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群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――  作者: 宮島更紗/三良坂光輝
六章    ―― 禁忌要塞 ――
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 海戦1   『キューリア湾海戦』

【ロキ ワーダー海域】


 海賊船と聞いたらどんな物を想像する?

 屈強な男達が乗り込みヘイホーヘイホー言いながら帆を張る。

 陽気な船長がおもぉぉかぁじいっぱぁいと歌を歌いながら船の舵輪をぐるぐる回す。

 船内に入れば上半身裸の酔っ払いがそこらに雑魚寝していて、大砲と球が乱雑に散らばっている。

 大体こんな感じだろうか。

 その想像した船は、元の世界ではガレオン船という。


 そのガレオン船に似た外見を持った物がこちらの世界にも存在する。

 シセラ艦と呼ばれる工業ギルドが開発した軍用艦だ。

 四本の帆柱を掲げ、船首には巨大な女の天使像が槍を持ち、船尾にはそれぞれの国の紋章がデカデカと掘られている。

 内部もガレオン船と似たり寄ったりだが、砲台は存在しない。火薬の開発されていない世界だからだ。

 代わりにラキーユと呼ばれる大型の弩に近いクロスボウが設置され、側面から巨大な鉄の槍を発射することができる。


 いざ有事となれば、その艦に兵達が二百人単位で詰め込まれ、各々の役割を果たしながら戦いを待つ。

 今回の開戦において我が国ルスランのシセラ艦は百四十隻用意された。

 事前の調査によればターンブルの艦隊は丁度百隻。数の上では十分に圧倒できる。その予定だった。

 ……こんな状況を何というか知ってるか?

 俺の故郷では、戦争において数で有利な状況は負けフラグと言うんだ。


 そして俺の嫌な予感通り、キューリア湾海域戦開戦から数時間、ルスランのシセラ船は九十隻までその数を減らしていた。  



【キューリア湾海戦】


 敵が左右に集まってる。また始める気だ。

 司令艦として特別に建造されたシセラ艦の看板に立つ一人の男に物見の従者から通信石で連絡が入った。

 煌びやかな刺繍が施された仕立ての良い絹の衣、その上に軽装の皮鎧を纏い、両手両足には大きな宝石がはめ込まれた金属の甲を着けている。

 初雪を思わせる純白の髪を持ち、彫りの深い顔立ちの中にルビー色の瞳が輝いている。

 男の名はロキ。大陸二大大国と呼ばれる内の一つ、ルスランの現国王に授けられた第五男子であった。

 船尾に設置されたドーム状の天蓋を持つ楼甲板。木象眼と金で飾られた美しい空間は本来ならば王族が優雅に海上の生活を楽しむために存在していた。だが、ロキには既にそのような余裕はなく、輝く通信石を握りしめ悪化していく戦況を脱しようと思いを張り巡らせていた。

 楼甲板にはコの字上に三つの長いすが置かれ、二十名以上は座ることのできる広さがあったが、ロキ以外の士官は全て対応に追われていて、赤いフードを被った女従者が一人、邪魔にならないよう隅に座っていた。

「まるで海竜リヴァイアサンに襲われているようですわね」

「うるさい!」

 女の背から続くようにして、背もたれには伝承時代の物語が描かれている。その中の一つには海竜リヴァイアサンと激しく戦い勝利を収める英雄の姿が描かれていたが、皮肉にしてももう少し題材があっただろう。と罪のない設計主に対し、ロキは怒りすら覚えていた。


****


 大陸の東半分を支配するルスラン王国。その領土を南に下っていくとディファールと呼ばれる半島型の湿地帯に差し掛かる。その西半島とターンブル帝国が領土を主張するルパート島東側。その二つに挟まれたワーダー海域を大陸側に抜けるとキューリア湾にたどり着く。ルパート島と大陸に挟まれた広大な海は巨獣の出現もなく、海洋資源も海産物も豊富に採れるということで、度々両国の諍いが発生していた。


 問題の根源はルパート島中央の経線が丁度大陸の中間に位置している点であった。

 大陸側は中央に流れる大運河エスロンを目安として西側を帝国が、東側を王国が支配していた。その流れを組むのであれば、真南に位置するルパート島東半分は王国の領土である。ルスラン側の主張はそうであった。

 だが、帝国側はそれを黙ってはいなかった。ルパート島西側は諸島となっており、浅瀬が続いた後に大陸と繋がっている。豊かな資源を持つキューリア湾から抜け、船舶を外海へと航海させる際は必ずルパート島東側のワーダー海域を抜けなければならなかった。

