 床に視線を這わせると、床に倒れるフィリーを見つける。


「フィリー! 大丈夫!?」

 慌てて駆け寄り、抱きかかえる。

 見たところ、特に大きな怪我はない。けれど、フィリーは私になにも反応を示さない。


「ちょっと、フィリー! フィリー!!」

 首筋に指をあてる。

 ……脈はある。浅いけど呼吸もしている。良かった。生きてる。

 ……けど、なに、この不安。


 いくら揺らしても、フィリーに反応はない。ただ、目を閉じて眠ったように意識を失っている。

 フィリーの眠りはいつも浅い。物音一つですぐに目を開けるくらい。

 こんなこと、今までになかった。


「なにが……あったの? なにかの、魔法?」

 そうだ、あの黒いローブを着た存在。あれが、フィリーに何かをやっていた。

 そして私も――


「――ぉぃ」

 静寂の空間に、じじっ、と物音が響いた。

 それと同時に、誰かの声が響く。


 その時私は気がついた。何か機械じみた作動音と、辺りが強い光に照らされていることに。


 目線を上げ、辺りを見渡す。

 それは、すぐに私の目に入ってきた。

 中央に設置された、浮かぶ“石碑”が輝いていた。


「な、なに……?」

 石碑に取り付けられた水晶玉が強い光を放っている。それはプロジェクターのように手前に広がっていて、石碑の前に、人一人が入れそうな光のもやが生まれている。


「――ぉぃ」


「へ!?」

 光のもやから、何かが聞こえてきた。

 これは――人の声?


「――ぉぃ、――に、だれ――るか?」

 私が近づくごとに、その声は大きくなっていく。

 ところどころ、擦れていて、電波が悪い時の携帯電話音声のようになっている。


「――誰か、いないのか?」

 私が前に立った瞬間、突如、クリアに聞こえてきた。

 もやの中で、人の影が立っている。


「いるよ、あなたは……? これは、なに?」

 石碑にはめ込まれた宝石が輝く光を打ち出して、光るもやを作り出している。

 私はそのもやの前に立っている。


「――か? 俺は――」

 もやの中の人物が言葉を止める。


 その人物の姿はうねった磨りガラスのようなもやに覆われて、把握することができない。


 ざらついた音声のせいで分かりづらいけど、多分、男の人だ。


 その男は何故か、笑ったようだった。


 自分自身をあざ笑うかのように。


 そして、一拍おいてから、続けた。

 

「俺は――『人間』だ。この腐った世界に生まれた、ただの『人間』だ」



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