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群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――  作者: 宮島更紗/三良坂光輝
三章    ―― 魔都哀愁 ――
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 魔族と人間7 『愛情の否定』

【ノエル 行政区】


 何もかもを焼き尽くそうと、紅蓮の炎が燃え上がる。私の火炎弾は白い男を包み込み、骨まで溶かして焼き尽くす……筈だった。それだけの威力のものを放った筈だった。

 私は見た、火炎弾が男に当たる直前に……


「なんのつもり? エア」

 エアが放つ緑の風が白の男を吹き飛ばし、赤いフードを被った人間が白の男を連れ去った瞬間を。

 火炎流が撃ち消えたその場所には何も残っていなかった。男の姿は消えていた。


「なんのつもりって……こっちのセリフだよ。ノエル……」

 エアが空からゆっくりと広場に降り立つ。

 ずっと上空で私達の戦いを見ていた。それは分かっていた。いざという時は、私の手助けをしてくれると思ってた。それなのに……。


「なんで……なんであの男を助けたの? なんで人間の肩を持つの!?」

 いつものように、一緒に敵を倒そうよ。

 いつものように、力を合わせようよ。


「落ち着いて。ノエル……あの人はノエルに殺されるようなことを何もしてないよ」

 エアの言葉に耳を疑う。


「何を言ってるの? ……あの人は、部下に命じてお父さんを殺したんだよ。あなたのツガイを殺したんだよ!?」


「それはそうなんだとしたら……残念だと思うけど、きっと事情があるんだよ」

 残念……残念の一言で済ませるの?

 そうか……エアは忘れてるんだ。死ぬときは一緒だと誓い合っていた程の、ツガイへの愛情を。


「エアはいいよね……誰か死んでも、どうでもいいって思えるから。私は忘れられないんだよ。落ち着いてなんかいられないよ!」

 口から自然に出てしまった毒を受けて、エアが唇を噛み締める。


「リレフ……前のツガイのこと? ……そりゃ私だって、好きだったんだなとは思うけど……その気持ちを忘れるのはしょうがないじゃん。私が悪い訳じゃないよ」


「リレフのことを軽々しく『前の』だなんて言わないでよ! なんでそんなに平気な顔してられるの!」

 覚えてさえいれば、きっと私と同じ心情だったのに。


「そんなことない! リレフは交尾前だったからしょうがないけど、私だって両親が心配だったり、家庭を持ってる友達が心配だったりするよ」


「……なんで、なんでそこにリレフがいないの……? そんなの酷いよ……」


「分からないよノエル……なんで酷いなんて思うの? 生まれのツガイと結ばれなかったのは残念だけど、今の相手への希望があるから私は平気なんだよ?」

 今の相手。リレフは過去の存在。


「ブルシャンが攻められて、沢山の魔族が死んで……両親は生きてるかどうかも分からない。そんな状況で、それでも絶望してないのは、今のツガイへの希望があるからだよ。希望が一つでもあれば、魔族は生きてけるんだよ!」

 そうか。そうなんだ。魔族は常に希望を一つ掴まされているんだ。

 希望を、無理矢理、掴まされている。

 例えその希望がツガイのシステムに作られたものであっても、それに気がつかないで、それにすがって生きている。


「なんで見たこともない相手のこと……そんなに信用できるの」


「沢山いる魔族の中で、私と心の中が繋がったんだよ。相手だって同じ。お互いがお互いのことを好きだって分かってる。他に求めるものなんてないよ」

 私の考え方が間違ってるんだ。エアをこうして攻めるなんて、筋違いもいいとこだ。それは分かる。けど……。


「そんなの間違ってる……そんなの本当の愛情じゃない」

 言わずにはいられなかった。そしてもう、何もかもが嫌になった。


「ごめん……エア。今はあなたの顔、見たくない」


「ノエル……」


「エアが作られた愛情に縛られてる姿を見たくない。そんなの操り人形と変わらない」

 私の発言にエアが初めて表情を変える。涙を浮かべながら、厳しい表情で私を見つめる。


「……分かった。もういいよノエル。理解できないならしょうがないよね」

 エアが羽ばたき空に舞い上がる。


「最後に、これだけは言わせて」

 エアは最後に。と強調する。私は漠然と、確かにこれが最後なんだろう、と予感した。


「確かにまだ出会ってないけど、私は今のツガイが大好き。この気持ちが作られた、だなんて思っていない。これが……ツガイの愛情が作られた愛情ものだ、って言うなら……」

 エアの目には、はっきりと私に対する拒絶があった。


「生まれのツガイだってそうじゃん。リレフ……それとの過ごしてた日々も作られた愛情ってことになるよ。私は生まれてずっと操り人形だって言いたいの? 両親の愛情だってそうだよ。家族だって作られた愛情になっちゃうよ」