 島東半分を制する者はワーダー海域を領海とすることができる。それは即ちキューリア湾も制するということ。

 帝国側は先行占領権を主張し、ルパート島全体の領土を主張。対する王国側はディファール地方西の海域に軍事拠点を次々と建設し、ルパート東部並びにワーダー海域を領土領海であると主張し、帝国側の商船を対象に関越を設けた。

 それに反発した帝国側が遂に宣戦布告を宣言する。

 

 ルパート島の北、キューリア湾側にある大軍事拠点クフイーダより九十隻の艦隊が出向した。目標はワーダー海域に設置された王国の軍事拠点。

 それに対抗するべく、王国側は百四十隻のシセラ艦を集め、帝国を向かい撃つべく待ち構えていた。

 この戦いの重要性を察し、総司令官は王太子であるテュールが名乗りを上げる。率いる歴戦の海将軍に混じり、第五王子ロキの顔もあった。


 シセラ艦二十五隻を与えられたロキの受けた指令は単純であった。

 ワーダー海域の第一防衛線を任せる。近づく帝国のシセラ艦を撃破しろ。

 

 先発隊がキューリア湾内で小競り合いを演じ、帝国のシセラ艦を分断させながらワーダー海域内におびき寄せる。それを待ち構えたロキの艦隊が撃破する。

 テュールの考えた作戦はこうであり、戦局は思惑通りに進行した。


 ロキはこの作戦に対し、最も基本である単縦陣を布陣として選んだ。

 与えられたシセラ艦を二つに分け、二本の線を引くように横に並べる。側面にラキーユ《クロスボウ》を多数搭載したシセラ艦において最も戦火の期待できる陣形であった。


 逃げる王国の船を追い、帝国のシセラ艦が列を成して侵攻して来た。

 王国の船が線と線の間を通り過ぎた瞬間、ラキーユの集中砲火を浴びせる。そんなロキの思惑は、発射指示を出す寸前に脆くも崩れ去った。


 帝国のシセラ艦が次々と帆を畳み、急速に方向を変えて待ち構えていたロキ率いるルスラン艦隊目掛け向かってきたのだ。ターンブルとルスラン、両方のシセラ艦の距離がみるみる近づいていく。

 帝国シセラ艦の船首に席を置く、天使の槍が太陽を反射し煌めく。


「衝角攻撃だと!?」

 並大抵の出来事では動じないロキが驚きを露わにした。

 それもそのはずだ。大型の鉄矢を噴射するラキーユが開発されたのち、船はその重さを受け入れるべく大型化が進んでいた。

 それに合わせ、敵船に突撃し船体に取り付いて兵を突入させる衝角攻撃と呼ばれる戦法は時代遅れとなり廃れていった。

 その時代遅れの戦法を、帆のないシセラ艦が自在に海上を動き回りながら行ってきた。


 進攻を続ける帝国の船に向け、ロキ艦隊のラキーユが次々と発射される。巨大な鉄の塊が荒れる水面を平行に抜け、船体を前面から突き破る、はずだった。だがその鉄槌は敵船船首に備え付けられた天使の像にはじき返される。


「ミスリル……」

 王国の一般兵が異変に気付き次々と呟く。帝国のシセラ艦、その前面を覆うようにミスリル金属が張られていた。

 それでなくとも側面と比べ、矢を命中させることが難しい突撃体制の船。最も狙いを定めるのに適した船首を希少な剛金で覆われ、王国の船はすべなく突入を許す。


 ミスリルの槍を持った天使像が、王国のシセラ艦を突き破った。


 海面を伝い、司令艦までその衝撃が伝わってくる。

 突撃を受けた船は浸水し、その制御を失った。突撃した帝国の船はすぐにその場を離れ、自由自在に次の獲物へ向かい動き出す。


「やられた……プロペラシャフトか」

 広大な大陸内で覇権を争う二つの国。それとは別世界の記憶を持つロキが、悲痛の声を上げた。

 



戦争勃発までの記述はフレーバーテキストです。

なんとなくこんな状況だと思っていただければと思います。

誰か地図作って・・・w

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― 新着の感想 ―
[良い点] 海戦!大好物ですよー(о´∀`о) [一言] おかえりなさいませ。首を太くしてお待ちしておりました(*'▽'*) 海、という新たな舞台で今度はどんな活劇を魅せていただけるか、ワクワクが止…
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