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群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――  作者: 宮島更紗/三良坂光輝
一章    ――生まれの片一羽――
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魔法の洗濯機4 『セイレーンの贈り物』


 エプロンは無事キレイになってクラーケン食堂へと戻っていった。

 石けん水を三度入れ替え、私が親の敵のように擦りに擦って汚れを出し切った。その後ウェンディの水玉でこれでもかってほどすすぎ洗いしながらハピネルの柔軟剤で仕上げをした。ウェンディが言っていたけれど、見違えたようなエプロンを見て、クラーケンのオッチャンはすごく喜んでくれたらしい。


「つ、疲れた……やっぱり楽な方法なんてないんだね……」

 行政区の片隅にある喫茶店で、私は両手をだらんと垂らしたまま、カウンターにおでこをくっつける。

 もう指先ひとつ動かない。


「うん……良く考えたらさ、私らが思いつくようなことなら昔の魔族も考えついているはずだよね。面倒でも、コレが一番良い方法だからコレなんだろうね」

 私と同じ格好をしたウェンディが洗濯板をぺちぺち叩く。


「大丈夫かなぁ~、ウェンディちゃんも、ノエルも。良かったらコレ食べて」

 三人の中で一番魔力も体力も使わなかったハピネルが山盛りの焼き菓子と紅茶を差し出してきた。花魔法でね。


「ありがとう、ハピネル……あ~あ、夢の魔法って結局、昔の魔族が考えた、この洗濯板がそれだったんだね……」

 長い時間向き合っていたお陰か、洗濯板のギザギザに愛着を覚える。


「ううん、違うよ~」

 ハピネルが私の言葉に反応し、のんびりと言葉を発する。生気を失った顔だけを向ける私とウェンディを交互に見わたし、ハピネルは続けた。


「ハピネルはねぇ、みんなで色々と相談して頑張ってみるの楽しかったよぉ。みんなで魔法を出しあって、エプロンがキレイになったときは嬉しかったよぉ」

 まあ、私は炎魔法の出番がなかったから、擦り役だったけど。

 無事エプロンがキレイになった時は、私も嬉しかったけど。


「お洗濯が楽になるような魔法はなかったけれど、みんなで力を合わせたこれも、夢の魔法なんじゃないかなぁ。……うん、きっと、そうだよ」

「は、ハピネル……良いこと言うねぇ、だから私はハピネルがやめられないとまらないの」

 いつの間にかハピネルの真後ろに立ったウェンディが頭を撫ではじめる。


「うぅ~? なにをかなぁ?」

 煙が出そうなほどの撫でつけに戸惑うハピネル。


「うん、でもホントそうだよ。あれだけ汚れきってて、キレイにするのが無理だって思ってたエプロンも、私たちの魔法でなんとかできた。力を合わせれば、不可能なんてないんだね」

 どうしようもない汚れだって、みんなの力を合わせてお洗濯すればいい。

 またその時がくるまでは、洗濯板だって十分に役立つ道具なんだ。

 今回、それを強く思い知った。


 ごめんね、洗濯板。役立たずだなんて言っちゃって。


 私の気持ちが通じたのか、洗濯板がきらりと輝いた気がした。


 これからも、私の相棒としてよろし――


「あっいたいたー! みんな、ここにいたんだねー」

 突如、喫茶店の天窓が開き、バサバサと緑色のセイレーンが降りてきた。

 足には小さめのタルを抱えている。


「エア、どうしたの? なに、そのタル」

「うん、リレフにお洗濯のこと伝えたら、作ってくれたのー。洗濯機」

「はいぃ!?」

 エア以外全員から間の抜けた声が上がる。


 どん、と床にタルを置いたエアは、自分の翼の中に翼の先を突っ込む。

 そして、手回し用のハンドルを引き抜いた。


「じゃーんっ! 名付けて、手回しくるくる君だよー!」

「て、手回しくるくる君!?」

 相変わらず謎ネーミングセンスだけど、それはどうでもいい。

 驚愕する私たちを置き去りに、エアが手際……翼際良くタルの蓋をあけ、中からザルを取り出す。

「この中にお洗濯物を入れて、タルの中に入れた石けん水に漬けるんだって。後は蓋をして、その蓋をこのハンドルで回せば、中でザルが回るんだよ」

「な、なんてこと!?」

「そ、そんな方法が!?」

 ザルが回るってことは、お洗濯物も中で回転する……つまり、洗濯機と同じ原理を手動でできちゃうってこと? リレフ頭良すぎでしょ!


