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群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――  作者: 宮島更紗/三良坂光輝
一章    ――生まれの片一羽――
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ノエル9 『絶望の群』

 それは大群だった。

    一つの群れ。

     固い結束。それを思わせる。

 花畑に黒い意思が固まっている、ただでさえ暗闇に染まっていた花が真っ黒に塗りつぶされ、蹂躙されている。中心に巨大なゴブリンがそびえ立ち、前方をフルプレートのゴブリン達が固める。巨体に隠れるように杖のゴブリン集団が控え、囲う様に普通のゴブリンが群れをなす。

 沢山の松明がゆらゆらと、進軍している。

 その大群は一つの意思を持ってるかのように、ゆっくりと、私たちを見上げ、丘を登る。

 私は、いや、私たちは本物の絶望を知った。この場に居る四人とも既に死を覚悟している。


「……ははっ、笑うっきゃねーなもう」

「リレフ……」

「エア、ちょっと、無理かも」

 三人とも身動き一つせず、ゴブリンの集団を見下ろしている。まだ距離はある。だけど、分かっているのだ。

 今の体力では

       戦ったところで、

       逃げたところで、

       捕らえられ、

       引き裂かれ、

               殺される。


「……ノエル、エア。逃げろ。俺が注意を引きつける」

「え、ボクは!?」

「……私のために死んでくれるんだー。ありがとね、リレフ」

「死ぬときは二人一緒だよ、くらい言って上げなよ。エア」

 軽口を叩き合う私たち。四人とも助かる道はないと分かってるから。なにをしたって結果は変わらない。もう体も満足に動かない。逃げても捕らえられるだけだ。

 誰かがおとりになるのであれば、もしかしたら他の三人は助かるかもしれない。だけど、そんな事は誰も望んでない。私たちが今まで人生を供にしてきたツガイを、友達を見捨てるはずがない。


「……死なせねぇ、俺は認めねぇ……こんな、こんな終わり方」

 フィリーは最後の気力を振り絞り立ち上がる。


「……フィリー、この前はごめんね」

「あ!?」

「私酷い事言ったから……謝りたかったけど、きっかけなくて」

「なに……言ってんだ。こんな時に……なに言ってんだ!」

「聞いて、フィリーの言葉、一緒に生まれて来て良かったって言葉。嬉しかった」

「それ以上言うんじゃねぇ、なんで、この場で! なんで……もっと」

 他に言うタイミングはない。もう私たちは、終わったんだから。


「その言葉の答え、聞いて。私も――」

 バン、という音。揺れる視界。ほっぺたが痛い。叩かれた。


「ちょっと! 今ノエルが頑張って―」

「うるせぇ!」

 エアの言葉を大声で遮る。フィリーは私に向かい言う。


「ぁきらめてんじゃねーよ。お前が、死ぬ運命認めてんじゃねーよ! 死ぬのは俺一人だ!」

「なに勝手に決めてんの! こんなの、どうしようもないじゃない」

「だからなんだ! 俺は知ってる。お前がどんだけ頭がいいかも。俺には理解できない本とか沢山読んで、色んな事を知ってて……」

「私だってね、できる事とできない事あるよ!」

「んなこと分かってんだよ! それでも、どんなに大変でもあがけよ。自分の頭使って、生きる方法考え出せよ! それができるだろ、お前は」

「できないよ! 私普通の……普通のヒトだよ」

 そうだ。前の世界でも私は別に頭が良かった訳ではない。ただの、普通の、高校生の女の子だった。そんな私になにを望むのか。


「なんでもひたむきで、前向きで、一生懸命なお前が……それがお前だろ! 最後に失望させんなよ……」

「勝手に夢見て――」

「あー、喧嘩してる暇はないかな。最後くらい、仲良くすればいいのに」

「まっあの二人らしいんじゃない?」

 リレフはエアの膝に座り胸に寄りかかっている。

 エアは翼で優しくリレフを抱きしめる。

 どちらも幸せそうだ。……このリア充め!


 ゴブリンの大群はもう数メートル先まで登って来ている。死が迫ってる。一団を滅ぼした私たちを警戒しているのか、決して歩みは早くない。だが、確実に迫ってきている。


 フィリーの奴、言い逃げか。言われなくても私だって考えた。どうにかこの大群を分散できないか、皆で逃げる事ができないか。考えた。でもどうすることもできない。もう策も時間もない。


 頭がいい? 違う、私はフィリーより人生経験が多いだけだ。

 小さな頃から難しい本を読めていたのも、元の世界の記憶があったからできただけだ。


 なんでもひたむき? 前向き? 十六年間なにみてきたの。私はそんな大それた存在じゃない。

 私は一人じゃなにもできない。だから頑張っていただけだ。生きていく為に、魔族の事を理解しようとしていただけだ。魔力だって大きいだけで、エアちゃんみたいにコントロールが上手くできる訳じゃない。リレフみたいにいつも冷静に物事見られる訳じゃない。


 一生懸命? そんなことない。何度も諦めた事がある。灰色の猿の時だって一度は諦めた。私の事なんてなにも分かってない。十六年間なに見てきたの。

 一生懸命って……それってフィリーの事じゃん。こんな私を待っていて、信頼してくれていて、今だって、私の事を思って身を犠牲にしようとしてくれている。

 だから、


――私もフィリーと生まれて良かったよ――


 最後にこの言葉伝えたかったな。馬鹿フィリー。

 あー! もういいや、腹いせに、残った魔力をあの集団に撃って、潔く死のう。楽しかったよ。皆と協力して、色々できて




……協力……







 ……!?


 それは一つの考えから始まった。そこに色々な情報、経験がパズルのピースの様に組み合わさっていく。本の知識で肉付けされていく。動くことが鈍かった筈の脳みそが回転していく。


         できるの?

                                      そんなこと、

                    無理?


      ……でも、



――『最後に、失望させんなよ』


     ――!!――


 分かった。フィリー。あんたの言うとおり、最後の最後まで、どれだけ大変でも足掻いてやる。私はなんでもひたむきで前向きで一生懸命、なんでしょ? だったら最後までその夢見せてやる。


「みんな、」

 私は立ち上がり三人を見渡す。


「なんか思いついちゃった。コレを乗り切る方法」

  三人とも目をまん丸にしている。どうせこのままだと死ぬんなら、やってみますか。


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