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群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――  作者: 宮島更紗/三良坂光輝
六章    ―― 禁忌要塞 ――
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 驟雨5   『おかえり』


【ロキ ウィングブリッジ内部】


「おかえり」

「……ただいま」

 三度目の挨拶を終え、ノエルは膨れ面を見せながら俺の前へと着陸した。

 クリスタルの壁に覆われた船着場は、相も変わらず俺とノエル、それに気絶しているのであろうスライム種の魔族だけがいた。

 プロペラを付けた船達がゆっくりと動き、軋む音を立てている。


「やはり戻ってきたか。こうなると、少し状況が変わってきたな」

「だから言ってるでしょ、戻れないって」

 最初にノエルが戻ってきた時は、途中で方角を間違えた可能性も捨ててはいなかったが、三度目ともなると流石にその可能性はないだろう。


「川から出ようとすると戻されるんだな。上空には上がってみたか」

「うん。途中で上と下がこうくるんって入れ替わったから、びっくりした」

 身振り手振りで伝えてくるノエルの言葉に頷き考えをまとめる。


 真っ直ぐに飛んでも、いつの間にかこのウィングブリッジへと戻ってくる。

 上に飛んでもそれは同じ。こうなれば、結論はたった一つだ。


「何らかの魔法攻撃を受けているな。魔族の仕業だろう」

 ノエルも同じ結論に達していたのだろう。反論もせずに俺を見つめている。


「私たち、閉じ込められたってこと……?」

「このウィングブリッジ周辺から出られないように何かしらのフィールドが張られているようだな。こんなことできる魔族に心当たりはないか?」

 答えは分かりきった質問だったが、案の定ノエルは首を振る。


「ないよ。前にも言ったけど、私はお母さんと一緒にいる魔族のことはよく分からない」

「最悪、お前ですら敵対する可能性があるということだな」

 何も言わないノエルを尻目に辺りを見渡す。縦横無尽に乱反射するクリスタルを組み合わせてできた壁に紛れ、階段のようなものが設置されていた。

 どうやら上に登れるようになっているらしい。


「ノエル、お前はここに残れ。俺は少し、辺りを探ってみる」

「え、やだよ。あなたがここにいて」

「俺はこれでもいくつかの修羅場を潜ってきた。……魔族がここに居るのならば、何かしらの違和感に気がつけるかもしれない」

「……じゃあ、一緒にいく?」

「こいつはどうするんだ?」

 俺が指差す先には、ゆっくりと呼吸を続けるスライム種の魔族がいた。


「……抱えられないよね。つるつるしてるし」

 俺も持ち上げようとしてみたが、形が定まっていないのもありうまく持ち上げることができなかった。


「ここに置いていってもいいが、目覚めたときに誰かがいたほうがいいだろう。心配するな。俺は弱いからな……もし魔族と出会っても、ここに逃げ戻ってくる」

「心配してないし、自信満々に言わないでよ」

 まだ何か言いたそうなノエルを置いて、階段へと歩みを進める。

 見上げるとそう高くもなく、外へと通じていそうだった。


 ノエルを遠目で見つめ、声をかける。


「もし、なにかあったら叫べよ。俺はすぐにでも――」

 不意に、記憶がフラッシュバックを起こした。

 あの日、まだ俺が白石悠人という日本人だったころに。


 そうだ。あの日、常見重工ビルの屋上で、物音を探りに行った時、俺はこうして同じ言葉を――


「……どうかしたの?」

「どわっ!?」

 いつの間にか、俺の目の前にノエルが立っていた。心配そうに俺の顔を見上げている。

「……いや、なんでもない。お前こそどうした。見送りにでもきたのか?」

「まさか、……私も行くよ」

「はっ?」

「私も行く。……何かあったら、嫌だから」

 目の前に立つ魔族の、急な心変わりに頭が疑問符で満たされる。


「仇を心配するのか?」

「違うよ。ただ……何かあったら、嫌だから。……前に、嫌なことがあったから」

 はっきりしないノエルの言葉だったが、察することはできた。


 ノエルは過去、仲間を見送り、そこで何かがあった経験があるのだろう。

 俺の心配というよりも、その過去の経験から、同じ事を避けようとしている。恐らくはそういった感情からの行動だ。


 その心情を俺も重ね合わせる。俺もあの日、常見重工ビルの屋上でつばさから離れ何者かに襲われてつばさの命を失った。

 それと同じ事を繰り返すと、夢見が悪い。

 例えその相手が憎しみを持つ相手だとしても。


「……分かった。一緒に行こう」

 ノエルが微笑みを浮かべ、その顔から慌てて目を逸らす。

 ……危なく、目を奪われそうになった。


 サキュバスは目から目に魔力を移し、他人を魅了するが、その対策は考えていた。

 だからこうして会話もできると思っていたのだが……気をつけた方がいいかもな。


 このサキュバスはそれとは全く別の、他人を魅了する方法を持っているのかもしれない。




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