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群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――  作者: 宮島更紗/三良坂光輝
一章    ――生まれの片一羽――
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精霊の霊酒3 『ニンフの謎かけ』


 精霊ニンフが生まれの間と呼ぶ場所は、二つくっついたボールのもう一つ、私たちがいた島とは反対方向にある島の中央にあった。遠目でも分かるほど広く中央の森が開かれていて、丸い段ができている。丸い大きな花壇があって、そこに色とりどりの花が咲いているように見える。花壇の中央付近には大きな曲がった木が生えていて、根っこの辺りが緑色に輝いている。丁度中央には光るマユがあった。曲がった木の先から見えない糸で吊るされているかのように、宙に浮いていて、その下は白い魔方陣が縦横無尽に走っていた。


「うわぁ……」

 空から見ても綺麗だったけれど、降りたってみるとさらに美しい光景が私を待ち構えていた。

 エメラルド、ルビー、サファイア……色とりどりの宝石を抱えた精霊ニンフたちが数え切れないほど飛び回っていて、中央のマユと花のつぼみを行き来していた。

 ガーネットっぽい宝石を持った一匹の精霊ニンフが花のつぼみに降り立った。待ち構えていたかのようにつぼみの口が上空へと向きを変え、少しだけその身を広げる。

 精霊ニンフは自分と同じくらいのたけを持つガーネットをつぼみの口に一生懸命に持っていき、ぎゅっと絞った(・・・・・・・)

 宝石から流れ出した同じ色の液体がつぼみの中に入り込んでいく。

 ぽん、と音を立ててガーネットが小瓶に変化した。その口を別な精霊ニンフが植物の種で閉じていく。

 私の理解を遙かに超えた世界が広がっていた。


――『五十年に一度、私たちには新たな姫が生まれ落ちる』

 精霊ニンフの声が脳裏で反響を繰り返す。


――『姫は生まれる前に、ああしてマユに篭もり、宝石を絶え間なく流し続ける』

 思わずマユのほうを見ると、白く輝く糸の間からたくさんの宝石がこぼれ、雨のように魔方陣に落ちていっている。


――『宝石の蜜を花のつぼみに与え続ければ、新たな私たちが生まれる。こうして、私たちはこの島で反映してきた』

 一際輝くつぼみを見ると、広がった花びらに、少し背丈の小さい精霊ニンフが座り、大きく欠伸をしていた。


――『そなたらが精霊の涙と呼ぶものは、蜜を取り切った宝石の出がらし。私たちにとって不要となったものだ』

 栓を閉じた小瓶は一カ所にまとめられ、ちょっとした小山のように同じ小瓶が摘まれている。


――『一本と言わずに、いくらでも持っていって良い物だよ。けどね、たとえ出がらしでも、姫の流した涙を簡単に魔族へ渡すのは気が引けるかな』


「ならどうすりゃいいんだ?」

 痺れを切らしたフィリーの一言に、またクスクス笑いが広がっていく。


――『一つ、謎かけをしましょう。それが解ければ、小瓶を一つ持ち帰ってかまわないわ。その時は、私たちはなにもしない』


「……もし、間違えたら?」

 沸き上がる不安を抑えながら、私も頭の声に尋ねる。


――『そなたらはなにも持たずに帰るがよい。その時も、私たちはなにもしない』

 謎かけの正解が導き出せれば、小瓶を持ち帰ることができる。間違えても、そのまま帰るだけ。

 リスクはないように思える。……だからこそ、不安が過ぎる。簡単に決断しちゃだめ。何か裏が――


「上等だ! 答えてやるぜ!」

「ちょっ! フィリー!?」

 この単細胞! もうちょっと考えなさいよ!


「こんなもん、ウダウダしててもしょうがねーだろ。どっちにしろオレらはなにもされねーんだろ。だったらやったほうがマシだ」

「だったらいいけどさぁ……ああ、もういいや。謎かけはなに?」


――『契約成立ね。……クスクス』

 いつの間にか、飛び回っていた精霊ニンフたちが宙で止まり、私たちを見つめていた。全ての精霊ニンフの嘲笑を受けてるんじゃないかと思うほどのクスクス笑いが私たちの頭に広がっていった。



――『絶え間なく力が湧き出る愛がある。とこしえに見目麗みめうるわしい空がある』

 ……。


「そ、それで?」

 続く言葉に待ちきれず、催促するように尋ねる。


――『絶え間なく力が湧き出る愛がある。とこしえに見目麗みめうるわしい空がある』

 ……。

 え、え!? も、もしかして――


――『絶え間なく力が湧き出る愛がある。とこしえに見目麗みめうるわしい空がある』

「それで終わり!? それ、謎かけなの!?」

 精霊ニンフたちがニヤニヤとこちらを見つめている。


 え、なに!? 謎かけって、下が大火事上が洪水~とかそんなんじゃないの?

