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群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――  作者: 宮島更紗/三良坂光輝
一章    ――生まれの片一羽――
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浮き雲のお菓子4 『おじいちゃんの思い出』


 水につけ込んで膨らんだリリス大豆をすりこぎでこれでもかって程、しっかりとすりつぶす。その後お鍋で焦げ付かないように注意しながら煮込む。

 そして煮上がった後は、お母さんから貰った古着で作ったこし布で絞る。

 ……こうしてこし布に残った絞りかすがおばぁちゃんの言う『浮き雲の絞りかす』……つまりはおからだ。

 何度かこし布でこした後のおからが残っていない液体……豆乳の熱を冷ました後に、仕上げがある。

 小さなカップに入れた液体を豆乳に流し込み、豆乳と混ぜ合わせる。

 そして、カップに流し込んで、蒸し器に並べて熱を加えれば完成だ。


「……できた……。懐かしい」

 私の前にあるタライの中に、それはあった。水の中で真っ白な雄姿を見せつけながら泳いでいる。


 絹ごし豆腐。昔、私が人間時代、ダイエットしてたころに良く豆乳から作ってた。

 まさかまた拝める日がくるとは思っていなかった。


 浮き雲の忘れ物って名前のお菓子と言われたのが盲点だった。日本人の感覚だと、普通、お豆腐をお菓子と思わないから。

 でも私は知っている。辛いダイエットしていたから分かってる。

 お豆腐に蜂蜜とかかければ、罪悪感なくデザートとして食べられることを。


 問題はお豆腐の必需品、『にがり』だった。

 海が近くにないもんだから、海水が原料の『にがり』が売ってない。流石にどこにも売っていなかったし、誰も持ち合わせていなかった。

 じゃあ、ククルのおばぁちゃんはどうやってお豆腐を作ったのか。


 それは代用品だ。


 この世界にも卵はある。そしてお酒があるから、お酒からできるお酢もある。

 お酢の中に卵のカラを入れて何日間か放置しているとお酢が卵のカラを溶かして、良い感じの凝固剤に変わってくれる。

 お酢だけでも固まってくれるんだけど、ちょっと弱いから人間時代はこうしてにがりの代用品を作っていた。


 白くて丸くて口溶けがよい柔らかな雲のような食べ物。水っぽくてほんのり甘い。そして絞りかすができるもの。

 この全てに一致する食べ物なんて、豆腐以外には考えられない。


「待っててね、ククル。今日こそは必ず、あなたにおばあちゃんの味を届けるから」

 決意新たに、固まったお豆腐を引き上げた。



 できたての豆腐を崩れないように壺に詰めて、私は再び街の外にあるわらぶき屋根の平家に足を運んでいた。


「……」

 おじいちゃんがスプーンで掬った密がけの豆腐を口に入れ、ゆっくりとアゴを動かす。


「……どう?」

 もうコレがだめなら、お手上げだ。おばあちゃんは私の知らない調理法で謎の料理を作っていたことになる。

 おじいちゃんがスプーンを皿の上に置いた。

 そして――


「これだ。この味だ……この味こそ、ばぁさんが作ってくれた『浮き雲の忘れ物』だ」

 おじいちゃんの両目からだくだくと涙が溢れ落ちる。


「よ、良かった……さ、ククル、食べてみて」

 私からお皿に盛った豆腐を受け取り、ククルは珍しそうな顔をしながらスプーンで掬ってそっと口に運ぶ。


「……美味しい。おじいちゃん、ノエル。これ、美味しい!」

「そうじゃろう、そうじゃろう」

 よ、良かった。お豆腐って口に合わない人もいるからちょっと心配してた。

 ククルは気に入ったのか慌ただしくスプーンを動かし、みるみるうちにお豆腐を平らげてしまった。


「……ワシが旨そうにコレを食うのを見ながら、ばぁさんは常々言っていたよぉ。いつかコレを、孫に食わせてやりたいってなぁ。孫が喜ぶ顔を見たいとなぁ……おかげさんで願いが叶ったよぉ。ありがとう。ありがとうなぁ」

「……良かった。ホントに、良かった。おかわりもあるよ」

 壺から新しいお豆腐をよそう。それを尻尾を振りながら受け取るククル。

 ……っていうか、今更ながらそのぬいぐるみみたいな服、まさか自前の毛皮なの?同じ色の尻尾が動いてるし。


「ありがとうなぁ、サキュバス種のお嬢さん。カビは持って行きな。後でククルに案内させよう」

 そういえば、最初の目的はそれだった。

 すっかり忘れてたよ。


「……もう一つだけ、頼みごとをしたいんだが、いいかのぅ」

「……いいよ。なに?」

 乗りかかった船だ。まだ頼みごとがあるならなんとかしたい。


「この子に、この料理を、『浮き雲の忘れ物』の作り方を教えてやってくれんか。ばあさんの料理を、どうかこの子に伝授してやってくれないか?」

 なんだ、そんなこと。だったら、元からそのつもりだったよ。


「そんなの、当然だよ。今度、お家においで。これだけじゃなくて、色々お料理教えてあげるね」

「ホント!? いいの!?」

 私に向けキラキラと邪気のない瞳を向ける。


「うん。いっぱい覚えて、おじいちゃんをビックリさせようね」

 文字通り飛び上がって喜ぶククルを微笑ましく見つめる。

 可愛すぎでしょ。……これで、私の企み、『この可愛い子をお家に持って帰る』が達成できた。

 ……ちゃんと帰すけどね。

 とにかく、久しぶりにお豆腐も食べられたし、私も満足だ。


 このふたりの笑顔が見られて、満足だ。


 諦めずに頑張って、本当に良かった。

 


「……なんか、ガツンとこねぇ」

「あぁん!?」

 相変わらず失礼なことをぬかすフィリーに睨みを利かせながら、食卓の中央で湯気を出す鍋からお豆腐をすくう。

 今日の晩ご飯は湯豆腐だ。お出汁ごと炊いたお豆腐に薬味をのっけて食べる。

 お豆腐を作れるようになって、私のお料理レパートリーは大幅に広がった。


 後は、醤油とお味噌だ。

 熟成に時間がかかるからまだ作れていないけれど、時間の問題だ。


 夢の和食ライフまで、あともう一歩だ。


お母さんはお豆腐を気に入ってくれたけれど、お父さんとフィリーはもっと味が濃いものが好きなんだって。

 でも大丈夫。だって、まだ日本人が誇る最強の調味料、味噌と醤油が控えている。


 今は味が薄いとのたうちまわっているフィリーも、醤油とお豆腐の組み合わせを知ったら、きっと気に入るはずだ。

 味噌があれば濃いめの味付けもできるから、フィリーが気に入る日本食も作れるはず。


 それまで、首を洗って待っていなさいよ、フィリー。



 私はいつか絶対、あなたに美味しいって言わせてみせる。




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