父さん、春がくる。
この作品は以前投稿していたものをそのままコピーしたものです。
これは幼き日の俺の話だ。
「ちょっと!かえして!!」
「やーだよーだ!おれがつかうんだよー」
昔、俺には妹がいた。
今は親が離婚してどこに行ったか分からないが、その頃は俺達兄妹はそれなりに一緒にいた。
理由として母親の体が弱く、体を休めるため家によくいて、一方父親は母親や俺達兄妹の費用ためにも夜遅くまで働いていた。
そのため子供が親の目に見えるところにいてほしかったため、兄妹でいることが多かった。
しかし、家では父親の収入の多くは養育費などに回していておもちゃなどもあまり多くなかった。
なのでこのようなおもちゃのとりあいっこは稀なことでは無かった。
それでも生活自体は何の支障は無くのびのびと育った。そののびのびとした生活が及ぼしたのか俺は少し乱暴な生活に育っていた。
「こらこら、一緒に使いなさいね」
母親も体のせいであまり叱ることも出来なかったので俺の妹への態度は悪くなっていった。
それを我慢する妹も根に持つようになっていった。
そして、いつしか俺たち兄妹はあまり話すことも無くなった。
せいぜい、話すとなることは晩御飯で残りの食べ物の奪い合いや争いごとでしか無くなった。
そして、その生活も短く、終わりを告げた。
「「え!?母さん、離婚するの!?」」
その話が来たのは俺が小2のころだった。
どうやら父親が海外へ転勤するらしい。なので一年間に一回会えるかどうかのあまりそのことで会いたいと嘆いているよりはもういっそのこと縁をプッツリ切ったほうがいいと思ったらしい。
残念な話だったがなんと父さんは海外に行くにあたって給料の増加を申請したところ、二割増しにしてくれるとのこと。
その増加した給料を毎月送るとなって、この結婚生活を終えることとなった。
その際、子供たちをどうするかと話したが、妹が海外に行きたいとのことで、しかし俺はここにいたいので
別々になるという形になった。
実際、妹とは一緒にいたいとも思わなかったのでその話も早々に決まることに。
そして、俺たち兄妹の生活は終わっていった。
そして時が経つ。
あれから母親が再婚した。歳もそれなりに若く、優しい人だった。
しかし、母さんはそれから壊れ始めていった。
「あああああ~!会いたいよぉ~!あの人に会いたいよぉ~!!」
「そ、そうか、会いたいな、うん、そうだな」
「なんで会えないのさぁ~!ねぇ~!」
愛が消えぬ離婚だからこそ起きた出来事。
あまりにも酷い形となっていた。
説明すると、今母さんが離婚した父さんに会いたいと今の父さんに愚痴を言っている状態だ。
誰が自分より昔の結婚相手と会いたいと愚痴を言うやつと暮らしていけるのだろう。
結果、母さんは離婚することになって、俺は常識人ではない母さんについていこうとはならなかった。
そして母さんはバツ2のレッテルを貼られた。子供に裏切られ、この場所に自分だけが残されて。
そしてまた時が流れ数年後の夏。
俺は今、高三の受験生となっていた。
しかし、受験といっても俺は父さんのコネで父さんの会社には入社が高卒で行けるのであまり緊張感はない。
実はこの父さん、会社の課長をしていて、上司に自分のことを推薦したら入社できることになった。父さんどんだけ信頼されてるんだろ。
まあ受験に落ちても入社は出来るし、受験に気を入れる必要はない。気楽にやっていける。
そして今は友達と下校して家に着くとこだった。
「えーっと、鍵はどこだ?」バックの中に手を突っ込んだ。がさごそと教科書を右へ左へと動かし、鍵を探す。
あれこれ本当にどこだ?
そうやって探している間に車の音が聞こえてくる。
この少し古くさく感じる重たいエンジン音は俺の父さんの車だ。
つまり父さんが帰ってきた。
鍵は父さんに開けてもらおうと思い、バックを漁る手を止める。
しばらく待つと車のエンジンが消えていった。
ドアが開き、俺を見た瞬間、家に入っていない事実を見て驚いたがすぐに状況を理解してドアを開けてくれた。
俺は父さんに続くように家の中に入っていった。
「それで、学校はどうだった?」
父が問う。
「まあいつも通りだったよ」
最近は何も目立ったことも無く、学校は授業と休み時間の繰り返しのようにすぐに過ぎていっていた。
「そうか、それならよかった」
「ところで、今日もまた行くの?」
今度は俺が問う。
「まあな」と、力弱く発言したのち続けて、
「早く結婚してお前にも楽させたいしな」と俺のことを心配していることを伝えてくれた。
「父さん頑張ってよ、俺のためにもさ」
そんな冗談混じりけに父さんに伝えて、父さんは立ち上がる。
そのあと父さんは洗面台で髪を整え、服をラフな格好にして、古くさいエンジンの音と共に走っていった。
「さて、ゲームでもするか」と何か考えがあるわけでもなく、ゲーム機の電源を入れる。
それが俺の日常。
何かラブコメみたいなことがあるわけでもない。
ただ時が過ぎて、大人になっていく。
何か起きて欲しい気持ちもある。
でも、今のままでもいい。
もはや俺に、めぼしい感情は無かった。
しかし、現実。
何かが起きた。まるで意味が分からなかった。
だが、それは平凡の終わりだった。
あの日がくるまではただの平凡だったのに。
「ただいま」
父さんが帰って来た。
ただ、ただいまと言ったその声は少し声が高くて、テンションが上がっていたのが分かった。
「何?いい人でも見つかったの?」
「ああ、いい人がいたよ」
そんな軽く言うのであればかなりいい人なんだろう。
さらに父さんは続けて、
「なんと今日家に来てくれますよ」と上機嫌に言った。
「まじか」と俺は声に出して驚き、気構える。
「まあ、あと五分ぐらいで着くよ」と父さん。
恐れもあったが、俺は楽しみに待っていた。
そして。
ピンポンと音がなり、父さんが玄関に向かう。
ドアを開ける音がして緊張してくる。
どう話しかけようか、いっぱい考えた。
しかし、その準備虚しく、新しい母さん候補に対する言葉がああなってしまった。
「お邪魔します」
その声に違和感を感じた。
どこか聞いたことのある声。しかし、なにかトーンが低い。
いつ聞いただろう、古い記憶な気がする。
しかし、その容姿を見たとき全ての謎が解けた。
「お前、妹か…?」
もし、知らない人だったら意味の分からない発言。
しかし、俺は分かった。
こいつが、俺の妹だということに。