 待って、意味が全然分からない。だからどうしたの。

 いやまて……落ち着いてノエル。つばさの頃、良くこの手のナゾナゾ問題は悠人から出されていた。だいたいは私が答えられなくて悔しがる様を見て、悠人がニヤニヤしていたけど。


 今の精霊ニンフは、その時の悠人と同じような顔しているから、キチンと思考すればちゃんと解けるような問題なんだと思う。それが解けない様を見て楽しんでるんだから。


 ……なんかムカついてきたかも。絶対、解いてやる。


『絶え間なく力が湧き出る愛がある。とこしえに見目麗みめうるわしい空がある』

 みめうるわしいって、綺麗だってことだよね。

 難しく言ってるけれど、つねに力が出る愛があって、つねに綺麗な空があるって言ってる。

 ……それってなんだ? ってこと?

 いやいや、当たり前。当たり前のことだ。愛があれば、力も出てくるだろうし、空はいつでも綺麗だ。

 謎かけが謎かけになっていない。そんなの、解ける筈がない。


「フィリー……分かる?」

 一縷の望みをかけてフィリーの顔を覗き込み、あ、ダメだと考え直す。

 フィリーには期待できない。

 普段からあまり深く考えるタイプじゃないから、ここは私がしっかりしないといけない。


「ずりーぞ、そんなん、問題じゃねーだろ」

――『絶え間なく力が湧き出る愛がある。とこしえに見目麗みめうるわしい空がある』

 クスクスと嘲笑する笑いが徐々に大きくなっていく。

 もう私たちには問題文しか言わないつもりなんだろう。それで私たちがあたふたするさまを見て、楽しむ。

 本当に性格が悪い……。ほんと、悠人みたい。


 ……待って。

 そうだ。悠人だ。

 悠人なら、こんな状況で、どんな問題を出すだろう。たった一問の問いかけなんだから簡単すぎる問題は出さないとして、難しすぎる問題も出さないと思う。

 それだと、いじわるにならないから。

 発想を変えたら……え、なんだそんなこと!? と思えるような問題を出すと思う。

 それで、解けなかった自分に悔しがる私を見て、ニヤニヤする。それが悠人だ。

 きっと、この精霊ニンフも同じだ。


 答えを聞いたら、なんでそんなこと、分からなかったんだろうと思うような問題なんだ。


 ……。


 だめだ。それでも分からない。愛は力になるし、空は綺麗だ。

 一体、この精霊ニンフが何を問いかけているのか、まるで分からない。


「ダメだ。さっぱり分からねぇ。ノエルはどうだ?」

「私もダメ。……諦めたほうがいいのかな?」

「オレは頭はさっぱりだ。頭の良いおめーが解けねぇなら……諦めた方がいいかもしれねーな」

「そうだね。……やっぱお父さんには兎とかでいいのかも」

 私は生まれ変わりなだけで、別に頭良いわけじゃないけれどね。フィリーみたいに力もないし、ホント、役立たずだ。

 せめて何か一つ長所とか――。





―― !! ――



 頭の中に閃光が走った。今の状況と、過去の経験がパズルのように組み合わさり、急速に一つの答えを導き出す。

 謎かけの、答えが生まれ落ちる。


「分かった……分かったよ。フィリー」

 フィリーは少し驚いた顔をしたけれど、納得したかのように頷き、精霊ニンフたちを睨みつける。

 そして、――言った。


「それでこそおめーだ。なら、叩きつけてやれよ。あのムカつく顔をしている精霊ニンフらにな」

 分かっている。答えは導き出せた。……でも――


 でも――それは、それって……、


「それ、私の口から、それ言わせるの……?」

 精霊ニンフたちは変わらずニヤニヤした顔を私たちに向けている。

 ホント、性格悪い。

 ホント、悠人みたいだ。



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