 私の前で仲良くしていたエアとリレフ。それすらも虚像だ、偽物だ。私はエアの前でそう宣言したのと変わらない。


「……魔族の愛情を……魔族の全てを否定しないでよ」


 エアは最後にそう呟いて、涙を流しながら飛び去っていった。


        ****


【ロキ 領事館】    


「離せ! カロリーヌ! いいから離せ!」

 エアの風に飛ばされた後、俺の体は馬鹿力のカロリーヌによって領事館の中まで引きずり込まれていた。


「駄目です。絶対に離しませんわ」


「ふざけんなっ! 戻せ! 今すぐ戻せ! あいつはこの手で殺してやる」

 俺は戦わなくてはならないんだ。首を跳ねなくてはならないんだ。

 ガラハドを…… 俺の仲間を殺したアイツを!


 ふいに視界が真横に飛んだ。

 暴れる俺の頬にカロリーヌが平手を打ったのだ。足の力が抜け、そのまま床に倒れ込む。


「ちょっとは落ち着いて下さい! あなた、状況分かってらっしゃいます?」


「カロリーヌ……お前」

 頬の痛みと反比例して、急速に頭が冷え込んでカロリーヌの行動の意味を理解する。


 冗談でもないこのタイミングで王族の俺に手を出す。貴族ならその意味を理解していない筈がない。そこまでしてでも俺を止めたかった。

 ……そしてコイツは俺の指示を無視し、水路に向かわずに俺の下に来た。それほどまでに、俺の心配している。


「あのガラハド様が為す術無く殺されたんですのよ? 今のあなたに一体、何ができるんですか?」

 カロリーヌはそう言って、俺の頭を掴み、力任せに自分の胸へと引き寄せ抱きしめた。


「今あなたが戦って……死なれでもしたら、私はどうすれば良いのです。碌でなし王子と運命を供にしろと仰るのですか? あなたを信じて付き従っていた私に対してあんまりじゃありませんか?」

 カロリーヌの心臓の鼓動が聞こえてくる。激しい動悸だった。怖いのだろう。これ以上仲間が死ぬことが。


「あの魔族と戦う力は私達にはありませんわ。今は大人しくルスランに戻って次に備えましょう」


「諦めろ……ってのかよ。ガラハドの無念を忘れて……帰れってのかよ」


「違いますわ。戻って力を蓄えて……勝てる戦いをすればいいのです。得意の悪巧みで罠に嵌めてしまえばいいのです。あなたが死んだら、他に誰がそんなことできまして?」

 近づけば洗脳される。離れれば、高火力の炎魔法。対するこちらは、エメットのメイスと俺の剣のみ。

 カロリーヌの弓が壊れている上に、俺が持っている魔石も戦闘用ではない。聖域も使い切った。魔族の協力も期待できない。


 ……駄目だ。どう考えても勝てるイメージが沸かない。戦力が圧倒的に、足りていない。


「すまない。カロリーヌ。……もう大丈夫だ」

 カロリーヌの温もりを感じ、鼓動を聞きながら考えているうちに少しは落ち着きを取り戻せた。カロリーヌもそれが分かったらしく、俺の頭に絡めた腕をほどく。


「……ガラハドの遺体を置いとけない」

 そして落ち着くとガラハドの死が実感として襲いかかる。せめて遺体を持ち帰り、墓に入れなくてはならないだろう。シャルル……この世界の母親にも伝えなくてはな。


「少し様子を見てから回収しましょう。あの女の子がまだいるかもしれませんから」

 くそ……自分の無力さ加減に腹が立つ。

 

「……もう一つ。これも伝えていた方が良いでしょうね」


「他に何かあるのか?」

 カロリーヌはため息をついて続けた。


領事館ここの地下に魔族が捕らえられております。恐らく、あのサキュバスの被害者ですわ」


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