「すごいねぇ、すすぎはどうするのぉ?」

「た、たしかに! ハピネル、いいところに気がついた!」

 完全に食いついているウェンディが目をかっぴらいてタルに顔を近づけている。


「この下のところに穴が空いてるんだよー。洗うときはこのお酒の栓みたいなの付けといて、その後に栓を外せば――」

 た、確かにコルク栓みたいなのがくっついている。

 つまりこれを外せば――


「石けん水は抜けていく! その後にまた栓をして、新しい水を入れればいいってことね!?」

「そうそうー。お風呂場でやってみてねー」

 確かにお風呂場だったら水が出る蛇口みたいなのがある。


「しかも、しかもだよ……水をからっぽにしてザルを回したら……?」

「だ、脱水ができる!? エア、あなたのツガイは天才なの!?」

 完全に食いついた私たちを見て、エアがニヤニヤしている。


「凄いでしょー。壊れないように作るのに、結構、材料費高かったんだよ」

 確かにハンドルも蓋もしっかりしている。これなら、十年くらい使い続けても持ちそう。


 ……材料費?


 ……。


 ……はっまさか、この子、私たちにコレを売る気!?


「いやいや、でも、どうせお高いんでしょ? 私、そんなに手持ちないよ」

「ふふぅん、……そう思うでしょ? ……それがね、コレだけの機能がついてお値段なんと――」

 ウェンディの耳元でエアがなにやらゴニョゴニョささやく。


「そんな安いの!?」

「しかも、今ならなんと、すすぎ脱水に便利な大型ハンドルまで付いてくる!」

「お得すぎでしょ!? 買う!! 絶対買う!!」

 う、うん。なにか深夜の通販番組見ている気分。でも買うけど。少しぐらい高くても買うけど。


「よーし! じゃあみんな、私のお店まできてー」

 エアの号令に合わせ、三羽の翼付き魔族が天窓から騒がしく飛び去っていく。


 そして急に静まりかえる喫茶店。


 ……。


 エア、なにか忘れてない?

 ……私、飛べないんだけど。



「この洗濯機、ホントに便利ね」

 後日、お家のお風呂場で、お母さんが洗濯物を詰めたタルのハンドルを回しながらニコニコしていた。

 普段は手が荒れるのを嫌がってお洗濯したがらなかったのに、我が家にタルが来た途端、珍しがって進んでお洗濯をやるようになった。ホント、タルがあるだけで大違いだ。


「お母さんも、リレフに会ったらお礼言っといてね。後、あんまりやりすぎると手まめができるからほどほどにね」

 ハンドルを回し続けるのも楽じゃない。なんて贅沢を言いだしたらキリがないけれど、もう少し改善の余地はありそうだ。


 お母さんが言うには、似たような装置が人間世界にはあるらしい。本に載っていたんだって。その装置は自分の手で回す必要がないらしい。

 本のタイトルを忘れてしまったみたいだけど、お母さんが思い出したら、図書館で借りて見てみようと思っている。


 面倒くさいと思っていることも、工夫次第でどうにかなる。

 元々私が住んでいた世界はもっと文明が発展していたけれど、きっとこんな風に面倒くさいを便利に変えようと、みんなが試行錯誤した結果なのだろう。


 こっちの世界だってそれは同じだ。

 魔法がある世界だけど、物だって工夫次第で、どんどん発展していく。


 魔法が使えても、不便なことはまだまだ沢山ある。けれど、こうやって工夫してみるのも楽しかった。

 生活が楽になるように試行錯誤してみる。それは時間がかかることもあるかもしれないけれど、魔族の寿命は長いから、成功しても失敗しても、絶対私にとってプラスになることだ。


 だからこれからも、色々と工夫して挑戦してみよう。



 あ、後、ごめん、洗濯板。ごめん、私の『元』相棒。

 ……あなたと歩んだ魔族人生。きっとずっと、忘れない。


 お風呂場の片隅に立てかけられた洗濯板から、小さな水滴が流れ落ちていった。



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